9 留まる理由
「ルヴィとレイに、わたしの任務へ同行することを命じます」
旦那様やシエル様と別れて私室に戻った後、わたしはレイを呼び出してルヴィと共に目の前の長椅子に座らせた。正面にはわたしが、わたしの後ろにはリジーが控えている。ルヴィは普段の服装に戻っているものの先ほどまでの王女としての振る舞いが抜け切っていないのか、使用人として主人と同じように座らされても堂々としている。高貴な雰囲気も少し残っていますね。
対するレイは正体を隠した王侯貴族……というわけでもないので、使用人としてのスキルをリジーに磨かれたからこそ恐縮している様子。
事前に話をしていたリジーは平然としているけど、いきなり任務への同行を命じられた二人は驚いて固まっていた。
「任務……?」
「ええ。ルヴィにはさっき言いましたけど、わたしはロードなので任務というものがあるんですよ。それは知っているでしょう?」
わたしの言葉に二人一緒に頷く。ルヴィにはさっき言ったけど、レイには初対面の時すでにわたしがロードであるということを明かしているからね。リジー含むわたしの側近、現時点でわたしの正体を知らない人はいない。これはとても都合が良く、利用しないのはもったいないことだと思いませんか? 任務への同行は前々からいつかはお願いしようと思っていましたし、ルヴィにもロードであることを伝えたのでちょうといい機会だと考えたんですよ。
「ユリウスのロードに与えられている役割は『皇族の影』です。任務内容は主に諜報、国内外の不穏分子の暗殺、裏からの護衛などになりますね。二人にお願いするのはあくまでも『同行』なので直接手を下すのは大体がわたしになると思います」
「僕達の仕事は?」
「わたしの任務の手伝いになりますね」
二人とも絶句していますね。でも気持ちは分かりますよ。これらのことが任務ということは今までわたしもやってきたということになりますし。ルヴィは任務中に出会ったとはいえお互いの仕事風景は見ていなかった。まあルヴィは自分も暗殺者ギルドにいただけあって、驚きはしても嫌悪感を抱いているようには見えませんが。
「……一つ聞いていい? 暗殺って言ってたけど、リーシャ様は誰かを殺すことに抵抗はないの?」
「ありませんよ。そうすることで皇帝陛下にとって、ひいてはウェルロード国民にとって不利益となるものを排除できるのであれば。任務で暗殺を命じられるのは相応の理由があるからです。そしてわたしは何の罪もない人間を手に掛けたりしない。だから抵抗など覚えたことはないです」
何の罪もない人間を殺そうとしたことはないに決まってる。これまでも、これからも。わたしの中に無実の人間を殺すという選択肢は絶対にないのですよ。
レイ達兄弟のご両親は通り魔に刺されて亡くなったそうです。だからこの反応も理解できる。任務とはいえ、自分のやっていることを正当化するつもりはありません。人殺しに変わりはないので。それでも、私利私欲のために誰かを殺す人間は絶対に許せない。やるのならせめて、相応の罰を受ける覚悟でやりなさい。わたしはそのつもりですから。
「人は弱いんです。こちらから動かなければやられてしまう。わたしの使命は皇族とウェルロード帝国の国民を危険に晒さないこと。その任務を果たすためならこの命だって懸けられる」
「それはリーシャ様がそうしろと言われて育ったから?」
「さあ、どうでしょうね」
わたしはそれが自分の生まれ持った使命なのだとしても、やりたくないことはやりませんよ。物理的に逃げればいいだけの話なんだから。その時その場所に留まる理由があるから逃げ出さないんです。わたしは自分の意思でこの国と皇族を守りたいと思っている。だからこんなことをしているんですよ?
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