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第26話 図書館と謎の少年!

 あれからもう1日。

 新聞やネットニュースでは、街に一時的な異常があったと小さく載るだけ。

 アカネのことも、あのキューブのことも一切ない。


「キララの話を聞いてもそうだけどやっぱ変だな」


「情報規制、かしらね」


「マスコミとか一部の団体が飛びつきそうなネタだけどねー」


「お前の同級生が記憶をなくしていたのとなにか関連がありそうだな」


「なにもわからない以上、とりあえず謎解きは一旦置いておいたほうがよくない?」


「保留、か。まぁ、そうかな」


「情報が少ない以上考えても仕方がないわね。今は次のお仕事の話」


 喫茶店での話。

 先日のことで難しいものをはらんだ影の存在に疑問を抱きつつも一旦切り上げた。


 アルデバランに新たなコラボの話が持ち上がってきたのだ。

 3人の上位ダイバーと高ランクのダンジョンへ潜るというもの。


「……『白鯨はくげいの墓』? 風背山市からだいぶ離れた場所にあるダンジョンじゃないか」


「そう、だから準備は入念にね? それと時間厳守。……これからコラボするダイバーのひとりが、その、個性的な人だから」


「個性的?」


「"セブンスター陽介"ってネームのダイバー聞いたことない? 海外のダイバーとよく絡んでるよ。あの人苦手~」


「まぁちょっと態度がアレな人だけどねぇ」


「そ、そんなっすか……」


 ダイバーにも色々いるなと改めて思い知らされる。


「ほかのダイバーさんのデータも送るから、しっかり目を通しておいてね?」


「了解っす!」


「りょ~かーい」


「コラボは1週間後だからそれまでは無理ない程度に自由行動ってことにしたいけど……」


 姫島はキララを見る。


「アナタはどうなの? グラビアだから撮影とかあるでしょ? 時期とか大丈夫?」


「ん、あるよ。来月号のね。それを言ったら姫島さんもアレじゃん。例の化粧品のコラボでしょ?」


「ん、まぁね」


「ユウジは?」


「ねぇよんなもん」


「ないの?」


「あると思うか? バイトはしてるけどさ」


「へぇ~、どこ?」


「言いたくない」


「なんで?」


「言ったら絶対くるだろが」


「行くよ」


「ほらぁ~」


「いいじゃん別に。あ、じゃあ私の撮影現場来る?」


「い、い、い、行かねぇよ!」


「ふふ、一瞬迷ったねぇ~?」


「私も君がどんなバイトしてるか、ちょっと気になるな」


「まぁその……本屋っす」


「本屋? どこ?」


「だから言わねぇって!」


「ケチー」


「はいはい、お話はここまで。じゃあ皆、ケガとか病気はないように。体調管理にも気をつけてね」


「お疲れ様っす」


「はいはーい、じゃあアタシも今から撮影だから」


「はいよー」


 それぞれが喫茶店をあとにする。

 ユウジはその後の予定も特にはない状態だった。


(先日のあの事件、やっぱり少し気になるな……もう少しだけ調べてみるか)


 向かったのは風背山市立図書館。

 最近になって新しく建て替えたということで、外も中もさっぱりとした静寂さと清潔感があった。


 ネットに載っている情報だけがすべてではない。

 古い本、ネットにまとめきれていない情報が紙に刻まれている。


 勉強にいそしむ者、薄っぺらいノートパソコンにずっとかじりついている者、疲れてしまって本を脇に寝てしまっている者。


 様々な色合いを感じながら、ユウジは事件と関連性のありそうな文献を探し始める。


(キューブに関する情報は、ないな。あれはなんなんだ? アーティファクトなのか? 魔物に変化するアーティファクト。そしてあの紫色の霧。一体……)


