13 親愛（敬愛）なる我が主
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「リーシャ様。おはようござ……お目覚めでしたか」
「あらリジー、おはよう。見て分かると思うけどちょっと出かけてくるわ。明日の婚姻の儀には間に合うから、それまで何とかわたしの不在を誤魔化しておいて」
「任務ですか？」
「うん。皇帝陛下に急ぎで頼まれたの。本当は長期のお仕事だったんだけど、婚姻の儀があるから頑張って一日で終わらせて来ます、って伝えておいたわ」
私が心の底から敬愛する主、リーシャ様はこの国で一番と言っても過言ではない重鎮です。古くから続くこのウェルロード帝国には五つの名門家があり、皇家は忠臣である五家に支えられています。
その名門五家はまとめてロード───帝国名の一部を取った名称で呼ばれますが、どの家がそれに該当するかは本当に一部の者しか知りません。その五家の一枠がリーシャ様の血筋です。ロードというのは血筋で判断されるため、例え家が没落しても新たな爵位を賜ることになります。
そんな家に生まれたリーシャ様ですが、前フランクスのご当主様が亡くなられて、リーシャ様の血筋のロードはこの方お一人のみとなりました。
ロードの中でも序列一位だそうですから、当然任務だって多くなります。ですが歴代一の実力者というのは伊達ではありません。長期の任務を一日で終わらせて来ると言えるのはきっとリーシャ様くらいでしょう。
「無理はしないでくださいね」
「もちろん。今回はあの子に手伝ってもらうつもり」
「あの子も有能ですよね……リーシャ様が手懐けたというだけで、元は普通のインコですのに」
リーシャ様の特殊能力の一つ。これは副産物のようなものですが、動物と会話をすることができます。会話と言ってもリーシャ様は普通に話し、インコの方も鳴き声ですがお互いに理解できるそうなのです。何とも不思議なことですが、それが特殊能力というものですからね。
使役獣……伝書鳩のようなものでしょうか？ 人間だと困難な任務でも動物だと逆にやりやすい、などということは少なくないので、リーシャ様の血筋の方にとってはとても便利な能力でしょう。傍から見れば変人に見えなくもないですけど。
「それでは、行ってくるわね。もしわたしより先に公爵様が帰ってきても、部屋で寝ているから絶対に入ってくるなと言っておいて」
「はい。いってらっしゃいませ。どうかご無事で」
私の『ご無事で』という言葉には微笑むだけで何も言わず、そのまま一瞬で消えていきました。
リーシャ様はいつ命を落とされるか分かりません。ロードの中でも恐らく一番危険なお仕事ですから。そのため、ご無事で、という言葉に返事が返ってきたことはたったの一度もありません。
ご一緒する時以外はどうかご無事で帰られますよう、お祈りすることしかできないのですから、自分の無力さに悔しくなりますね。
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