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 ◇


「何度も言っていますが、本当に幸せな時間でした。旦那様はどうでしたか?」


 婚姻の儀が終わり、フェルリア公爵家に帰る馬車の中で旦那様に聞いてみた。ずっと穏やかな表情だったのでどんなことを考えていたのか気になったのですよ。


「そうだな……私は君のように義姉上やラファエル殿と親しくないから感動は特にしなかったが、君が心から祝福しているのはとても伝わってきた。だから良い時間だったと思うぞ。ラファエル殿とも気が合いそうだ」

「それは良かったです。お義兄様はすごく素敵な方なのでたくさんお話ししてみると良いと思います。ただ、普段はかなり口数が少ないのでご注意くださいね」


 あれはお義兄様の元々の性格だから、意識してそういう態度を取っているわけではない。聞き上手なので返答は少なくても、一緒に話していれば穏やかな時間を過ごせると思いますよ。


「それから旦那様、少しだけわたしの話を聞いてくださいますか?」

「ああ、どうした?」

「わたしが旦那様と結婚してからの話です。今だから言えることなので、これから先同じことを言うことはないと思います。ですが覚えておいていただけると嬉しいです」

「分かった」


 今日という特別な日だからこそ言えることですし、気持ちが高ぶっている今の内に言っておくべきだと判断しました。二度も同じことは言いませんよ。恥ずかしいので。


「わたしは旦那様と結婚して、たくさんのものを取り戻し、たくさんのものを得ました。それはたとえば自分自身の容姿だったり、大好きなお姉様との関係だったり。得たもので言うなら、ルヴィやイアン達側近が主ですかね。ルヴィとは元々関わりがありましたが、フェルリアに来てなかったら今ほど親しくなかったと思います。イアン達とは出会ってもなかったはずです」


 お母様から聞いたことがあります。どこかの国には『一期一会』という言葉があると。これは一生に一度の出会いや機会という意味。簡単に言うなら一生に一度の貴重な出会いを、この時間を大切にしよう、という想いが込められているのだとか。


「旦那様にはたくさんご迷惑をお掛けしました。申し訳ありませんけど、それはこれからも変わらないと思います」

「ああ。君の好きなようにすれば良い」

「ありがとうございます。ですが、それらを通して知ったこともあったのですよ」

「知ったこと?」

「……旦那様のいいところです。わたしはこの約三ヶ月で、旦那様の素敵なところをたくさん知りました。意外にも紳士的なところ、さり気ない気遣いをしてくださるところ。ふとした瞬間に優しさを感じることもありますし、あえて何も聞かないでいてくれるのも素敵なところだと思います。先ほどの、『好きなようにすれば良い』という言葉もですね。おかげでわたしは自分のやりたいことを遠慮なくできます。それが、自分のやりたいことを好きなだけできる環境を作ってくださることが、今まで自分の欲求を抑え込んできたわたしにとってどれだけ嬉しいことか分かりますか?」


 わたし、今まで全部我慢してきましたよ。興味があることを調べるのも、学ぶのも、実際にやってみるのも。未来のことを考えたものであっても思い付きで行動したり、独断で何かをしたりって、今までできなかったことなんですよ。領地の仕事に関わること以外、ほぼすべてを両親に禁止されていましたので。


 わたしはそれなりに好奇心旺盛な性格だと思います。だから人に話したり言葉に表すほど大きなことでなくても、日常の中で興味を持つことって本当に山ほどあるんですよね。それが今までできなかった分、旦那様に好きなようにすれば良いと言われて遠慮なく楽しんできました。


「旦那様はいつもわたしをからかってきますよね。間違いなく玩具扱いされているだろうと常々思っています。なので旦那様と過ごす日々は心穏やかとは言い難いです」

「…………」

「でも、なぜか一緒にいて疲れないんですよね。矛盾していると思います。心穏やかと言い難いなら、疲労感も感じるはずですから。ですがわたしは疲れるどころか安心してしまう時があるな、と少し前に気付きました。……自分でも自分の気持ちがよく分からなかったりします。ですが一つだけ言えることは、わたしは旦那様と結婚して毎日がすごく楽しいのです。飽きません。仕事をするだけの日々は退屈でつまらないものでしたが、仕事量が変わらなくても好きなことができる環境とそうじゃない環境では、見える景色が全く違います」


 一度わたしと入れ替わってみますか? なんて、そんなことをできるはずがありませんが……そうですね、わたしの今までの記憶をすべて見せて差し上げられたらいいのになと思います。そうすれば分かりやすいでしょう。お母様が亡くなって以来、心から楽しいと思えた日々は旦那様と結婚してからのものだけです。目に入る景色が綺麗に色付いているんですよ。灰色の世界なんてつまらない。


「長く話しましたけど、一言で言うなら……『ありがとう』という感謝の言葉に尽きますね。この七年間で一番充実していて、一番濃く感じられる三ヶ月でした。旦那様、本当にありがとうございます」

「……何と返せば良いのか分からないな。君がそんな風に思ってくれているとは考えてもみなかった。君にはいつも驚かされる」

「わたしだけこんなに幸せにしてもらっては不公平です。わたしも何か旦那様にお返しできたら良いのですけど」

「その言葉だけで十分だ。私は君がいるだけで楽しいしな。毎日突拍子もないことをしてくれる」

「……ご迷惑をお掛けしないようにだけ気を付けますわ」

「気にするな。迷惑だなんて思っていないからな。私は君が楽しそうにしていれば十分だ。君が任務関係で何かに巻き込まれるのは想像するだけで背筋が冷えるが……それも含めて、君との結婚生活だと思うことにしよう」


 ────何度でも言おう。今までできなかったこと、やりたかったこと、すべて君が飽きるまですれば良い。リーシャを縛り付ける家族はもういないし、私ならそれを許容してやれるからな。

                                       【第1章・完結】

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