第28話 俺のかつての同級生!
コラボ当日、現地集合ということで電車に揺られていたユウジ。
("エミ・アンジェラ"……)
スマホに映しているデータ。
コラボのひとりであるひとりの女性に、彼は懐かしさをおびた視線を送っていた。
ふと窓の外へ意識を戻す。
流れる景色の中で想起する思い出は、目的地を告げるアナウンスによってさえぎられた。
「うし、この駅の北口。そこから2キロか。まぁ時間もあるし歩いていけないわけじゃないな」
体力に自信ゆえか、半ば観光を楽しむように周りの風景を見ながら集合場所へと向かう。
「卒業旅行以来か。そうそう、あそこの寺へ皆で行ったんだっけ?」
歴史的建造物が多くおもむきある木造建築が立ち並ぶ某市の街。
かつての旅館はもうつぶれていたがその名残にある思い出に思わず頬がゆるんだ。
歩くこと数分、ダンジョン入り口500メートル前の広場にたどり着いた。
「こんちわ~……って、誰もいねえか。早すぎたかぁ」
ポリポリ頭をかいていたとき、懐かしい声がうしろから聞こえた。
「ありゃこりゃ偶然。そそっかしいのはあたしだけじゃなかったみたいね」
「……現地集合で2時間前に来たっけ? あんとき俺は」
「そ、んで旅館の近くにある公園でアンタがグーグー寝てておまわりさんに声かけられそうになったの皆で助けた!」
「ハハハ、めっちゃ懐かしいな! ……いや、データ見たときもしかしてって思ったけど、やっぱりそうか。────藤原エミ!」
振り返ればそこには雰囲気が変わった旧友がいた。
薄く微笑めば妖艶に、明るく笑えば太陽のように。
少女のようなあどけなさを残しながらも大人の女性の魅力を兼ねそなえた同窓生は有名ダイバーとして名をはせていた。
「よっ! ユウジ! アーカイブ見たよ? ホントびっくりしちゃった。アンタが同じダイバーやって、しかも大バズりしてんだからさ」
「エミもすっげー出世したよな。髪色とかメイクとかで俺最初わかんなかったぞ?」
「ふふふ、あんたほどの変身じゃないけどね。それと、あたしのダイバー名はエミ・アンジェラだよ。本名では呼ばない」
「はは、悪い悪い」
「てか、アンタ本名でやってんの?」
「ん? おう。なんかカッコイイの浮かばなくてなぁ~」
「……いや、アンタのネーミングセンス壊滅的だからやんないほうがいいわ」
「なんか昔から言われるんだよなそれ」
まるで学生時代に戻ったように話に華が咲いた。
エミ・アンジェラこと藤原エミとは2年生のころ、体育祭のときくらいに少し話す機会があって、そこから交流を深め、友人を交えて最終的にひとつのグループにまとまったか。
「こうしてまた出会えたのは縁、いや、神様がくれたチャンスなのかもね」
「ん? エミ?」
「半分こっちの話」
「半分?」
「そうだよ。こうして出会えたのはそういうもんだってあたし思うんだ」
「お、おぉ、お前がそういうの、なんか珍しいな」
「アハハ、あたしだって年月かけりゃ変わるって。それに知ってるでしょ? あたしの身の上」
「あ、あぁ……」
「そう暗くなんないで。あたしがダイバーとして活躍できてるのはきっと神様がくれたチャンスなんだって。そう思ってるの。だからさ、アンタも目一杯頑張りなさいよ! 苦しいことも楽しいことも全部ひっくるめて、パーッと生きなきゃ! アンタにもそうしてほしいんだ。あ、言われるまでもないか」
「……ふ、相変わらずだなエミは。そういうところ変わってなくてよかったよ」
「当ったり前じゃん。テンション上げていかなきゃダンジョン配信はやってけないからね」
そんな風に話していると次々とメンバーがやってくる。
「うわー! すごいヴィリストン姫島さんだ。マジで感激、お肌チョー綺麗! 初めまして。エミ・アンジェラです! あぁ! キララちゃん!? 生キララちゃんだ! ヤバいスタイル超イイしめっちゃかわいいうらやま~」
(ユウジ君の同窓生。なるほど、なんというか彼に似てるわ)
(お、おぉ……嬉しいけど、すごい圧っ!)
「すみません。遅くなってしまいました」
「いいえ、シスター・アルベリー。皆今来たところよ」
(俺とエミはだいぶ前から来てたけど)
シスター・アルベリーは礼儀正しくお辞儀をする。
これで大方そろったところなのだが、あとひとり来ていない。
「ねぇもうすぐ時間になるよ? まだ来てないの?」
「連絡してみる?」
「大御所出勤ってやつ? まぁ、常習犯みたいだしねぇ」
「そんな遅れてくるのか?」
「海外ダイバーに影響されまくりってやつ?」
「海外でも遅刻はダメなんじゃねえか?」
そして集合時間から20分オーバーで。"彼"は到着した。
「いやぁ~ごめんごめん。遅れちゃったよぉ~。ま、ヒーローは遅れて登場するものだからね」




