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第12話 お宝手に入れた!

 あの化け物がいた建物の中は意外にもほこりっぽくない。

 ゴブリンたちが掃除したりしていたのだろうか。


「なんか、中はこうスカッとしてるっすね」


「意外にもミニマリスト? うける」


「緊張感ぬけちゃって……あ、奥にドアがあるわ。見張りもいないみたい」


「お、つまりお宝があそこに眠ってるってわけか! あ、ストップ。こういうときは変なトラップがあるって相場が決まってるんだ」


「なにそれ? 映画の知識? 古っ」


「さすがにそういうブービートラップはないわね」


「ないんスか!? 映画の中だけ!?」


「たまに宝箱に化けてるのいるけど、まぁ見たらわかるって感じのやつだし」


「そっかー……」


 他愛のない会話をしつつドアの向こう側へ入ると、宝箱ではないが台座は存在した。

 魔力の膜でおおわれるようにして"魔導書"が横になっている。


「これが、お宝?」


「すごいわ。魔導書はたくさんあるけど、それよりかなり古そうなのに保存状態が全然いいなんて」


「え、じゃあこのダンジョンにしかない年代物? 超レアじゃん」


「じゃあ、はい、ユウジ君」


「え、俺?」


「今回のMVPはアナタなんだから、これを受け取るのは……」


 だがユウジはやんわりと制した。


「すみません姫島さん。この魔導書、アナタがもらってくれませんか?」


「え、私?」


「俺、魔導書とか見てもまったくわからないんす。だからこういうのは、わかる人間が持ったほうがいいって思うんです」


「は? お宝受け取らないの!?」


「あぁ、俺には必要ない」


「え、で、でも……」


「まぁ、売ればお金になったりするかもしれないけど、せっかく3人で手に入れたお宝だし」


「いいの? 今回活躍したのはアナタよ」


「いいんすよ。俺はこうしてコラボできただけでわりと満足っす」


 "お宝いらないの!?"


 "正気か?"


 "見た感じ今までにない術式とか組めそうな内容書かれてそうだけど。え、マジでいらんの?"


 "おくゆかしいのか、なんなのか……"


 コラボの夢がかなった地点でユウジの目標は達成した。

 ましてや推しにMVP認定を受けたことで、もはや宝以上の価値を見出せてしまったので、そこまで執着がわかなかった。


 それに魔導書など読めたためしがない。


「じゃあ、ありがたく受け取るわね。ありがとうユウジ君」


「もったいないなぁ」


「ほかに宝あれば目がいったかもだけど、見た感じなんもなかそうだし。俺はもう十分っす」


「そう。今日はありがとう。じゃあそろそろ帰りましょうか」


「うっす!」


「りょ~かーい。あ、そうだ。ねぇ、記念撮影しない?」


「記念撮影?」


「お、コラボ記念で? いいな。姫島さんはどうです?」


「いいわね。じゃあ星空がバックになる位置で撮りましょ」


 カシャリと一枚。

 その後、配信を切りダンジョンを抜けて神社のほうへと戻った。


「皆、今日はお疲れさま。ユウジ君もありがとう」


「いえ、こっちこそ。またいつでもコラボ呼んでください」


「あら、アナタはコラボ呼んでくれないの?」


「へ? わ、わ、その、えっと……」


「ふふふ、そのときが来るまで待ってるから」


「ねー、早く帰ろー。アタシお腹すいたー」


「じゃあレストランで軽く打ち上げでもする? 私の奢りよ」


「賛成!!」


「すんません! ゴチになりますッ!!」


 ひと仕事終えたあと、近所のレストランへ向かうさなか、ふと姫島は神社のほうを振り返った


(そういえば、あのときコメントうってくれた人。なんでわかったんだろう。ここへ来たことがある人なのかしら?)


「姫島さーん、どうしたのー? 早く行こうよー」


「どうしたんす? 忘れ物っすか?」


「ううん、なんでもない。さ、行きましょ!」


 久々に楽しい時間だった。

 ダンジョンでもそうだが、こうしてワイワイやりながら誰かと食事をするのは久しぶりだと、食後の一服に気を緩ませるユウジはほがらかな気持ちになる。


 その後、3人はそれぞれ帰路についた。

 ユウジは明日への活力に笑みをこぼしながら、自宅マンションへと戻る。



 ────サアアアアアアア……。

 

 しかし彼が気づくことはない。

 風にかき消される背後からの視線の先でそのまま鼻歌まじりに歩くユウジ。


「…………」


 そんなユウジの姿をジッと見つめるのは、《《キララ》》だった。

 彼女はそのまま家へと帰る。両親は仕事で出払っており留守だ。


 静まったリビングを脇に階段を上り自室へと入り灯りをつける。




 彼女を出迎えたのは壁一面、天井にすらおよぶほどに埋め尽くされた津川ユウジの写真だった。

 すべて動画の切り抜きをプリンターで写したものだ。


「はぁ、D・アイ持ってくればよかった~。もー、姫島さんも来るなら教えてよ~。ま、そんなことするはずないよね」


 実は彼女は以前から津川ユウジを知っていた。

 キララはいわば隠れファン。


 彼の武骨なスタイルとみょうちくりんなカメラワークが妙に気に入っていた。

 まるでいつか見たヒーローショーのようだったから。


 ダイバーになって何度かスランプにおちいったときがあったが、そのときに見た彼の動画、津川ユウジの一生懸命な姿に何度救われたことか。


 キララは今でこそ有名なダイバーだが、それでも推しはユウジだけだった。

 本当は今回彼とコラボを組めるとわかったときは心臓が跳ね上がりそうなくらい緊張したし、感情も爆発していわゆる"限界化"しそうなほどだった。


「ふぅ。へへへ、記念撮影やっちゃった……」


 そう呟きながら、スマホに映るユウジの姿に顔の筋肉をゆるませた。


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