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第6話 耐性

 少し不安も出てきたけど、まずは今日割り当てられた仕事、所内の掃除と片付けを全うしよう。

 今日中に終わらせるにはさっさと取り掛からないといけない。


「それじゃボクは作業に戻ります」


 二人にそう告げて行こうとしたところでルチオから引き止められた。


「作業って何やってんのさ?」


「えーと、所内の掃除と片付けです」


「アンタがサボりまくるから片付かないのよ! だからアヤトに朝からやってもらってるの」


 ソニアから説明が入ったがルチオは意外そうな表情をして話を続ける。


「え〜、そんなことないと思うけど……でもアヤトに悪いことしたな。そうだ、お詫びにルチオ兄さんが息抜きを手伝ってやろう」


「『兄さん』? 『おっさん』の間違いでしょ」


「ヒドい! 確かにそろそろアラフォーだけどまだまだ若いつもりなのに」


「アンタのは若いんじゃなくて考えが幼稚なだけでしょ!」


 二人の漫才みたいなやり取りが続いてどうしたらいいかわからないよ。

 仕方ないのでこちらから話を戻させよう。


「すみません、その息抜きってどんなことですか?」


「おれに向かって思いっきりあやとりの技を発動してもらうんだよ」


 何を言ってるんだこの人は?

 そんなことをしたら危ないじゃないか。

 思考停止に陥ったボクを見てルチオはソニアに問いかけた。


「もしかしておれのこと全然説明してないの?」


「そういえばまだね……アヤト、このルチオのオジサンは普通の人間よりもあやとりへの耐性が異常に強いのよ」


「オジサンじゃねえから! まあ無敵ではないけど、何故か生まれたときから攻撃が効きにくいんだよね」


「コイツがクビにならない理由はこれなの。ウチにとっては得難い人材ってわけ」


「すみません、まだ理解が追いつかないです」


 ソニアはひと息ついてから丁寧に説明をしてくれた。


「ウチの事業内容はもうわかってるよね? あやとりで癒しの効果を得る技や作り方を開発するためには、開発途中で何度も試してみる必要がある」


「あっ……その実験でルチオさんに対して技を発動させると」


「その通り。所長も受けてくれるのだけど、一人じゃキツいしダメージがあればしばらく実験できない。でもルチオならそうそうダメージを受けないから開発が進みやすいのよ」


「わかりました、納得です」


 なんだ、怖いことでなくて良かった。

 しかし能力無効みたいな体質の人がいるというのは驚きだった。


「というわけで! アヤトの得意技を思いっきり打ち込んでくるんだ! お兄さんが全力で受け止めてあげるよ!」


 まだお兄さんにこだわってるんだな。

 でも得意技って言われてもこれといって思い浮かんでこないよ。


 そうだな……得意技ではないけど時々作るあれでいこうかな。

 この状況なら別に急いで作らなくていいし。


 ちょっと作るのが面倒だし、今日は短い紐しか用意してないから星の数が少なめだけどもうすぐ完成だ。


「結構速いな」


 ルチオがボソッと呟くのが聞こえたが、ゆっくり作ってるつもりなんだけどな。

 この前の決闘の後から自分の感覚が変になってる気がする。


「できました、『天の川』!」


 イメージがルチオの頭の中に吸い込まれてすぐには特に何の反応もなかったが、途中から頭を抱えてうずくまってうめき声を出し始めた。


「だ、大丈夫ですか?」


「うわぁぁぁぁぁっ!」


 心配になって声をかけた瞬間にルチオはいきなり叫び声を上げて仰向けに倒れてしまった。

 しかしすぐに起き上がると冷静に状況を説明し始めた。

 攻撃はやっぱり効いてないのだろうか。


「フゥー、油断してたとはいえ、久々にちょっとダメージを受けたよ。アヤト、なかなかやるじゃない」


「この私が選んだ新人なんだから当然でしょ。で、どんなの見えたの?」


 ソニアが自慢げに言ったけど、ボクなんてまだまだだけどな。でもちょっと嬉しい。

 ルチオはお構いなしにソニアへ話を続ける。


「それがさぁー、空の上に意識が飛ばされたかと思ったら天空に川みたいのが現れてさ。その両側に美男美女が一人ずついるんだよ」


「うーん、それだけだとダメージを受けるようなものには思えないんだけど」


「そいつらがジッと見つめ合ったと思ったら川が消えて抱き合ったんだよ。それからずっとイチャイチャを見せつけやがって、あーもう!」


「あー、確かにアンタには一番効くことかもしれないわね」


 七夕伝説みたいな内容の幻覚を見たようだけど、天の川を仕掛ければ誰にでも同じ内容なのか、それとも人によって内容が違うのか。

 まだまだよくわからないことだらけだ。


 そんなボクを置き去りにしてソニアとルチオが話を続けていく。


「で、ルチオのお兄さん、これからはちゃんと毎日出勤してくるんでしょうね?」


「や、やっとお兄さんと認めてくれた! 嬉しくて涙が出そうだよ」


「面倒くさいから話を合わせてやっただけよ。それより話を誤魔化さないで!」


「あ〜、それなんだけどね、1週間くらいは続けて出勤するけどその後ちょっと用事で来れないかもな〜って」


「またか! どうせお気に入りの女性歌手が開くコンサートを追っかけに行くとかそんなことだろうが!」

 

「おっ、鋭い! さすがは我が愛しのソニアたん!」


「だからその呼び方はやめろ!」


 ルチオがサボる理由はつまり推し活だったんだね。

 まあ息抜きはできたし、ボクはもう作業に戻らせてもらうよ。


 結局初日はそのまま片付けだけで終わってしまったが、翌日からは研究開発も少しずつやらせてもらっている。


 新技はまだ無理だけど、既存の技をどういうふうに作ればいいのかを試行錯誤している。


 現状で攻撃性の高さに最も関係していると考えられているのは『速度』だ。


 つまり速く作るほど攻撃力が強くなるのだ。

 逆に言えば遅くなるほど弱くなるのだが、遅すぎると発動すらしなくなる。


 そのへんぎりぎりのところを見極めるのに何度もルチオを相手に実験しているのだが、正確さや美しさも多少は関係あるのか結果が安定しないのだ。


 そうして初出勤から2週間近く経過した。

 業務にも人間関係にも慣れてきたし割と楽しくやらせてもらっている。


「アヤト、お仕事にだいぶ慣れてきて楽しそうですね! 今日もお弁当食べて頑張ってくださいね」


 アンナに見送られての出勤はやる気を増大させてくれるし、ボクは只今絶好調と言っていいくらいだ。


 しかしそんな幸せは長くは続かなかった。

 思いもしないことから大変な問題が発生してしまったのであった。

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