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第45話 強く優しく美しいお嬢様ダイバー!

 マドカ・メリージェンヌ。

 お嬢様系ダイバーの中では伝説的な存在であり、たびたび出される『最強ダイバーランキング』なるものでは常に上位に食い込むほどの圧倒的猛者。


 なにより登録者数200万人というユウジからしてみれば雲の上の存在ともいえる人気者だ。


 紫吹マナとはまたえらく対照的な雰囲気である。


「みなさん、お怪我はありませんか?」


「あ、あ、あの! マドカ・メリージェンヌさん! お会いできて光栄です!」


「まあどうもご丁寧に。……そこのアナタ。腕をケガしているではありませんか。見せてごらんなさい」


「そ、そんな! 大丈夫ですかすり傷です! この程度マドカ様が触れずとも…………」


「無理をしてはダメ。さぁ見せてごらんなさい」


「あ、あぁ、マドカ様の手が私の腕に」


 所作ひとつひとつが神秘性を帯びている。

 魔力でケガを治すところなど、おとぎ話から飛び出してきたかのようなワンシーンだ。


 空気が和やかになり、3人組の精神状態も戻ると、マドカはユウジに目を向けた。


「あっ!」


 思わず声を出して変身を解いた。

 そうしなければならない気がしたから。


 真っ直ぐ見つめながら歩み寄ってくる彼女を真っ直ぐ見れない。

 まるで母親に怒られる直前の子供のよう。


 だが、


「津川ユウジさん、ですね? お怪我はありませんか?」


「え、俺のことを知ってるのか?」


「えぇ、アーカイブはひと通り」


「あ、ああ、どうも。その、ケガはないよ。その、悪かったな」


 彼女はそれを聞いて柔らかな笑みを浮かべて、そっと彼の手を両手で包み込む。


「よかった。ケガがなくて」


「え、え、え!?」


「よくぞ、踏みとどまってくださいました。荒ぶる心によくぞ打ち勝ってくれました。ありがとうございます」


 どこまでも物腰柔らかく、微笑みの明るさははるか先まで咲き誇る花の園に値する。

 ユウジの中から先ほどまでの戦いの熱が完全に消え去った。


 ────なぜこの少女は、こんなにも優しいのだろうか。

 

「さぁここは危険です。みなさん、避難を」


「そうだな。今日はここまでにしよう」


「ここまで? あら、もしかしてみなさん配信を!?」


「あ、はい一応……」


「あれ、もしかして気づいてなかったか?」


「はい! みなさんを助けるのに必死で……あ、アラアラ、わたしったらとんだ出しゃばりを」


「い、い、いえ! とんでもないです!」


「神回です!」


「家宝にします!」


「その、ありがとうな」


「どういたしましてみなさん」


 配信を切ったあと、ユウジは彼女からふたりで話がしたいと切り出された。


「俺と話を?」


「えぇ、お時間はおありですか?」


「あるよ。時間がなくたって断るもんかよ。アンタに助けられた気がしてならないんだ」


「わたしはなにもしておりません。すべてはアナタのそのお心が導いた結果です」


「そんなことないさ。それに、今日は失敗したかなって思った配信も、アンタが来てくれたおかげで、な」


「まぁ、クスクス」


 こうしてみると紫吹マナとは明らかに対照的だ。

 ダンジョンを出てから、近くにある高台まで移動する。


 神社同様、街を一望できるスポットだ。

 今の時間帯は人がいないようで、話すにはうってつけだろう。


「しかし、アンタすごかったな。あの~ホラ、無刀返しってやつ?」


「あぁ、あれですか。あれこそ、わたしが編み出した理想の体現。あの技なら、無用な血を流さずにすむでしょうから」


「理想? 血を流さないってことがか? 魔物も?」


「えぇ。完全に血を流さないというのはまだわたしの腕では到底……ですがいずれは到達してみせます。その境地に」


 夕暮れの高台。

 年ごろの少女さながらに木にもたれかかりながら笑んでみせる。


 その姿だけで心が洗われるようで、ユウジはもっと彼女のことを知りたくなった。

 

「なぁ、アンタのこと、もっと教えてくれないか?」


「クス、そう焦らずともキチンとお話します。まずは、お茶でもいたしましょう」


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