第18話 アルデバラン!
ダイバーユニット『アルデバラン』初の行動。
ユウジ、姫島、キララはダンジョンへ訪れ、攻略を目指す。
────モミジ谷。
パラリパラリと、季節外れの真っ赤な紅葉が風に舞う。
次元の歪みかそれともダンジョンになってしまったゆえの影響か、ここでは年がら年中秋のような景色が広がっているのだ。
気候も良し、風情もよし。
だがそんな場所にも魔物が住む。
平安時代、とある貴族がここに落ち延びて、自分たちの楽園をと豪勢な屋敷を建てたそうだが、最早それは夢の跡と化している。
ダンジョン化してからは、その名残とも言える残骸や古びた建築物が出現した。
なんとも言えない儚さと妖しさを宿しつつ、紅葉と穏やかな川のせせらぎがわずかながらも、その空恐ろしさを和らげている。
「ここもダンジョンになってるって話は聞いてたけど。マジで和風テイストだな」
「出てくる魔物も和風系って感じだよ」
「不気味だけど、幻想的で綺麗よね。でもここには前のアウター・ダンジョンのボスほどじゃないにしても、強い部類のはたくさんいるから油断しないように」
「わかってるよー。姫島さん心配しすぎ」
「俺はいつでも全力っす!」
「ユウジも気合入りすぎ。あれ? もしかして緊張してる?」
「いやいやなんでそうなる。お前、アイテムとかそういうの大丈夫なのか?」
「アタシはいつも通り大丈夫だって! このキララ様に任せなさい」
キララはいつにも増して自信満々だ。
「そろそろ配信始めるけど、身だしなみオッケー?」
「ばっちり」
「俺もっす」
「はい、じゃあ始めるわね。配信スタート!」
それぞれD・アイを起動させ、おのおののカメラワークで進めていく。
コメント欄もよりわちゃわちゃしてお祭り状態。
場所が場所なだけに、歴史の知識を披露するリスナーも現れ、まるで大勢で観光にでも来ているかのようだった。
「なんか、静かすぎて時間が止まってるみたいだ」
「ほんとね。しかも完全な無風状態。敵の気配も感じない」
「アタシ前にさぁ、ここへ入ったダイバーの動画見たけど、ここらへんとかもっと敵が多かったはずだよ」
「魔物が逃げたとか?」
「それはないと思うわ。自分の住処を離れるだなんて……なにかあるのかしら」
「もうちょっと奥行ってみようよ! ほら、あそこの建物とかまだ入れそうだよ」
「うお! でっけ!」
「こんな時間帯に月が出てる……。時間も歪んでるのかしらね」
巨大な寝殿造の屋敷が、紅葉のいろどりの向こう側に見えてくる。
朽ち果てた庭園の池には、あるはずのない夜空と月の幻影が薄っすらと浮かんで、より妖しげな雰囲気を醸し出していた。
「ちょっとふたりとも、ここで写真撮らない?」
「キララ……」
「まぁいいじゃないっすか。ここまで別に魔物とかいないんだから」
「でも、う~ん」
「ほら、早くー!」
(アイツ、ああいう風にも笑えるんだ)
いつか皆で京都の寺社仏閣におもむくのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら朱塗りの大橋まで辿り着く。
かつての往来が想像できるほどにその幅は広く、年月によって剝げていった色を埋めるように紅葉がそろそろと被さっていた。
「うお、なんか古そうだけど突然ぶっ壊れたりしねえよな」
「大丈夫に決まってるって」
「キララ、浮かれすぎじゃない?」
「んもー、大げさなんだか……────」
キララの足が止まると、一瞬にして場の空気に緊張が生まれる。
空間が軋むような重圧感が3人を襲った。
「どうやら待ち構えてたみてえだな」
「みんな、戦闘準備はできてるわよね」
「もっちろん」
「じゃあ、行くぜ! ────【変 身】!」
場所は見晴らしがよく、敵にとっては狙い撃ちにするにはおあつらえ向きといえるだろう。
戦闘態勢に入ったと同時に、『それ』は飛んできた。