111 旦那様の魅力
意外に優しいところもたくさん気を遣ってくれるところも、時にはあえて何も聞かないでいてくれるところも、この方の魅力だと思います。旦那様と結婚したばかりの頃はどれも知りませんでした。こういうところは好きだなと思います。でも全体的に見ると嫌い……というより苦手ですね。相手に寄り添えばもっとたくさんのことを知れるでしょうけど、今のところこれ以上仲を深める必要はないと思っています。
「深く関わるなら相手を選ぶ。大切だと思える者以外まともに関わる気にすらなれないな。立場的にもそこまで心を許せる相手は全くと言って良いほどにいなかったから、その質問については答えようがない」
「まあそうですよね。わたしも本当に心から愛し、自分の命を懸けてでも守りたいと思うほどに大事な人は今でもたった一人だけです」
「君にそのような相手がいたか?」
その言い方だと皇帝陛下や皇族方ではなさそうだが、と今度はわたしが聞かれた。わたしは話をしていると会話の内容がいつの間にか変わっていたりすると思うんだけど、どんな内容でもちゃんと会話をしてくださるから嬉しい。普段の会話では気を付けているつもりですがこうなってしまうのは癖なんですよね。今回はその限りではありませんけど。
ロードの役割が役割ですから、話術とかも結構重要で。本当に聞き出したい情報を悟られないよう、煙に巻くために会話の内容を変えているんです。興味関心が移りやすいという元の性格もありますけれど。
「旦那様も良くご存知の方です。帝国の歴史上でも中々いないレベルの美人でしょうし、強さも兼ね備えていますね。わたしは実力も能力の高さも歴代最強と言われてますけど、単純な精度で見ればわたしを軽く超えていると思います」
「君の血筋の先代当主……義母上か」
「そうです。やっぱり旦那様からもそう見えます?」
「いや、それもあるが君がそこまで褒める相手はあの方くらいだろう。リーシャの最愛は永遠に義母上にありそうだ」
そうでしょうね。母として愛しているのもありますが、ロードの一人として尊敬や憧れといった感情も抱いていますから。お母様はわたしがどんなに強くなっても一番の目標です。
「お母様の刃は冷徹で少しの容赦もありませんでした。それは守るべきもののため」
「ああ」
「でも、だからこそ愛もあったんです。誰かを守るために振るわれた刃はとても優しかった。わたしはお母様の娘ですが容姿はともかく性格は真逆でしょう。わたしの刃は優しさも温かさもなく、ただただ冬の海のように冷え切っています。守るための刃は強さと脆さの紙一重。それをわたしは誰よりも知っているから……本当は何かを守るためであっても、絶対に任務で動いているだけだと思い込むようにしています」
自分の心を騙すんですよ。それがどんな種類であっても戦闘に愛は不要。わたしがそんな考え方だからこそ、お母様の戦い方を尊敬できるのだと思います。自分が持たないものだから尊敬できて、自分が手に入れることは絶対にできないと分かっているからマイナスの感情が湧いてこない。
「───残酷ですが、この世界では優しい人から死んでいきますので」
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