114 色気を垂れ流す旦那様
◇
「…………」
「おはようございます、リーシャ様」
「おは、よう……? あの……これは一体どういう状況なのかな」
朝、目覚めるとわたしの隣には旦那様の姿があった。同じ寝台で眠っているというわけではなく、なぜか旦那様は寝台の横に置かれた椅子で座ったまま眠られている。
「リーシャ様は覚えていないかもしれませんが、眠ったまま涙を流しておられたのですよ。それで心配した旦那様が一晩中リーシャ様の傍にいてくださったというわけです」
「……いつものかな」
「恐らく」
わたしは毎回ではないけど体調を崩した時、眠っている間に泣いているらしい。その理由は分からないんだけど何か夢を見ているんだよね。理由が分からないのは何の夢か覚えていないから。昨日の朝、三日ぶりに目覚めた時はここにおられなかったから、付きっきりで看病してくださっていたそうだけど眠る時は別々だったんだと思う。たしかに目元が少し痛いかもしれない。
「旦那様……旦那様、おはようございます。リーシャです。起きてください」
こんなところで眠っていては体を痛めてしまう。わたしのために傍にいてくださったのならベッドに入れば良かったのに。それくらい普通に許しますよ。わたしが嫌がるだろうと気を遣ってくださったのかもしれませんが、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
なんで普段は嫌味と皮肉が大好きで、常にではなくともわたしに対して全然遠慮しないくせに、こんな時だけ紳士なのかな。
「旦那様」
「ん……リーシャ?」
わぁお……さっすが旦那様、色気がすごいですね……痴女じゃないですけど、わたしやリジーでなければ鼻血ものだと思う。寝起きの少しかすれた声に焦点の合っていない目、ぼんやりした表情……いつも朝は意識がどこかに飛んでおられますが、こんなに気の抜けた姿は初めて見ましたよ。貴重ですね。
「はい、リーシャです。ここでは体を痛めてしまいますので一旦起きてください」
「……悪い。こんなところで眠るつもりはなかったんだが」
「わたしが泣いていたから傍にいてくださったのだと聞きました。ありがとうございます。でも旦那様だってお仕事でお疲れなのですから、同じベッドで寝てくださっても良かったのですよ?」
「無断でそんなことをしたら怒るだろう」
「そりゃあ普段ならそうですけど……わたしのせいで辛い思いをさせてしまっては申し訳が立ちません」
何の理由もなくそんなことされたらぶっ飛ばしますよ。それは当然です。わたし達は愛し合って結婚した夫婦ではないのですから。でもそれとこれとは話が別ですよ。
「では今後同じようなことがあればそうさせてもらおう」
「はい。陛下との対談までまだ少し時間があります。もう少しお休みになられますか?」
「いや、もう十分に休息は取れた。それより体調は?」
「快調です。ご心配をおかけしました」
「嘘ではないと思います」
「そうか」
わたしが旦那様を起こしている間、着替えを取りに行ってくれていたリジーが戻ってくるなりそんなことを言う。いつわたしが嘘を吐いたのでしょうね。解せない。
しかも旦那様までわたしじゃなくてリジーの言葉に頷いているし。医者の言葉の方が信頼度は高いのでしょうが、まずは妻の言葉を信じてほしいです……!
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