107 端正なお顔の旦那様
多方面に迷惑をかけてしまったと自己嫌悪で顔を覆っていると、いくつかの気配が近付いて来るのを感じた。わたしが気付いたということは当然リジーも同じものを感じているわけで、眉を顰めて部屋の扉の方へ向かった。
そしてどこかに行ったかと思えば、旦那様にルヴィ、イアン達兄弟を連れて戻ってきた。静かにするよう注意でもしてくれたのでしょうね。
「おはよう、リーシャ」
「リーシャ様、もう大丈夫なの?」
「兄さんもフォルトも、他の皆も心配してたよ。……一応僕も」
「えっと……三日ぶり? ですね、皆様。ご心配とご迷惑をおかけ致しました。申し訳ありませんでした」
わたしは三日間眠り続けていたらしいけど、皆様はわたしの顔を見に来るくらいはしていたでしょうし、そう考えると三日ぶりと言うべきか迷ったけど、大事なのは謝罪の方なので細かいことは気にしないことにした。
頭が痛いので声を潜めてくださっているのは非常に助かる。皆様、心配と安心が混ざったようなお顔ですね。こうして見るとわたしは案外たくさんの方に大事にしてもらっているのかもしれない。
「もう大丈夫なのか?」
「問題ありません」
「いえ、全然問題ありますよ。あのリーシャ様が体調不良を隠せていない時点で、かなり辛い状態なのは間違いありません」
「……だそうだが、リーシャ? 嘘は良くないな?」
「でも、倒れるほどではないですよ……?」
……たぶん。旦那様に『問題ありません』って答えたら一瞬で訂正された。こういう時幼い頃からずっと傍にいる存在というのは、良くも悪くも自分のことを理解されているから恨めしくなる。
でも良いじゃないですか! 脳内は元気ですよ! 体が思うように動かない代わりかもしれないけど!
「体は起こせていますし、歩くことはできると思うんだけど……駄目?」
「……試してみても良いですよ」
「やめておいた方が良いんじゃないですか?」
「右に同じ」
怒られないようリジーに確認を取ると、一瞬旦那様に目配せして許可を出してくれた。他四人もですけど、わたしが立つだけで倒れるほど弱っているとでも思ってます? さすがに立ち上がるだけで倒れるようなことは……
「……あっ」
「え、ちょっ!」
やばい、倒れる───
体に力が入らず、受け身を取ろうにも体が動かない。これはまずいと思い目を瞑った瞬間、倒れる前に旦那様が支えてくださった。鼻が当たりそうなほど近くにあった旦那様のお顔が一瞬険しくなり、かと思えば呆れたように大きな溜め息を吐かれた。
「……立ち上がろうとしただけで倒れかけているのに、本当に動けるのか? 私は無理だと思うが」
「良かった……」
「……ありがとう、ございます」
傍で倒れかけるところを見ていた彼らは胸を撫でおろしているが、正直わたしはそれどころではない。いつ唇が触れてもおかしくない距離で見つめてくる旦那様から目を逸らし、ひたすら気まずさや羞恥心と戦っていた。
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