113 ライバル二人の密会もどき
「リーシャ様」
「メルヴィンか。リーシャはついさっき眠ったところだ」
「あ、本当だ。熱い……これ、朝より熱が上がってません?」
リジーが部屋から出て行った後、ほぼ入れ違いのタイミングでメルヴィンが部屋に入ってきた。『旦那様の気配があるのに眠れるなんて珍しいんじゃないですか?』と言いつつ、リーシャの額に手を当てる。そこから伝わる熱がかなりのものだったので納得したように頷いていた。
「そうだな。日頃の疲れも出ているのだろう」
「たしかに、ここ最近屋敷にいないことが多いですね。屋敷にいる時も心配になるくらい動き回ってるし。リーシャ様の勉強量と仕事量と、あと訓練の内容もすごすぎると思いませんか? なんでこんなに頑張れるんだろ……」
「特に理由はなさそうだがな。ストイックなのもあると思うが、単純に自分を磨くことに幸せを感じているようにも見える。忙しいくらいが充実しているのだろう」
「うーん……僕には分からないなぁ。リーシャ様の良いところではあるんですけどね。旦那様はリーシャ様の組んだメニューで訓練したことがありますか?」
「いや、訓練している風景ですら見たことがないな」
言葉通り、心底理解できないと言わんばかりに首を傾げるメルヴィン。リーシャの腹心でありメルヴィンの先輩でもあるリジーがここにいれば、彼も強さに関しては非常にストイックだと言うだろうが、残念ながら今はここにいない。
アルヴィンがリーシャの訓練風景を見たことがないと言うと、彼は同情するような視線を向けた。
「旦那様ってとんでもなく強いですよね。そんな気配を感じるんですけど、違います?」
「強い方だとは思う。……が、リーシャの戦っている姿を見たことがあるからな。何とも言えない」
「ちょっと、一回で良いからリーシャ様考案の訓練メニューを熟してみてくださいよ。お忙しいなら体験しなくても良いから見学してみてほしいです」
「なぜ?」
「僕はリーシャ様の元で働くことになってから、週に一度はそのメニューで訓練しろと言われているんですけど、ほんの数時間でやる内容じゃないんですよ! リーシャ様は平然とした顔で毎日二セットやっておられますけど! 常人があんなことしたら死ぬ! ……あの『リーシャ様のためならば何でもする』って気持ちが嫌ってほど伝わってくるリジー様も毎日は辛いらしいですよ。旦那様もあれをやれば死ぬ代わりに今より強くなれると思います。おすすめしておきます」
「物騒だな……そんなにすごいのか。時間がある時に体験させてもらえるか頼んでみよう」
『それなら次の日は丸一日動かなくても大丈夫な時にした方が良いですよ。あの内容と初めましては絶対に死ぬので』と、若干青褪めながらアドバイスするメルヴィン。その姿を見たあと、隣で静かに眠るリーシャを見てもとてもそんなことをしているようには見えず、逆に抵抗を覚えたアルヴィンであった。
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