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第1話 プロローグと初めてのバトル

 ボクの名は糸繰イトクリ 綾人アヤト

 何の変哲もない、というか、自分で言うのもなんだが何をやらせてもサッパリな中学2年生だ。

 成績は常に中の下だし運動神経も良くないのでスポーツもからっきしだ。

 おまけに家は貧乏で、見た目こそ2階建て一軒家だが、何十年も前の家電しか置いてないようなオンボロの格安借家住まいだ。


 親はどうなんだって?

 父親はどうしようもないDQNのDV男だったらしく、ボクが小さい時に浮気相手と姿を消した。

 もちろん養育費なんて1円ももらってない。


 母親はシングルマザーとして頑張ってるが、安賃金のパートやバイトを掛け持ちでようやく食いつないでる。


 小学生の弟妹もおり、食事も給食を合わせて何とか一日三食に出来るが、休日や夏休みなどはまともに食べられないこともある。


 そんなボクの唯一の趣味はあやとりだ。

 なにせ糸が一本あればよく、金もかからないで時間を潰せる。

 家にたまたま置いてあったあやとりの本に載っている技を繰り返し練習するのが日課だ。


 今日は酷い雨が降ってるし、どうせ洗濯もできないから他の家事は適当に済ませてあやとりに没頭していた。


 でもさっきから家の裏の崖から小石が落ちてくる音がしてくる。

 窓を開けて様子を見ると、崖から鉄砲水のごとく泥水が噴き出してきてる。


 これは、もしかして崖崩れを起こすんじゃないか?

 ボクは慌てて弟妹を2階に上げた。

 階段が急角度なのでひと苦労だ。


 あとは1階に置いてある預金通帳を持ってこないと。

 これがうちの唯一の財産なんだ。

 さて、ボクも2階に上がろう……そうだ、あやとりの本も持っていかないと。

 よし今度こそ……。


 この時、地鳴りのようなゴゴゴゴって低く響く音と振動が聞こえたかと思うと、1階に土砂がすごい勢いでなだれ込んできた!


 一瞬で土砂に飲み込まれ、どうすることもできない。

 本と通帳を反射的にお腹に抱え込んだが、どうなってるかもわからないぐらいだ。

 息も出来ず、意識が遠のいてきた。


 ロクでもない人生だったが、それでもこんな一瞬で終わりを迎えるだなんてあんまりだ。

 弟と妹を2階に避難させられたのだけが唯一の救いだ。

 ああ駄目だ、もう完全に意識が途切れる……。


 そして気がつくと、ボクはどこかの街の路地裏の奥にポツンと一人で倒れていた。

 まだ昼間だろうか、太陽の光が差し込んでいるが全体的には薄暗くてちょっと怖い。


 確か家の中に居たはずなのに、何がどうなってるんだ?

 そういや通帳と本はどこにいった?

 本はすぐ横に落ちてたが、通帳は全然見当たらない。


 ボクの頭の中は混乱してパニックになりそうだ。

 他に何かないのかとポケットに手を入れると、糸のヒモが入っていた。


 そうだ、こんな時こそ、あやとりをして心を落ち着けるんだ……!

 まずは『川』、次は『星』、そして『富士山』……少しずつ落ち着きを取り戻してきた。


 さて、あとは『ほうき』でも作るか……よし、なかなかの出来栄えだ。

 が、そこに突然女の子が一人表通りから飛び込んできてすぐに転んでしまった。


 年齢はボクと同じくらいだろうか。

 セミロングの髪に目がぱっちりして鼻筋が通った美少女だ。


 大丈夫? と声をかけようとしたら、後ろから入ってきた3人組の男たちが女の子を見下ろしながら話しかけてくる。


「逃げなくてもいいじゃ〜ん? ちょっとおれたちと付き合ってくれって言っただけだろ〜?」


「それにしてもカワイイ女だよな。ぜってー逃がしゃしねぇぞコラ」


「そんなに怯えなくても大丈夫だって。おれたちがタップリと可愛がってやるからよぉ〜、ヒャハハ!」


 もしかして、これがナンパってやつか。

 男たちは見た目はボクより年上で高校生くらいだろうか。

 それはいいとして女の子も男たちも服装が変というかちょっと昔の時代っぽいのは何故なんだろう。


 そして男の一人が女の子の腕を掴んで連れて行こうとするが女の子は激しく抵抗している。


「やめてください! さっきから嫌だと言ってるじゃないですか、放して!」


 うわ、ナンパじゃなくて無理矢理拉致しようとしてるのか。

 警察を呼ばないと……と言ってもスマホは持ってないし公衆電話も見当たらない。


 どうしようと思いながら見ていると、男たちがこちらに気づいて脅しをかけてきた。


「小僧が何見てやがる、見せモンじゃねえぞオラァ!」


「なんかモンクでもあんのか、おぉ〜!?」


「やめてください、あの人は関係ないでしょう!」


「だったら大人しくついてこいや!」


 結局女の子に庇われる形となってしまった。

 これじゃあ逆に自分だけ逃げ出しにくいよ。


「あの、嫌がってるじゃないですか」


 思わず言ってしまったが当然ながら相手が怯むわけもない。


「あんだとコラ! テメー、痛い目に遭いたいらしいな」


「ヒヒヒ、先にコイツをヤッちゃおうぜ。おれ、こういう弱そうなのいたぶるのが大好きなんだ」


 男たちはそう言うと女の子の腕を掴んでる奴以外の2人がこっちに向かってきていきなり殴りかかってきた。

 

「うらぁー、死ねや!」


 ボクは防御しようと咄嗟に両腕を前に出したがほうきを作ったままだった。

 こんなんじゃ防げるわけないしボコボコにされる!

 と思った瞬間にあやとりの紐が光り輝き、ほうきのイメージみたいなのが相手2人の頭の中に吸い込まれていった。


「おゔぉ?」


「アヒィィ!?」


 2人は悲鳴とも快感とも区別がつかないような声を上げて卒倒してしまった。

 その様子を見て女の子の腕を掴んでいた男も悲鳴を上げながら逃げ出していったのだ。


「ありがとうございます、危ないところを助けていただいて」


 茫然としているボクに、女の子が声をかけてきた。

 これまでの人生でただでさえ女子と話すことが少なかったので、ドギマギしてうまく答えられない。


「え……いや、あの、その……何も大したことは、してない、です」


「そんなことはありません! あなたがいなければ、わたしどうなっていたか。恩人です」


「そうですか、それじゃそれでいい、です」


「是非、お礼させてください! もう少し先にわたしの家があるので来てほしいです」


 どうしようかまだ迷っていると女の子は何かに気がついたような表情をしてから更に話を続けてきた。


「あ、まだ自己紹介してませんでしたね! わたしはアンナといいます」


「ボ、ボ、ボクは、糸繰 綾人」


「名前がイトクリで、苗字がアヤト、ですか?」


「いや、アヤトの方が名前」


「そうなんですね。それではアヤト、すぐに私の家に行きましょう。もうしばらくすると夕暮れになります。街中は暗くなると治安が悪くなるので」


 どうしよう、でもここがどこかもわからないし行く宛もない。

 アンナは悪い人では無さそうだし、ここは素直に招待されておくのが無難だと思う。


「それじゃお邪魔させてもらいます」


「はい、では早速行きましょう」


 こうしてボクたちはアンナの家へ向かったのだった。

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