133 あんなにかわいらしかったのに……
◇
「おはようございます。晴れましたね。ついに今日ですか……」
「おはよう。準備はできているか?」
「はい。あとは着替えて髪をセットしてもらうだけです。ユリウスの屋敷も整理して家具や調度品を揃え終わったと報告されました」
今日はついにお姉様とご婚約者の婚姻の儀。夏に近付き、少しずつ暑くなってきましたが、最近は雨の日が続いていました。三日前からはずっと晴れていましたが、昨日空を見ると微妙な雰囲気だったので少し不安でした。無事に晴れて良かったです。
「そうか。二時間後には屋敷を出る。それまでに準備をしておくように」
「分かりました」
さすがに義理の姉の婚姻の儀だからか、今日はしっかり目覚めているようですね。普段の意地の悪さが鳴りを潜めた無防備なお顔はちょっと好きなので見れなくて残念ですが、ほぼ毎日見ることができるのでまあいいでしょう。
現在の時刻は午前七時くらい。屋敷を出るのは九時頃で、式が始まるのは十時からです。披露宴も合わせて四時間近くあるので終わるのは午後の二時くらいですね。
わたし達とは違ってちゃんとした婚姻の儀なので、参列者も多いはずです。お姉様方とお話しできる時間は短いでしょう。
「それにしても、あんなに小さくてかわいかったお姉様が結婚ですか……早いですねぇ……」
「いや、君の方が年下で結婚も早かっただろう」
今もかわいいですけど、と付け加えて言うと見事にツッコまれてしまった。思わず旦那様を睨むけど、相変わらず涼しいお顔。その余裕の顔をいつか崩してみたいんですけど、そのいつかは一生来ないのでしょうね……
「細かいことはいいんですよ。それより、婚姻の儀が終わったら何か予定がありますか?」
「いつもの仕事くらいだな。何かあるのか?」
「いえ、特には。ただ、ずっと忙しそうにしておられたので、そろそろ休ませた方が良さそうだと思っただけです」
「心配してくれているのか?」
「……悪いですか?」
「いや……」
分かりやすく気にかけてくれたのは初めてだからな、と言われる。たまにはいいじゃないですか。だって旦那様、今日は婚姻の儀に備えて寝たのか元気そうですが、ここ最近ずっと目の下に隈がありましたからね。寝ない、食べない、喋る元気もないのかほぼ無口、そもそもほとんど執務室から出て来ない。
シエル様に聞けばロードの任務ではなく、ただの領主としての仕事だそうですが、ここまで酷いと誰でも心配しますよ。しかもこれが数ヶ月に一度は必ずあるそうです。わたしが言うのも何ですが、本当に過労死しますよ。
「それ以外の予定がないのなら、今日は帰ってすぐに寝てください」
「昼間から眠れない」
「寝れなくても横になっていてください。全然違うはずなので」
「仕事がある」
「無理矢理意識を落として差し上げましょうか?」
「それは遠慮しよう。あと少しだから終わったら寝る」
この人、子供ですか? しつこいんですけど?
「そのお仕事はいつ終わるのでしょうね? シエル様からは、まだまだたくさん残っていると聞いたのですが」
「…………」
「目を逸らさないでいただけます?」
ほら、やっぱり疲れているのでしょう。普段の旦那様ならここで目を逸らしたりしませんし、黙り込むこともありません。あと少し、だなんてそんな分かりやすい嘘も吐かない。頭が回っていない証拠です。わたしは人間観察が得意なんですよ。誤魔化すのは無理だと思った方が良いです。
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