 2時間ほどか。風背山市の歴史を含むほかの歴史、そしてアーティファクトや魔法の図鑑を調べてみるもそれらしい記録はない。

 というよりも、記録がなさすぎる。


(ないな。本当にただの一時的な異常だったのか? あのアカネって奴が魔物になったのと同時に? う~ん)


 パタンと本を閉じて本棚へ戻したとき、


「あれ、あれあれあれ? もしかしてアンタ津川ユウジって人ですか?」


 若い男の声が聞こえた。

 

「誰だ?」


「しー、声のトーン落として。いや、別にあれですよ。アンタのファン」


「ファン?」


「ん、アルデバランの津川ユウジさんっしょ?」


「あ、あぁ……」


 振り向くと少年がいた。

 気だるそうなイケメンというべきか、向ける視線もどこかめんどくさそう。


「俺、風背山学園のもんなんですけど、いやー、こんなところで有名人と出会えるだなんてって思って。つい思い切って声かけちゃいました。あ、迷惑でした?」


「いや、そんなことはないけど……」


「だったらーサインとか貰っていいですかね?」


「……ここでか?」


「あ、じゃあ場所変えましょう、ね?」


「……??」


 図書館の外の自動販売機前に来ると、少年は手帳を広げてみせる。


「これに書いてくださいよ」


「お、おう。名前はなんて?」


「名前はいいです。ただ、そこに、書いて、ホラ」


(な、なんだ~? さっきからなんか怪しいな)


 急かすような物言いに怪訝な表情を見せるユウジだったが、とりあえず手帳にこれまで何回も練習した自作サインをスラスラと書いてみせた。


「ういっす、あざっす。大切にします。いや~有名人のサインってやっぱどこか貫禄ありますねハイ」


「そ、そうか~? そう言われると、照れるな~」


「いやいや、もうユウジさん、風背山のスターなんじゃないっすかホント」


「ふふふ、そう言われると、なんか悪い気はしないな」


「……ところでユウジさんはなにを調べてたんですか?」


「いや、先日の街の異常あっただろ? それがちょっと気になって」


「あぁあれですか。なんかおかしかったんで?」


「おかしいもなにも、紫色の霧みたいなのがかかったりやたら道止められたりさ、変だろ」


「…………そうですかねえ?」


「え?」


「有毒ガスかもしれねえって話だったんでしょ? んで、業者さんたちは適切かつ迅速な対応をした。結果あれは人体に無害なものとわかって、おかげで被害はゼロ。だったらいいじゃないですか」


「いや、でも原因を!」


「原因? そんなのはお偉いさん方の管轄でしょ。第一、ユウジさんにそういう系の知識とかあるんですか?」


「そりゃあねえけど」


「でしょ? 専門家に任せりゃいいんですよ。ユウジさんは堂々とダンジョン攻略してりゃそれだけで人気がうなぎ登りなんですから」


「……お前、なんでそこまで?」


「いや、せっかくの推しが余計なことにまで手を出して配信がおろそかになるだなんて嫌っスからね」


「俺は真剣にやってるんだ。あの一件の裏で大事な仲間が危険に見舞われてた。気になるんだよ。もしかしたら偶然じゃないのかもって」


「考えすぎですよ。よくあるでしょ。嫌なことが重なりすぎるっての」


「そんなちょっとした不運の話じゃない。危うく死ぬところだった。あ、そういえばお前、風背山学園の生徒なんだよな? キララは知ってるだろ? キララのクラスメイトのことなにか聞いてないか?」


「さぁ~俺基本ボッチなんで。ああいう有名女子と関わることないんですわ」


(キララの件を言ったほうがいいか? いや、それでもしも話が広がったらキララに迷惑がかかる)


「すんません。引き止めちゃって。じゃあ俺帰りますんで。あんま無理はしないでくださいね」


「あ、おい!」


 少年はさっさと建物の陰のほうへと歩き去ってしまった。

 追いかけるもすでに少年の姿はなく。


 人込みも車もない道路と駐車場に、生温かい風が吹き渡った。



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