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第30話 白鯨の墓①

「シスター、なにか?」


「あそこに、ドラゴンが。確認いたします。D・アイ」


『"騎士竜ウィルゴー"。十二竜最後の生き残りでありこのダンジョンの支配者です。竜種にふさわしい破壊力と超念動、そして他者の記憶を読み取る力を有し、幻影により生み出した配下を無数に召喚して攻撃してきます。長期戦は避けられない敵であると思われますのでご注意を』


「ひぇえ~~ドラゴンかよ」


「あれ、ユウジ怖気づいたん?」


「まさか。エミこそどうだ?」


「相手にとって不足なし! いつでもアゲていけるよ!!」


「ちょっとぉ~ウチらのこと忘れないでよ!」


「ヴィリストン姫島、私たちはいつでも術を使えるようにいたしましょう」


「そうね。前衛は彼に────」


 だが、それに水を差すようにセブンスター陽介が前に出た。

 

「おいおい、主役をおいてなに勝手に決めてるんだ!! このボクが指揮るに決まってるじゃないか! おういユウジ! お前はボクのフォローだ!!」


「えぇ!?」


「ちょ、陽介さん!?」


「なに言ってんの? ユウジが前に出るフォーメーション組んだほうがいいに決まってるじゃない」


「おいおいおい、相手はドラゴンだぜ? どう考えても、スーパースターが前に出たほうが配信が盛り上がるってものさ!!」


 キララの言葉をのけて、どこから湧いてでてきたか不明な自信に満ちあふれた笑みをたたえながら前へ出る。


「お、おいアンタあぶねえって!」


「うるさいぞ! そんな弱腰じゃ、高難易度ダンジョンが多いイギリスじゃ通用しないぜ?」


「いや、今イギリスとかそういうのは……」


 直後、空間が軋むと同時に、ウィルゴーの瞳が十字型の異様な輝きを魅せる。

 地面からピンク色のもやがいくつも湧き出て、それぞれがなにかをかたどっていった。


「うぉお!」


「この気配ヤバいぞ!」


「みて、あのもやの形って……《《魔物》》じゃない!?」


「ありゃりゃ、そうっぽいね。もしかして記憶を読み取る力を有するってのってさぁ。あはは」


 幻影というにはあまりにも真に迫った造形。

 誰もが見覚えのある魔物ばかりだった。


 ゴブリンはもちろん、ハギトリアやニンジャ・ゴブリンにウラグモ衆などアルデバランの記憶に新しい魔物もいる。


 ほかにはリザードマンや巨大蜘蛛、ハーピー、ゴーレムなどほかの場所にいる魔物と、ある種のオールスター軍団を築いていた。


「な、な、な、なんだ、これ! こんなの聞いてないぞ!」


「怖気づいてる場合じゃねえぜセブンスターさんよ! 【変 身】!!」


「あたしらの記憶を呼んで再現したって感じだね」


「あーもう、人のトラウマえぐってくれちゃって。マジむかつく!!」


(あの魔物は……)


「姫島? どうかされましたか?」


「いいえ、なんでもない。……いつまでもおびえてはいられないわ」


「……姫島、大丈夫。アナタの魂にどのような恐怖があろうとも、わたしたちが支えとなります。その恐怖にむしばまれようものなら、わたしが全力でお救いいたします。だから……」


「わかってる。みんなの足手まといにはならないから!」


「いよっしゃ! じゃあこのまま行こうぜ!」


「へぇ~。生で見るのは初めてだね。じゃ、あたしも頑張っちゃおうかな!!」


「あはは~、なんかこうしてみると映画のワンシーンみたいだね。アタシも負けてらんない!!」


(く、クソ~、津川ユウジめ。ボクより新人のくせに)


 火蓋は切って落とされた。

 姫島とシスター・アルベリーの遠距離からの術で相当数にダメージを与える。


 異能による爆炎の中、ユウジは高く飛び上がって魔物たちに躍り出た。

 キララの飛び出る槍による援護で活路を開いたところに猛攻を繰り出していく。


「オラオラ次来いよぉおおおお!!」


「はいユウジ危ないよぉおおお!!」


 ユウジに並ぶように蹴り技を中心としたスタイルで戦うのはエミ・アンジェラ。

 特筆すべきは足に魔力が付与されており、蹴り技をしながら足から魔法を放つというトリッキーな戦法で対多数をこなしていた。 


 まさに"力のユウジと技のエミ"


 "前衛が安定してるからキララもヴィリストン姫島もシスター・アルベリーもやりやすそう"


 "まぁたユウジがキララの槍使ってるよ"


 "あ、エミ・アンジェラも真似してるw"


 "おお、ポールダンス風の蹴り技とかあるんや!"


 "エロッッッッッ!!"


 "お前、ユウジのことをそんな風に……"


 "だからwwwww"


 "やめろっつってんだろwwww"


(あれ? なんかコメント欄で馬鹿にされてるような気配を感じるな。気のせいか)


「なぁにほかのこと考えてんの? それともあたしに見ほれちゃった?」


「バカ言え、お前こそ俺の力に見ほれんじゃねえぞ!」


 ────フォームチェンジ、『ラッシュ・フォーム』。

 神速の動きと見えざるコンボで周囲の敵を一掃していく。


「どうだぁああ!!」


「いや、見えないよ!!」


「それ絶対映えないよね」


「えぇぇぇえええぇぇぇええぇぇええ!?」


 順調に数を減らしていく中で、悲鳴が上がる。

 キララが叫んだ。


「ユウジ! ハギトリアが!!」


「な────!?」


 ハギトリアと聞いて姫島とのことを思い出す。

 身をさくような緊張が全身を走り、バッと振り向いた。


「うぉおおおおお!! やめろぉおおおお!! このアクセサリー高かったんだぞぉおおおおおおおおおお!! うぉおおおおお!!」


「グギギィイイイイイイイイイイイ!!」


 いやお前かよとツッコミを心中で繰り出しながらも襲われているセブンスター陽介のもとへ向かう。

 

「この追い剝ぎ野郎!!」


「グァアアアアアアアアアア!!」


 過去のこともあり怒りのラッシュコンボが一瞬でハギトリアをバラバラにした。


「おいおい大丈夫かよセブンスターさんよ」


「う、うるさい!! ボクにかまうな!!」


「お、おぉ……」


 彼も自らの力で魔物と戦い、ここまで無傷で残っているあたり実力者ではあるのだろうが、ほかのメンバーにある芯の強さは見られなかった。


 彼のアーカイブをのぞいてみたことがないため普段どんな配信をしているのかユウジにはわからないが、実際のところこの配信はセブンスター陽介にとって人生の転換期になりつつあったのだ。


 もちろん悪い意味で。

 その兆候として、彼の配信に集まったリスナーが、彼の態度を見て否定的な意見を述べ始めている。



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