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第2話 この世界のあやとりって何なんだ

 アンナに連れられて歩く街中は建物が煉瓦や石造りなものが多く、とても日本とは思えない。

 それに通りにクルマが走っているところを見かけないし、すれ違うのは馬車だけだ。


 さっきの不思議な現象といい、まさかとは思うが異世界転移したのだろうか?

 そう考えたほうが寧ろ説明がつくんだけど……そんなこと考えているうちにアンナの家に到着してしまった。


「さあどうぞ! 何もありませんが精一杯もてなします」


 そう言われて中に入ると確かにあまり物が見当たらず、リビングのような場所にテーブルと椅子が4つ、その1つに男の老人が座っている。


「ん? お客さんかいアンナ、男の子とは珍しいのう」


「おじいさま、実は街で暴漢に連れていかれそうになったところをこの人に助けていただいたんです」


 なんだ、アンナのおじいさんか。

 取り敢えず挨拶はしておこう。


「あの、初めましてアヤトと言います」


「なんと、それはどうお礼を申し上げてよいやら。本当にありがとうございます、アヤト殿は恩人ですじゃ」


「詳しいことはあとで。アヤトも席に座って、お茶でも飲んでからお話しましょう」


 取り敢えずおじいさんとは斜向かいの席に座ることにした。

 初対面の人とどう話せばいいかとソワソワしていたがおじいさんの方から話しかけてくれた。


「改めて感謝申し上げます。あの子に何かあったら死んだ息子たちに顔向けできませんから」


「すいません、どういうことですか」


「ああ、息子たちというのはアンナの両親のことですじゃ。わしを含めて4人でずっと暮らしておったのですが、数年前に相次いで亡くなったのです」


 そうなのか、明るく振る舞ってるからそんなふうに見えないな。


「もう! おじいさま、お客様にそんな話しないで」


「イヤすまん。じゃがどうしても感謝の気持ちを伝えたかったのでな」


 アンナが会話に割って入ってきたが、ボクは言葉に詰まっていたので正直助かった。


「それにしても凄かったです。アヤトのあやとりが暴漢たちを圧倒したところをおじいさまにも見せたかったな」


「それは素晴らしい。アヤト殿はどちらであやとりを学ばれたのかな?」


 どちらでって言われても……それにあやとりで人を圧倒なんてしてないよ。

 ボクは上手く誤魔化したりなんて出来ないし正直にこれまでのことを話そう。


「信じてもらえるかわかりませんが、ボクはこことは違う世界に居たんです。元の世界ではあやとりはただの遊びで特別な力は無いんです」


 そして自宅で土砂崩れに遭った辺りからの出来事を説明した。

 二人は驚いて顔を見合わせたが、おじいさんが慎重に言葉を選びながら話しだした。


「なんと……にわかには信じられませんが、恩人の言うことを疑うわけにもいきません。アヤト殿がそう言うのならそれが事実なのでしょう。言われてみれば服装がわしらとだいぶ違う」


「そもそもこの世界のあやとりって何なんですか?」


「わしの知っている知識の範囲となりますが……この世界ではずっと昔からあやとりの上手さが正義なのです」


「正義……ですか」


「はい、あやとりを早く正確に美しく作ることで相対した者たちを圧倒することが出来るのです」


 えっ、何だよそのご都合主義な世界は、ありえないだろう……といっても実際に目の前にあるわけだが。


「まだその仕組みは解明されてはおりませぬが、一説には脳の美的感覚を司る部分を過剰に刺激してしまうのだとか」


「そう言えばあやとりのイメージみたいなのが相手の頭の中に吸い込まれるのを見ました」


「そのとおりですじゃ。ですので例え目を瞑っていても発動されれば防ぐ手段はありませぬ」


「それじゃあ、ボクも誰かにあやとりを見せられたら倒されてしまうんじゃないですか」


「心配なさらずとも良い。相手の身体にまで影響を与えるには相当な技量が必要です。それに自分よりも技量が上の相手でなければ殆どダメージは無いでしょう」


 うーん、安心したようなそうでないような。

 ボクなんかより技量の高い相手なんてゴマンといるだろうに、そういうのと当たらないで済むのだろうか。


 そんなボクの心配をよそにおじいさんはアンナと話を続けた。


「それでアンナ、暴漢たちは奴らの関係か」


「ええ恐らく。昼間の人通りの多い場所なのに気にせず連れて行こうとしましたから」


 さっきの連中のことだな。

 奴らってなんだろう、とても気になる内容だ。


「あの、さっきの連中って何かヤバい奴らの仲間なんですか?」


「はい、実はこの街はしばらく前からカァネ一家という連中に支配されておりましてな」


「要するに反社会的組織ですか」


「いや、単なる悪者の集まりではないのです。この街の市長アルフレッドは一家のボスでもあるのです」


 うわあ、一番マズいパターンなんじゃないか?

 そいつらに逆らったらこの街で生きていけないってことだよね。


「ですが、一家の構成員は普段は市民に手を出しません。奴らの狙いは街の収益の独占だからです」


「でも関係者ってさっき言ってましたけど」


「はい、ありていに言えば一家の周辺をウロウロしているチンピラ共です。一家の権力を傘に来てやりたい放題で皆困っておるのです」


「だから、アヤトが現れて救世主だって思ったの。あの簡単な技であの威力なら、もっと複雑な技ならすごいことになるだろうなって」


 アンナが急に割り込んできたけど救世主なんてボクにはとても……それより技によって威力が変わるってこと?


「あやとりの技が複雑なものほど威力が上がります。早く正確に美しく作るのは至難ですから。場合によっては相手の命を奪うほどですじゃ」


「命を……」


「まあ、そんなことはそうそう起こりませぬ。あと救世主とかいうのも気になさらずに。アンナ、アヤト殿は元は普通の少年のようじゃから勝手に期待をかけるのは迷惑じゃぞ」


「そんなぁ……それでも恩人には変わりあるませんから。今日はここに泊まってください、腕によりをかけて晩ごはんを作ります」


 ボクの青ざめた表情を知ってか知らずか二人に気を使われてしまった。

 でも久しぶりにお腹いっぱいご飯を食べて、借りた屋根裏部屋のベッドで気持ちよく眠れた。


 しかし、この幸せがずっと続けばいいなという思いは当然の如く叶わないのだった。

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