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(4} 大きくなると……

 前世のワタシの記憶を思い出しちゃった後の翌日、結婚するために今ボクとルㇽカ゚ルと一緒に村の教会(みたいな場所)にやってきた。


 この世界では人間と結婚した妖精は人間になれるのだ。人間になるってのはそのままの意味だ。体が大きくなって普通の人間と変わらないサイズになって、その同時に(はね)は消えて空を飛べなくなる。


 それだけ? よく考えてみれば人間と妖精の違いはこれくらいしかないみたいだ。だって実際にこの世界の妖精ってのは『(はね)が生えた小さい人間』って感じだから。


 確かに前世のワタシが読んだ小説やアニメとかでは妖精が自然から生まれてずっと同じ見た目を保って不老で寿命が長いという設定があるけど、実際にこの世界の妖精はそうではない。みんな人間と同じ両親から生まれて、人間と同じ寿命で、同じように子供から成長して年を取っていくのだ。


 実は……この世界の妖精は元々人間で何かの理由で『体を小さくして、その上に不便がないように空を飛ぶ(はね)も生やした』、という説もある。大昔のことだから本当かどうか誰もはっきりとわからない。どういう原理かもわからない。これについて研究している人もいるけれどあまり簡単ではないらしい。


 しかしだからだろうか、ある条件で妖精は人間になることができる。元々人間だから、これはただ人間に戻るだけって感じだろう。


 そしてそれを実現できるのは『愛の力』というものである。


 人間と妖精はサイズが違いすぎて一緒に暮らしても一緒にできることは限られているからなんか残念って感じもするよね。好きな人とはいろいろやりたいから。なのにサイズ差は邪魔になるのは悔しいことだ。何より、一緒に子供を作ることもできないし。


 せっかく結婚して一緒にいられるのだから、やっぱり一緒に並んで歩きたい。腕と腕で抱き合いたい。体を重ね合いたい。同じような世界を見たい。愛の結晶も作りたい。


 そんな妖精たちの渇望は、やがて奇跡を起こしてしまうほどの力になってしまう。


 だから結婚の儀式で永遠の愛を誓うと、妖精は人間になる……、ということになっている。


 もちろん、2人が本当に愛し合う必要がある。ただ人間になりたくて人間を(だま)して結婚させてもらう妖精なら、その目論見(もくろみ)は結局失敗で終わる。


 逆に言うと、もし見事に成功したらこれは2人の愛の何よりの証にもなる。


 だけど正直、だからこそボクは今でも多少不安な気持ちになっている。もしルㇽカ゚ル儀式が失敗してルㇽカ゚ルが人間になれなければ、って。


 でもきっと大丈夫。ボクはルㇽカ゚ルに対する恋は本物だという自信がある。彼女も本気でボクを愛していると信じて疑わない。だからきっと成功だ。


 そう信じて今2人はここにいる。今ボクたちは2人きりで教会の礼拝堂にいる。この世界の結婚の儀式は普段大勢(おおぜい)でお祝いすることではなく、花嫁(はなよめ)花婿(はなむこ)2人きりでやることだ。別に証人とか必要ない。神様が見ているからね。


 この世界では神様が本当に存在しているらしい。人間の前に姿を現すことはないが、いろんな手段で人間や他の生き物たちの生活に(かか)わっている。奇跡を起こしてくれるのも神様のようだ。そしてここみたいな教会の礼拝堂は神様に(つな)がりやすい場所でもある。


 「愛してるよ。ルㇽカ゚ル」

 「あたしも愛してるよ。コリル」


 愛の誓言を交わした後、次は愛のキスをして終了だ。


 今地面に立っているボクに合わせるためにルㇽカ゚ルはボクの唇と同じくらいの高さで目の前に飛んで浮いている。そして彼女の小さな唇はどんどん近づいてくる。


 ドキドキ。


 彼女の体は小さいから当然唇も小さくて、こんなサイズ差でどうやって唇を重ねるのか迷ってしまうけど、彼女の方からリードすることにした。大きいボクから動いても間違えやすそうであまり自信がないからね。


 そして彼女の小さな唇がボクの唇の一部に当たったという感覚がした。あまりにも小さすぎて軽くしか感じないけど、彼女の暖かさと柔らかさを確かに感じられた。


 人間同士でするのとは違うけど、こうやってキスという動作は成立したはずだ。


 「あっ!」


 重ねた唇が離れた後、ルㇽカ゚ルの体が光り始めた。それってつまり……。


 「もう成功!?」

 「そのようだ。やったね! あたし、もう人間になれるのね!」


 そして彼女の体はみるみると大きくなっていく。


 「体が重くて……」


 大きくなる体に対し、(はね)は小さくなっていってやがて消えてしまったから、ルㇽカ゚ルはやがてもう飛ぶことはできなくて着地した。元々(はね)は小さくて弱い妖精が自分を守れて不便なく暮らしていくためにとても重要だけど、やがて人間サイズになるのならもう必要はなくなるだろう。これから一緒に並んで歩くのだから。


 地面に立ったままルㇽカ゚ルの体は更に大きくなっていって、やがてボクと同じくらいのサイズになって……。


 「やったね、ルㇽカ゚ル! これで人間の女の子に……あれ?」


 その時ボクは何か違和感に気づいてしまった。ボクと同じくらいの大きさになってもルㇽカ゚ルのサイズの変化はまだ止まる気配はなく、更に大きくなっていく。もうボクの身長を越えて、ボクは彼女を見上げることになった。


 「ちょっと、それおかしいでしょう!?」


 今ボクは男の子で、身長もこの世界の同い年の男の子の平均値くらいで、つまり170センチ近く。だから普通に考えると女の子を見上げるなんてあまりあり得ない。もし普通の人間の女の子だったらね。


 だけど今のルㇽカ゚ルは間違いなくすでにボクより背が高くなっている。光の所為(せい)で見間違いとかではないらしい。一応彼女の足元も調べてみたけど、ちゃんと地面に付いているから飛んでいるわけでもない。


 「もう止まった? あたし、もう人間みたいに大きく……? って、コリルちっちゃい!」


 やがて変化が終わった時に、意外な展開でまだよく状況が飲み込めなくて困惑しているボクを見下ろしているルㇽカ゚ルは不思議そうな顔で感嘆した。


実は『妖精が人間に恋をして人間になれる』という設定は最近読んだ『羽根のない妖精』という作品からです。 https://ncode.syosetu.com/n5639j/


それを自分なりにTS転生の要素を加えてアレンジしてみたらこんな物語になります。

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