6 メルヴィン・アルランタ
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「皆様、『王女メルヴィンが王位継承権を放棄している』ということはご存知ですね? 実はこの話には続きがあるんです。聞きますか? ちなみに国家機密とも言えるくらいの話です」
「メルヴィン、君はそう易々と自分の事情を話していいのか?」
「別に誰にでも話しているわけではありませんよ? ですがここにいる皆様は意味もなく他人の事情を吹聴したりしない。そうでしょう?」
僕の生まれが隣国アルランタの王族であること、心と体の性別が違うこと。今まで他人に話したことがなかったこれらのことを聞いて、この部屋にいる誰も態度を変えたりはしなかった。もちろん旦那様の側近であるシエル様を筆頭に、多少は混乱しているのが見て取れるけど。
ここにいる全員、まともに関わるようになったのは僕がこの屋敷に来てから。だけどそのたった数ヶ月で僕は彼らのためなら命を懸けられると思ったんですよ。理由? そんなの、ここでの生活が何物にも代えがたいほど楽しいものだったからに決まってるじゃないですか。
主人であるリーシャ様は最低限任された仕事をやっていれば自由に過ごさせてくれる。旦那様はライバルだけど尊敬できるところがたくさん。シエル様やリジー様からは学べるものがあるし、レイくんをからかうのは楽しい。屋敷の雰囲気もすごく温かい。僕は縛られるのが嫌いだから、ここでの生活はすごく自分に合ってると感じる。自分より強い人に囲まれて生きるのも悪くないし。
だから僕は少しでも長くここにいさせてほしい。そのためにはまず、自分の主人に誠実であるべきだと思った。だから素性を明かしたんだよ。
「……ならば、その前にわたしのことも話します。ウェルロード帝国には皇帝直属で仕える五家、『ロード』という存在がいるのは知っていますよね? そのうちの一柱が我が血筋、『ユリウス』になります」
「そしてまた別の一柱が『フェルリア』だな」
「……うん? ロードの正体って、そんなに簡単に聞いていい情報でしたっけ?」
「あら、あなたが王女であることも同じくらいだと思いましてよ? しかもルヴィ、追加で特大な情報を教えようとしているでしょう」
それはうん、その通り。国家機密相当だし? でもリーシャ様と旦那様がロードって話、予想してはいたけど直接本人の口から聞くと恐ろしい話だね。ロード夫婦ってことでしょ? 文字通り最強じゃないですか。
「僕が王女だという話は王女としての顔を知っている人になら正体がバレることもあると思うのでできるだけでいいんですけど、これから話すことは絶対に他言無用でお願いしますね」
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