120 遠距離戦のプロ
的の方をみると、続けてドスッ! と的の中心に矢が刺さる音がする。その後も一定の間をおいて三回ほど繰り返された。
「すごいですね……」
「ルヴィが弓を扱う姿を見たのは初めてですか?」
「うん。普段は接近戦で稽古をつけてもらっているから」
「そう。ではルヴィのことについて、少しお話ししましょうか」
休憩も兼ねて訓練場の端に移動する。その間にも、先ほどとは別の的に向けて弓矢が飛んでいた。百発百中、僅かな狂いもなくすべて的の中心に当たっている。
わたしは以前、イアンとレイに言いました。自分の傍に置く人間に妥協するつもりはない、と。それは当然リジーやルヴィにも言えることです。わたしは一人でも戦えるので護衛のルヴィに話し相手以外の仕事は普段はありませんが、それでも護衛に彼を選んだのはそれだけの実力があるからです。
普段の緩い感じを見ていると忘れそうになりますが、彼は元々ロードの任務で出会った人ですからね。雇われ暗殺者のような人だったと言いましたが、恐らくルヴィは暗殺者ギルドの所属していた人物です。隣国アルランタ王国の暗殺者ギルドは実力派なことで有名なんですよ。
「────ルヴィの専門は弓です。遠距離戦のプロで、彼が狙い定めたものは絶対に外しません。彼、男性にしては華奢でしょう? 鍛えることで強くなることはあっても、単純な力では負けることが多いそうです。だから弓を極めることにしたのだとか。幸いルヴィと弓はすごく相性が良かったようで、本人の努力もあって今では百発百中の完璧な行射ができるようになったみたいです」
「……普段はあんな感じなのに、今はすごくかっこよく見えて不思議」
わたしもそう思う。今までも何度か見たことがありますが、ルヴィっていつもは騒がしいのに、弓を持った途端に凛としていてかっこよく見えるんですよ。目が違うんですよね。何の感情も見えず、静かで凪いでいるんです。弓を持つとプロとしてのスイッチが入るのかもしれませんね。
「リーシャ様ー!」
「……戻りましょうか」
「はい」
満足気な笑みでこちらに歩いて来るルヴィと合流すべく、わたし達も先ほどのところまで戻った。もう一度的の方を見ると、やっぱりすべての矢がこれ以上ないくらい完璧な位置に刺さっている。きっと世界中を探し回っても、弓でルヴィに適う人は存在しないのでしょうね。
「お待たせしました。最近あまり触れていなかったので一本くらい外すかなと思ったんですけど、そうならなくて安心しました。ちょっとだけ腕が落ちてたけど……」
「屋敷内にいる時はわたしの護衛は不要なのだから、三人の稽古がない時間に練習してはどう? 傍にいなくてもいいわよ」
「じゃあそうしようかな。いざという時に外してしまったら救いようがありませんしね」
「ええ。わたしはそろそろ屋敷内に戻るわ」
「あ、リーシャ様。先ほども言いましたが、この三人の中だとレイくんが一番強いんですよね。僕が稽古をつけるようになって一番上達が早かったのが彼でした。まだ少し時間はかかると思いますが、一番最初に合格を出せるのは彼だと思いますよ」
レイの方を見ると、褒められたのが嬉しかったのか少し照れくさそうな顔をしている。イアンやフォルトも頷いてるね。もしかして、さっきイアンが言いかけていたことはこのことだったのかな? そう思ってイアンに問うと、その通りらしい。わたしの思い通りに進んでいるようで何よりですね。
「ルヴィに褒められるなんてすごいじゃないの。引き続き、合格をもらえるように頑張ってね」
「うん。ありがとう」
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