2 珍しいルヴィの姿
「旦那様と手合わせしたのは初めてですね。やはりとても強くていらっしゃる!」
「君の方こそ、強いのは知っていたが予想以上だな」
わたしに続いて旦那様含む他の四人も基礎トレーニングを終え、打ち稽古に移った。一番最後に終えたのはルヴィだったんだけど、完走したのは初めてだったから少し感動してしまった。どれだけ旦那様に対抗意識を燃やしているのかなとも思いますけれど、それで集中力が上がるのなら良いことなのでしょうね。……たぶん。別にわたしを巻き込まないのであれば好きにやってくれていいんですよ? 巻き込んでくるから注意しているのですし。
「旦那様、もう少し一撃に力を込められます? 男性は力があるのでそこを上手く利用するだけで戦況が大きく変わりますよ」
今でも十分なんだけど、もっと全体重を掛けるようなイメージでやってみてほしい。旦那様の武器は剣だから小回りは効かないし凝った技も使えない。それなら変に派手な技を使うよりも、シンプルな技に力を込めた方がよっぽど有利な状況に持っていきやすいと思うんです。
逆にわたしは短剣だから体重をかけて一撃を重くするよりも、軽くていいから攻撃の回数を増やした方が効果的。
「君はまさか何の武器でも扱えるのか?」
「王道なものは一応すべて練習していますが、例えばルヴィの専門である弓なんかだと、数で勝負するような感じになります。ルヴィは百発百中ですからそういう実力者を相手にすれば敵わないこともしばしば」
その場にあるものを何でも武器にしなければやってられないので、ある程度戦えるくらいにはしてるって感じです。その武器を扱うプロに正攻法で敵うわけがない。だから得意な武器だけでも徹底的に極めるようにしてますね。あとは毒を使うだとか、本来のものと違う使い方をするなどの工夫をしたり。
「旦那様と手合わせしていて思ったのですが、短剣と剣での打ち稽古はいいですね。剣を扱う人を相手にするとリーチが長い分こちらは間合いに入りにくい。短剣を扱う人を相手にしたなら攻撃のペースが速いから対応するのが大変。しかもどちらもよくある武器ですから実践に寄せた訓練ができます」
「メルヴィンが君の訓練を勧めていた理由が分かった気がするな」
「そうですか? それは良かったです」
「旦那様! リーシャ様との手合わせが終わったなら、今度は僕の相手をお願いします! 弓では負けないので!」
「あなたが弓を持つと本当に誰も勝てないから駄目よ。絶対『うっかり』とか言って危ないところを狙うでしょう」
目が据わっているルヴィにそう言うと、『そんなことないですよ!』と言ってわざとらしく笑っていた。恐らく先ほどの基礎トレーニングで限界を迎え、疲労を旦那様への怒りに変えたんだと思う。お二人の手合わせはルヴィの機嫌がいい時にやっていただきましょう。旦那様も一度くらいはルヴィの相手をしてみた方がいいでしょうし。……あ、わたしの旦那様への怒りがいっぱいになっている時にやらせるのもありですね。
「今日はここまでかな。屋敷内に戻りましょうか」
「リーシャ様」
「なに?」
「その……大切な話があるので、朝食が済んだら少々お部屋にお邪魔してもよろしいでしょうか」
「構わないわよ」
「ありがとうございます」
わたしを呼び止め、僅かに逡巡した後そう言ったルヴィは礼と同時に頭を下げ、逃げるように屋敷内に入って行った。大切な話が何かは分からないけれど、少し緊張しているみたいだった。
「一世一代の告白でもするつもりか?」
「それはないでしょう。でも珍しい姿を見せてもらいましたね」
「変な話でなければいいが」
「それは同意です」
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