第37話 もうひとりの変身者!
────バチバチバチ!
「え、な、な、なに!?」
「な、なんだ!?」
「D・アイが故障? こんなときに?」
「あーすんません。やったの俺です。ごめんなさいねホントに。でも大丈夫。妨害電波流しただけなんで終わったらまた配信に戻れますんでハイ」
全員がその声に反応する。
ユウジ、そしてキララはその少年に見覚えがあった。
「どーも、俺の超推しダイバー、津川ユウジさん」
突然の少年の登場に驚愕を隠せない。
「お前、あのときの……!」
「アンタたしか、アタシのクラスの」
「あー、どうせわかるだろうし言うわ。"植芝玄斗"。クロトでいいよ。でも悪い。悠長に話してる時間ないんですわ」
そう言うとクロトは陽介のほうを見た。
「よう、クソ配信者。お前のせいで俺らの長年の苦労がパーだってさ」
『なんだぁあ? なにを言っている貴様ぁあ!? 貴様もボクをバカにするのかぁぁああ!?』
「この世には2種類のバカがいる。懸命に生きてるバカと、テメェみたいに死んだほうが世のためになるバカだ」
おもむろに取り出す折り畳み式の携帯のような端末。
「────『レイヴンーΣ、セット・オン』」
静かに語り掛けるようなセリフ。
同時にカラスの鳴き声らしき駆動音と闇色のオーラが包み込んだ。
現れたのは、ペストマスクのようなメカメカしいフルフェイスとカラスを模した軽装甲服をまとったクロトだった。
「あ、俺は一応仕事なんですが、皆さんはどうします? 一緒に戦います?」
「え、アンタ、えぇぇえ!?」
「お前も、変身を……!?」
「アンタほど器用じゃないですけどね」
クロトは背中の機構から漆黒のエネルギーウィングをはやすと、一気に飛び上がる。
「オラ、来いよトンチキ」
『馬鹿にしやがって!!』
巨躯を羽ばたかせながら向かってくる陽介を、軽やかな機動力で縦横無尽に回避する。
そのうえでボクシングのようなスタイルでヒット・アンド・アウェイを繰り返した。
この間一度も陽介の攻撃にかすりすらしていない。
「空中機動のフォーム? 空を飛ぶためのアーティファクトはあるって聞いたことはあるけれど」
「ユウジは空飛べたりしないよね」
「あんな風に自由には飛べねえ……」
クロトの変身に使われているのは本当にアーティファクトなのか。
彼が変身するときに使われたのは、ガントレットやベルトなどの装着品でもなければ、杖や魔導書などの魔法に由来するものでもない。
どちらかと言えばかなり近未来的なものだった。
「クソ、俺も、変身をっ!」
「無理よ! その状態じゃ身体に負担がかかるわ!」
「大丈夫です。シスターさん。回復かけれますか?」
「え、えぇ」
「連戦なんて無茶だって。しかも相手は空飛んでるんだよ!」
「それでもやるんだ!! あのクロトって奴にも事情があるんだろうが、それでも、俺は戦わなくちゃならない!!」
回復魔法を受けて体力を取り戻したユウジは再度変身をこころみる。
クロトは呆れ気味になりながらも、「あ、分担したほうが手間はぶけるか」とパスを回すように陽介を蹴り落とした。
『チクショウ! なんでだ! なんで、このボクが! 海外に精通したボクが負けるなんてありえないのに。どうして!?』
「世間知らずだからだろ」
「エミを止められなかった俺にも責任はあると思う。でもなぁ、そんなモン使ってでも自分は悪くねぇって言い張るんなら……っ!!」
サムライ・フォームで黒龍炎天刃の構えをとり、クロトは先ほどの端末を取り出しボタンをいくつか入力。
ウイングのエネルギーが右手に集まり刃の形状となった。
「ちなみに、ブラックボックスは海外で合法みたいなこといいやがったが大間違いだバカタレ。つか勝手に合法にすんな」
(ブラックボックス? あのキューブのことか?)
『う、ウワァアアア。ウワァアアア!!』
「あがくな。テメェは鳥葬だ」
「ド派手に、ブッ飛びやがれぇええええええええええ!!」
超速ですれ違いざまに斬撃を浴びせられたあと、巨大な黒龍が陽介を喰らう。
『グワァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
傍目にオーバーキルな爆発をしながら陽介とブラックボックスは分かたれた。
変身を解いたクロトはブラックボックスを手に取ると何者かに連絡を取ろうとする。
「ちょっと待てよ」
「あとでいいですか?」
「そのブラックボックスってなんだ? なんで魔物に変身するんだ? 世界中にはそんなのがメチャクチャあるのか!?」
「質問が多いですねぇ。俺はアンタらとコンタクトをとれとは言われてるけど……あ、説明しなきゃいけないのかなぁ」
「人がひとり死んでるんだ……俺の大事な親友だった!!」
「……ドラゴンのせい、と言いたいところだけど、被害こうむっちゃったからなぁ。さてどうしたもんか」
「アカネ、そう、アカネはどうしたの?」
キララがふたりの間に入る。
「アカネもブラックボックス使ってたよね? やっぱりあのときの声、アンタだったんだ」
「……わかった。とりあえず上司に連絡させてくれ。話すにしてもどっからどこまで話せばいいか確認とらなきゃ、そうだろ? それにこんな場所で落ち着いて話せねぇよ。……ご遺体を外に運ぶこともしなきゃ、だろ?」
「……っ、わ、わかった。ともかくここから離れよう」
「配信については私がSNSで中止を伝えるわ」
「エミ・アンジェラは私と、津川ユウジ、そしてクロト、でしたね。お手伝い願えますか?」
「え~、俺あのトンチキ運ばなきゃなんだけど?」
「いいわ。私がやる。キララはクロト君を手伝ってあげて」
「わ、わかった……」
謎の変身者、クロトの存在とそのバックにいる組織の影を不気味に感じながらも、ダンジョン攻略は幕を閉じた。




