110 付きっきり
「……あの」
「私は見逃せないからな」
「もうほとんど回復しましたよ。旦那様とお話ししているので暇ではなくなりましたが、眠っていた三日間に加えて今日もベッドから出られず、訓練どころか体も動かせないなんて……罪悪感がとんでもないことになっているのですが……」
目覚めから数時間、あれから一歩も歩かせてもらえていない。旦那様は心配だからと言ってくださっていましたが、私が抜け出そうとするのを見逃してくれないのは、そんなことをしてリジーに恨まれたくないからだと思います。
医者としてのリジーの言葉を無視するとチクチクと嫌味を混ぜたお説教を受けることになる。本当に、ありがたいですこと。自慢じゃないけど、リジーのお説教はすでに二桁に達するほど経験済みなんですよね。
「もういっそのこと、リジーに怒られても構わないので体を動かしたいです。回復してきたのは本当なので」
「それは君の基準であって、不調を隠せる程度には回復したというだけなんじゃないか?」
「そ、そんなことは……あります」
「明日は皇帝陛下と対談の予定が入ったのだから、今日くらいはゆっくり休め」
そう。そのことなんだけど、本当は三日前に陛下とお話ししなければならないことがあって対談の予定が入っていたのですが、わたしが倒れたので後日ということになったようでして。しばらくは予定が合わないかもしれないと思いましたけど、さっき伝書鳩より手紙を受け取ったのですよね。それで明日対談をすることに決まりました。
「さすがに丸一日休むのであれば全回復しなければなりませんね……大丈夫だとは思いますが、明日を逃したら次の機会は相当先になりますし」
細かい任務が詰まっているのですよ。わたしは本当に体が弱いので、場合によっては何ヶ月も目を覚さない可能性も当たり前にありました。三日間で目を覚ませただけマシだと思った方が良いですね。
あれ以上能力を使わなくて良かった。わたしが倒れている間に陛下に何かあったら後悔してもしきれませんから。
「そういえばわたし達、こんなに長時間お話ししたのは初めてではないでしょうか? わたしの相手をしてくださるのはありがたいです。でもお仕事はもうよろしいのですか? 結構な量に見えましたが」
「あれは今日の分ではないから問題ない。君が眠っている間はここにいてもすることがなかったから仕事が……」
「……え? ずっとここにおられたのですか?」
「……さあな」
絶対そうですよね。途中までご自分で言われてましたし。本当、この方って実は良いところ多いんですよねぇ……なんで契約妻にそこまで気を遣えるのでしょうか。元の性格ですかね? えら公爵から始まり、色々と不名誉であろう呼び方を心の中でしてきましたが、たまにこうして親切にされると罪悪感が湧いてきます。もっとクズなら良かったんですけどね……
「『顔だけは良いお方』、と強調し続けたいところですけど、一緒にいれば良い意味で新たな一面が見えてくることも多いですね」
「それは少しずつでも君に認められてきていると解釈して良いのか?」
「本当にちょっとだけですが。やっぱり容姿や才能で評価されやすいのでしょうけど、旦那様の性格を知れば好き嫌いがかなり分かれそうですね。深く関わるようになって離れていった方、そして心を開くようになった方は今までいなかったのでしょうか……?」
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