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7 嘘と真実

「アルランタでは王位継承権を放棄することを国王に認められれば、その後の人生に干渉されることは絶対にありません。なので僕はそれを利用し、王位継承権は放棄したということにしているんです。実際には第一王女メルヴィンのままですが。つまり、『王位継承権を放棄した』というのは嘘になりますね」

「嘘……?」

「はい。アルランタには王子が二人いるのでそれに巻き込まれないようにするために。このことを知っているのは現時点でアルランタの王族と極一部の重鎮のみになります」


 メルヴィン・アルランタ第一王女は王位継承権放棄の話をした際、家族と大喧嘩になったが、何とか説得してようやく了承された。これが周知の話だけど、実際には継承権問題に巻き込まれないようにとしっかり話し合って決めた。

 だから僕の長兄である王太子が王座に着き次第、本当のことを話して王族に戻る予定。王族籍を抜けたことになっている以上大々的なものは難しいけど、今でも王女としての権力はあるんだよ。

 普通は順当に王太子が王座に着くんだけど、なぜか今代は次兄の第二王子と派閥ができてしまっているんだよね。本人達はうざいくらい仲良く僕のことをかわいがってくるんだけど。


「王位継承権を放棄したことになってからは王城を離れて暗殺者ギルドに所属していたんですよね。この国で言うところのロードに似ているものです。驚かれはしましたが、家族はこのことを知っていますよ。現在リーシャ様に雇われていることもね。男装しているので王侯貴族には今のところ気付かれていないはずだけど」


 アルランタの暗殺者ギルドは公式だから意外と有名なんじゃない? ギルド内で発言力のある強い暗殺者は王族に仕えている人がほとんど。だから僕がリーシャ様の護衛になるためにギルドを抜けても狙われることはなかった。僕がトップクラスの強さを誇っていたのも理由の一つだろうけど。


「いきなり情報量がすごいわ……つまり、継承権争いに巻き込まれないために嘘を吐いているのであって、本当は王位継承権を放棄していないということ? 王族籍もそのまま?」

「ええ、そういうことです。まあ僕はこんな感じですし気を遣う必要なんてないですよ」


 あはは、と笑って言えば頭が痛いとでも言わんばかりに額に手を当て、何かを考え込んだ末に頷いた。きっともう考えることを諦めたんだろうねぇ。僕もそれが賢明だと思うよ。自分でもどこまでを誰が知っているのか分からなくなっちゃうくらいだし?


「さっき、まだ何か隠していそうだなと思ったけど、きっとこれだわ。わたしの勘は正しかった……」

「ああ、そういえば僕の母である王妃殿下はこの国の元侯爵令嬢ですよ。たしか先のフェルリア公爵夫人と友人だとか何とか……」

「意外な繋がりだな」

「その話は以前お義母様とお茶をした際、わたしも聞きました。ルヴィ、それならたまにはアルランタに帰った方が良いのではなくて?」

「いや、大丈夫です。帰ったら兄上達がしつこく構ってくるので。毎回逃げるの大変なんですよあれ」


 まあ年に一度くらい報告も兼ねて帰れば十分だろうって感じですね。僕ももう二十二歳なんだけど、兄上達はいつまでも小さい妹だと思ってベタベタしてくるから鬱陶しい。今くらい物理的な距離があるほうがいいんだよ……


「メルヴィン・アルランタは王国の王女ですが、今はただの『メルヴィン』です。王女として王家に戻れとのお達しがあった場合は撤回することになるかもしれません。ですがひとまず今は……リーシャ様。僕はリーシャ・ロード・ユリウス様に忠誠を誓います。ただの『メルヴィン』としてはあなたの剣となり、盾であることをお約束しましょう」


 長椅子に腰を掛けるリーシャ様の前で膝を折り、最敬礼をすれば彼女は一瞬止めようと手を伸ばした。それはきっと()()()()が王女であると知ったからこその、無意識の行動なのでしょうね。虐げられて育ったのにとても育ちが良い。エミリア様のおかげかもしれません。

 エミリア様は本当にお優しくて素敵な方だった。たぶんリーシャ様が思っているよりも仲良くしていただいてて、僕も大好きで大切な方だったんですよね。だから亡くなったという話を聞いた時は泣きましたし、しばらくは夜も眠れませんでした。


 リーシャ様からのお声掛けがあるまで黙って頭を下げていれば、少し迷った後に『ただのメルヴィンとしてならよろしくお願いします』と言ってくださった。


 ────父上。わたくし、一生このお方にお仕えしたく思います。ここでの生活はとても楽しい。そして何より、こんなに主として尊敬できる方は他にいませんもの。だからお願いです、王家に戻れという命令はご遠慮くださいまし。兄上が王座に着いてもこのままでいさせてくださいな。わたくしはこのままただの『メルヴィン』としてこの人生を終えることを望みます。


 ◇

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