12 嫌がらせを受けましても
フェルリア公爵邸に来た日、三日前は公爵様がいたからちゃんとしていたけれど。わたしはもしかしたらほとんどの人に虐げられる運命にあるのかもしれない。というより嫌われる……？
公爵様は今大事な案件を抱えているみたいで、次にこの屋敷に帰ってくるのは婚姻の儀になるそうだ。主人がいない今ならわたしを虐めても止める相手はいないということだろう。
まあ仕方ないと言えば仕方ないのかな？ だって実家でも嫌われ者だったし、社交界でも悪い噂ばかり、肌も髪も荒れてとても貴族令嬢には見えない。公爵様のことは主として慕っているみたいだから、わたしなんかじゃ釣り合わないって言いたいんだろうね。使用人の立場で、一応は主になるわたしにあのような態度を取るくらいだから。
リジーには放っておくように言ってある。だってどうせ三年で離婚するんだし、それくらいは我慢できるから。すごく不満そうではあるけど。不満が募りすぎて一ヶ月も経てば彼らを殺してしまいそうな顔だったけど。
屋敷を歩いても挨拶一つなく、足を掛けられたり手が滑ったとか言ってバケツの汚れた水をかけられたり。食事は硬いパンに冷たいスープとか。使用人でももっとまともな食事なんじゃない？ わたしが話しかけても無視されるし、陰口ですらない悪口。あれはわざと聞かせている。
まあ公爵様がいなくなった途端にそんなだから、わたしは早々に諦めたよ。あれは態度の改善は見込めない。期待するだけ無駄ってやつかな。
公爵様の前ではちゃんとしてるのにね。
まあそんな感じだからわたしもわざわざ話しかけたりしないし、食事も文句なしで食べてる。実家では基本的にちゃんとしていたけど、気分で食事を抜かれることもあったから食べられるだけマシなんだよね。
気を遣わなくて良い相手で、もし態度が改善されたとしても信頼できないことは分かった。嫌がらせ以外で関わってくることもないし、あの程度のことは気にする必要はない。
「ねぇ、リジー」
「はい」
「暇なんだけど」
「そうですか」
「……実家を出たらごろごろできるーって思っていたんだけど、予想以上に暇すぎて。何か仕事ないかな？」
今までずっと、睡眠時間すら削るくらい領地運営で忙しかったのに、急に仕事がなくなったからか暇で暇で仕方がない。社交なんてめんどくさいことをするつもりは全くないし、かと言ってごろごろするのも飽きてしまった。この三日間たっぷり眠ったおかげで隈はなくなり、美味しくない食事でも公爵家なだけあって無意識に栄養面を意識しているのか体の調子も良い。
たった三日の休息でここまで変わるとは思っていなかった。肌や髪の毛も段々艶を取り戻して綺麗になってきている。だけどこのままごろごろしてると、今度は豚のようになってしまいそうなんだよね。栄養が足りてなくてやせ細っているよりは良いかもしれないけど、仮にも貴族女性として太るわけにはいかない。
「皇帝陛下より任されておられる任務は進めないのですか？」
「あー……あれはね、今は進められないの。今はできることがない。わたしはまだ正式に当主になっていないから今回の件は少し動き辛くてね。もうすぐ正式に継ぐから、そうすればフランクスの本業の最高責任者はわたしになって、今より自由に動けるようになる。この件は急ぎではないから、当主の座を継いでから進めるつもり」
「代替わりはいつのご予定ですか？」
「婚姻の儀の一週間後だって。長らく当主不在だったロードの一人が戻るよ。国はまた大騒ぎになるでしょうね」
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