4 カミングアウト
◇
「失礼致します。旦那様、お仕事中でした?」
「ああ。どうした?」
「旦那様に紹介したい方がおりまして。ですがお忙しいようなので後でも」
「いや、それくらいなら構わない」
「そうですか? ではお言葉に甘えて。ありがとうございます」
ルヴィの素性を聞いて少し話をした後、わたしはリジーと二人で旦那様の執務室を訪れた。ついさっきまで一緒にいたルヴィはどこに行ったのかと言うと、とあることのためにわたしの部屋で準備をしている。そんなに時間がかかるものでもないし、そろそろ彼もこっちに来るんじゃないかな?
「でしたら私は退室致しますね」
「いえ、シエル様。あなたもここにいてください」
「え? ですが……」
「ご本人の希望です。旦那様と行動を共にすることが多いのなら彼も、と言っておりましたので」
「そういうことでしたら、分かりました」
「では、どうぞ。入ってきてください」
旦那様にテーブルの方へ来るよう伝え、わたしも旦那様の隣に座る。ちょうど部屋の前に着いたようだし、と扉の前にいるであろう人物に声を掛けると、侍女の手でゆっくりと扉が開かれた。隣を見れば旦那様は驚き、甘い笑みを浮かべてゆったりとした仕草で入室してくる女性を凝視していた。
近くまで来た彼女は何も言わずに一礼し、テーブルを挟んで向かい側にある長椅子へ腰を掛ける。
「失礼致します。ウェルロードのユリウス公爵様、フェルリア公爵様、シエル様、そしてリジー様。この姿では初めてお目に掛かります。────アルランタ王国第一王女、メルヴィン・アルランタと申します。以後お見知りおきを」
『メルヴィン・アルランタ』と、そう名乗った彼女は男性にも女性にも見える顔立ちをしている。そして黒羽色に緑メッシュという特徴的な色の髪、顔の造形の美しさを際立てるエメラルドの瞳を持っている。名乗った後に頭を下げず、扇で口元を隠したまま小首を傾げるような仕草をしたのはわざとでしょうね。かなりの小国出身でもない限り、他国の重鎮相手とはいえ、王族の方が身分が高いのは当然のことなので。
本人も言うように、アルランタの姓を持っているので生まれは隣国アルランタの王族。そして『メルヴィン』という名前は旦那様やシエル様もご存知のように、フェルリア公爵家でわたしの護衛として働く『ルヴィ』の本名と同じもの。
「……は?」
「リーシャ様とリジー様には先ほど素性を明かしました。こうした方が分かりやすいでしょうか」
そう言って特徴的な色の髪を頭の後ろで束ねるようにして持った彼女は、先ほどのまでのようなお淑やかなものではなく、無邪気な印象を受ける笑顔を見せた。
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