第35話 白鯨の墓⑥
「ダァアアアア!!」
『グギャアア!!』
「ウォォアアアアア!!」
『ガァア!!』
「ヌゥウ、オォォオオオオオオッ!!」
憤怒を込めた一撃必殺の太刀捌きが瞬く間に魔物を爆散させていった。
あれだけ倒すのに手こずった相手にさえ、龍が如き斬閃で塵と消える。
"ボス級が一撃……っ"
"神速のカンディードとキュネが速攻で宙に斬り上げられて爆散とかどうなってんだ!?"
"アウター・ダンジョンのボスが一太刀で粉々に……っ"
「グルルルル……グォオオオオオオオオオオ!!」
ウィルゴーが焦りと怒りを入り混ぜた咆哮を上げてから、闇色のブレスを吐き出す。
だが、ユウジの斬撃波によりあっという間に切り裂かれた。
ドラゴンという最強種でありながらも、恐怖を覚えるウィルゴーにユウジは容赦はない。
太刀を逆手に持ち、地面に突き刺すと巨大な黒龍のオーラがとぐろを巻くように現れる。
「これで終わりだぁ……っ!!」
天高く飛び上がり、ウィルゴーめがけて小太刀を投擲。
続けざまに黒龍と一体化して小太刀の柄頭めがけて飛び蹴りを行う。
先に小太刀が高速で突き刺さり、ユウジが全身全霊でぶつかることで一気に対象を貫いた。
「ぐ、がぁああ…………あぁぁあああッ!!」
ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
断末魔とともに爆発四散したウィルゴーを背後に着地を決めるユウジ。
だが次の瞬間、機械がショートしたようにバチバチと音を立てるや変身が解ける。
「うぐ、くは……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
怒りから解き放たれその場に膝をつく。
ダンジョンに吹き渡るむなしい風がやけに涼しい。
ふと、視線の横に映った。
エミ・アンジェラ…………藤原エミの、亡き姿。
あの咲き誇る満開の笑顔はすでにない。
アイシャドウをまじえた一筋の黒い涙と半開きの口が、ただ残酷な現実を物語っていた。
「く、う、ううう、ううう…………クソっ!!」
涙、止まることない嗚咽。
哀悼をささげる暇もないくらい、心が締め付けられてしまって。
「ユウジ……大丈夫?」
「……っ、ユウジ、君」
「エミ・アンジェラ……なんということでしょう」
戦闘は終わった。ひざまづき、うなだれるユウジの姿に誰もが心を痛めた。
エミのファンも、彼のファンも。
そんな彼らを物陰で見ていた男がひとり。
「た、倒したのか? 今までのボス含めて……あのドラゴンを。ハハ、ハハハハ」
セブンスター陽介。
タイミングを見計らいヒョコヒョコと現れる。
「や、やぁ、君たち……ひっ!!」
ユウジを除く全員の視線は、冷たいを通り越してむしろ痛覚が一瞬反応するレベルで鋭かった。
"は?"
"お前マジでホンマ……"
"どの面下げて"
"待ってガチでありえねーんだけど"
"出たな海外かぶれのクズ野郎"
"ヤバい吐き気してきた"
"なんでお前じゃなくてエミなんだよ! なんで!"
"このタイミングで出てくるってなにお前殺されたいん?"
"ダイバーの皆さん、コイツ殺してもいいですよ"
"むしろ殺したほうがいい。さすがに今回のは本当にもう……ダメだわ"
陽介が現れたことでコメント欄の負の感情が頂点まで達する。
言われるまでもなく女性陣から漂う空気は重苦しいものだった。
しかしかまわず陽介は言い訳をまくしたてる…………。