14 せめて、わたしの手が届く範囲くらいは
「ルナ、大丈夫そうだった? ……うん、分かったありがとう。あなたはもう屋敷に帰っていてくれるかな? ここから先は危ないからね」
この子はわたしの相棒。幼い頃、初めて手懐けた薄い水色と黄色い羽が特徴的なインコで名前はルナ。この子は鳥だから怪しまれることなくターゲットを探れるんだよね。わたしの眼だけでは把握しきれないこともあるから、大体事前にこの子に調査をお願いする。もちろん自分でも確認するんだけどね。
今日の任務は中流階級の貴族の暗殺。クーデターを計画したという情報が入ったそうで、だけどその貴族は社交界ではそれなりに発言力のある人だから、暗殺がバレないよう慎重にやれとのことだった。それが長期の任務になった理由だね。一日で終わらせるって言っちゃったけど。
この帝国で、皇族は慕われている上にロードという懐刀がいるというのに、クーデターを企むとはなんて頭の弱い人なんだろうと最初に聞いた時は呆れた。
序列一位、フランクス伯爵家として身を隠している最後のロードであるわたし、リーシャ・ロード・フランクスの血筋の役割。それは『皇族の影』。主な任務の内容は諜報、スパイ、国内外の不穏分子の暗殺、裏からの護衛など。
今回のようにお馬鹿なことを考える人達もいるから、一体何人この手で殺したか分からない。もちろんそれがわたしの任務だから、暗殺対象に情をかけたことなんてないよ。だけどわたしの力は人を生かすものであり、殺すものでもある。暗殺対象に情なんてかけないけど、それでもせめてわたしの手が届く範囲で罪のない人は助けたい。普段人を殺している分、犯罪を犯していない人のことは全力で守りたいのですよ。敬愛する皇帝陛下の大切な国民でもありますしね。
わたしは非情なんだろうね。たとえ家族やリジー、皇族、夫となる公爵様であろうと、わたしが仕える皇帝陛下が命じたならきっと誰でも殺してしまう。それも躊躇いなく。わたし、殺した人の記憶は報告と後処理を終えたら記憶から無意識に消してしまうんですよ。もちろん完全にではないから、普通に思い出す時はあるけれど。
記憶を消してしまうのは、そのことを忘れたいからなんだろうね。殺した相手の記憶があって、後から思い出して。それがきっかけで腕が鈍るようなことがあってはいけないから。
「こんにちは」
「っだ、誰だ!?」
「はじめましてかな? ロードの一人、リーシャです」
にこっと微笑んで見せる。この一週間で完全回復ですよ! 公爵家ってやっぱりすごいよね! 今のわたしの笑顔ならちょっとは綺麗なんじゃない?
「ロードだと!? ……私に何の用だ」
「心当たりはありません? アレですよ、ほら思い出して。皇族の皆様に対しての反逆、クーデターです。まさか心当たりがないなんて、そんな馬鹿げたことは言いませんよね?」
「……言いがかりはやめろ」
「残念ながら証拠は揃っているのですよ。今回わたしに与えられた任務はあなたの暗殺です。大人しく殺されてくださいまし」
「そんなことをして良いと思っているのか!?」
一度静かになったと思えば、また騒ぎ出したね? 騒がしい人はあまり好きじゃない。だって面倒くさいじゃないですか。
「良いから言っているの、お分かり? あ、分からないから聞いたのですね。安心して、わたしは一撃で殺す派だからそんなに苦しまないよ」
だって殺したと思っていたのに、後から実は死んでいませんでした、なんてことになったらそれこそ面倒ですから。
後々大変なことになる可能性だってある。だからわたしは一撃で終わらせる。そんなに苦しまないと言ったけど、ほぼ無痛だよね。即死ですし。
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