101 契約成立です。……ついでに口封じも
「旦那様。一応確認しておきますが、わたしの身の回りに関することは好きにして構いませんよね?」
「曖昧な言い方だな。君の周囲に関係しないことでも行き過ぎないのなら構わないが」
「ありがとうございます」
ちょっと良いことを思いついたんですよね。同意していただけるかは分からないので確認を取らなければなりませんが。
「単刀直入に言います。お二人とも、わたしに雇われるつもりはありませんか? 安定した収入を得られる職場が中々見つからないと言っていましたよね」
「はい。ですがそれは俺達にしか利がないのでは? 見る限り、リーシャ様の周りには優秀そうな方々ばかりで俺達を雇う必要はないように思いますが」
「わたしは自分に利のない契約は交わさないよ。当然だけど条件があります」
「なに? 絶対難しい条件だよね」
さっき、お姉様と同時に陛下からもお手紙が届いた。わたしが彼らを雇いたい理由にはその内容が関係してる。
「そんなことはないと思います。公爵家の使用人らしい振る舞いができるようになること、そしてわたしが満足するまで強くなること。この二つを守ってくれるのなら後は好きにしてくれて構わないし、お給料はいくらでも出しますよ」
最近ではルヴィも雇い入れて、どこからそんなお金が出てくるのかと思うじゃないですか。
旦那様と結婚する前にクズ両親のせいでわたしの私財は尽きましたが、わたしはかなりの頻度で仕事を依頼されるんですよ。だから実はこの短期間で有り余るほどになったのです。
いつまで生きられるか分からないけど、老後を楽に過ごすためにしっかり貯金はしてるよ? だけど経済も回さないといけないから、彼らの存在はいろんな意味で都合が良かった。まあ旦那様が出すと言ってくださる場合も多いので、お金があってもあまり意味がなかったりしますが。
「裏がありそうなくらい好条件な気がするが……」
「ないと思いますよ、恐らく。この方は簡単におっしゃっていますが、使用人としての振る舞いはともかく、リーシャ様が満足するレベルの強さになるには死ぬ気で毎日訓練しなければならないと思います」
「うん。侍従として雇うつもりだけど、わたしは自分の傍に置く人間に妥協するつもりはないから、それなりに覚悟はいると思うよ。詳しくは後程お伝えしますけど、どうします? 雇われてくれるのなら早速今日からお願いしたいかな」
リジーの言葉に二人とも顔が引き攣っていたけど、ご両親を亡くしているらしく、フォルトの将来や今後の生活のためにも働くことに決めてくれた。お二人は路地裏で会った時、わたしの母の命日なのだと話したら少し悲し気な顔をしていました。それは彼らもご両親を亡くしているからだったのかもしれませんね。
「安心して、衣食住もちゃんと保証するからね。実を言うとあなた達に見せてしまったものの口封じも兼ねていたから助かったわ。フォルトはどうしますか? 一緒に雇いましょうか?」
「それは起きてから説明して、フォルトが働くと言うのならお願いしたいです」
「分かったわ」
「いや、待ってよ。今すごく不穏な言葉が聞こえた気がするんだけど俺の空耳? 口封じって……」
あら、それはレイの空耳ですね。このわたしがそんな不穏なことを口にするはずがないじゃないですか。
「リーシャの周りがどんどん強化されていくな。いつか君の言葉一つで再起不能にでもされそうだ」
「それは今でもあり得ますよ? 旦那様の言動によってはね」
「恐ろしいな」
「嘘吐き」
楽しそうに笑っているくせに、そういうことは言葉と表情を一致させてから言ってくださいな!
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