(5} 巨大アイドル……
ルㇽカ゚ルの巨大化が止まって光も収まった時に、ちゃんと彼女の体を見て比べてみたらその体はもうとんでもなく大きくなっていた。ボクとの身長の差は恐らく頭一つ分より大きい。頭を上げなければ目の前には彼女の胸が視界いっぱいになっている。
「やっぱりちっちゃい。不思議ね~」
「いや、ボクが小さいのではなく、ルㇽカ゚ルが大きいんだよ!」
「あはは、そうね。あたしどうやらちょっと大きくなりすぎちゃったみたい」
目算で恐らく身長2メートルくらい。しかし体型はやっぱり小さい時のルㇽカ゚ルそのままで、翅がないこと以外に何も変わっていない。
だから不自然を感じてしまうよね。そもそもルㇽカ゚ルのような体型では人間だったら150センチくらいの女の子だと推測していた。それなのに、こんなに大きく外れるなんてどう考えてもおかしい。まるで縮尺を間違えているみたい。
「ね、なんでルㇽカ゚ルはこんなに大きくなったの? おかしいよね?」
「まあ、そうね。でもやっぱりこうなるのよね。仕方ないかも」
「え? なんで? 心当たりがあるの?」
なぜかルㇽカ゚ル自身は何となくこうなるとわかっていたみたいで意外と冷静になっている。
「うん、だって、あたしは元から普通の妖精よりちょっと体が大きかったからね」
「……はい?」
ルㇽカ゚ルが普通の妖精より大きいって? どういうこと? そんなの初耳だけど。
「待って! ルㇽカ゚ルが大きいって全然聞いたことないんだけど」
「あれ? あたし言ったことなかったっけ? 妖精の身長は大体人間の8分の1だけど、あたしは6分の1くらいだよね」
「全然知らなかったよ……」
「そうなの!?」
ボクから見ればルㇽカ゚ルも他の妖精も小さく見えるから、その違いは今まで気づかなかった。もしちゃんと比べてみれば気づくかも知れないけど……。そういえばルㇽカ゚ルが他の妖精と並んで立つところをボクは見たことないね。そもそもルㇽカ゚ル以外の妖精と会う機会なんて少ない。この村に住んでいる妖精はルㇽカ゚ルしかいない。彼女は孤児で、仲のいい妖精友達もいないらしい。
「そもそもなんでルㇽカ゚ルは普通の妖精と違うの?」
「それは……。実はまだ原因不明だよね。だけどもしかしたら幼い頃から何か変なものを食べたとかが原因だとかかしらね」
ルㇽカ゚ルは苦笑いをした。
「つまり妖精の時から身体が大きかったら、人間になるとやっぱり普通の人間より大きくなっても当然ってこと?」
「まあ、そういうことね」
「そんな……」
ルㇽカ゚ルは普通の妖精の(1/6)÷(1/8)……つまり4/3倍大きいから、人間の時も4/3サイズになるね。本来身長150センチのはずの体型が200センチになっているのはその所為だろう。
「コリルはこんな大きなあたしのことが嫌なの?」
「あっ……」
ボクを見つめるルㇽカ゚ルの大きな顔はちょっと不安に見えてきた。ボクもこれが意外な展開で愕然としてつい不穏な表情を見せてしまったから。
確かに思っていたのと違うけど、それでもやっぱり……。
「ううん、別にそんなことは絶対ない。ちょっぴりびっくりしただけだ。小さくても大きくてもルㇽカ゚ルはボクの大好きなルㇽカ゚ルのままで変わりはないよ。好きだよ。大好き」
確かに小さいルㇽカ゚ルはとても可愛くて好きだけど、こんなに大きくなってもルㇽカ゚ルはそのままで変わりはない。もう手のひらに乗せることはできなくなって残念だけど、その代わりにこれから手を繋ぐことができる。
「本当? 嬉しい! あたしも大好き!」
そう言ってルㇽカ゚ルはボクを抱き締めてきた。確かに思ったより大きいけど、まだ人間に近いサイズだからこうやって抱き合えて嬉しい。
「コリルはあたしの腕の中に。えへへ」
ルㇽカ゚ルはなんかとても嬉しそう。しかし男のボクの方が抱き締められる方だとはな。なんか逆じゃないか。こんな状況は男としてちょっと……。
ただ不思議なことに、そうされて嬉しいワタシがいる。そもそも前世でワタシは比較的に小さい女の子だから、もし恋人がいたら当然ワタシの方が小さくて、大きな相手に抱き締められたり、可愛がられたりするのは当たり前だろう。そしてあんな恋人とのやり取りにもワタシは憧れていたんだよね。
まさか男になっても自分より大きい相手が恋人だなんて。ちょっと変な形だけど、こうやって自分が花嫁になれるような気がする。
「ね、ワタシのことを抱き上げていい? できればお姫様抱っこで」
「え? もちろんいいけど、なんで今『ワタシ』。ルリコちゃんモードなの?」
「まあ、今はこういう気分になっちゃったから」
昨日いろいろお話をしていてルㇽカ゚ルはワタシのこの人格のこともちゃんと受け入れてくれたから、時々ワタシとして話すこともありだな。
「それじゃまるであたしが女の子と結婚しているって気分になっちゃうじゃないか」
「嫌かな?」
「ううん、あたしはルリコちゃんのことも好きよ」
「なら今だけルㇽカ゚ルはワタシの花婿になって。役を交換しよう」
「あたしが花婿って……。これも面白いね。わかった」
そしてルㇽカ゚ルはワタシのことをお姫様抱っこしてくれた。
男の子に転生してしまったけど、こうやってワタシはお嫁さんにもなれたようだ。
ちなみに、その後ルㇽカ゚ルはこの世界のアイドルになった。それも実は元々そういうつもりではなく、ただ予想外な展開だった。
元から人形みたいに可愛かったルㇽカ゚ルは、今こんなに誰よりも大きくなって、その姿は目立ちすぎて外に出たら注目されて知れ渡ることになってしまったから。
それに彼女はワタシから日本のアイドルの話を聞いて随分興味を持っているようで、歌と踊りも教えて欲しいと頼まれて、実際に教えてみたら彼女は飲み込みが早くて歌も踊りもすぐ上達して、ワタシなんかよりもずっと……。そしてこれを広場で演出してみたら大人気になってみんなが彼女の虜になっていく。
最初はただ村の中で大騒ぎになって、いつの間にか周りの町も、そして全国……いや、最早全世界かも……。
既婚者だけど、ここは日本と違ってそもそもアイドルの概念はなかったから、そんなこと拘る人はいないだろう。そもそもアイドルに恋愛が禁止だというルール自体は理不尽だと、そう思っているのはワタシだけではないはずだろう。ということでボクも彼女の旦那であるのと同時に、プロデューサー兼マネージャーみたいな存在にもなって鼻が高い。
まさか前世できなかった大物アイドルになるという夢は、結婚して嫁が代わりに叶えてくれることになるとはね。
こうして巨大アイドルになった元妖精の嫁と一緒の暮らしでワタシは満喫していく。
お読みいただきありがとうございます。この物語はこれで完結です。
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