(3} ルリコちゃん……
「でもコリルが女の子だったか。どんな女の子かな? あまり想像できないかも」
ルㇽカ゚ルは前世のワタシのことに興味津々のようだ。
「あまり想像しない方がいいかも。言っておくけど今のボクの姿をそのまま女の子にするとかは違うよ。あっちでは普通の女の子で、今とは全然違うから」
「そうか。コリルの前世の女の子、ルリコって言うのね? どんな女の子なの? もっと教えて欲しいな」
「本当に知りたいの? ワタシのこと」
「『ワタシ』って?」
「あ、昔の自分のことを言う時、区別のために男のボクと違う一人称を」
どっちも自分だけど、やっぱり全然違う人物だと思ってもいいだろう。考え方もボク視点とワタシ視点で差がある。これからこんがらがって区別できなくなるかもしれないけど、今はまだこんな感じだ。
「なるほど。ではあたしも『ルリコちゃん』と呼ぶね」
「いいけど」
なんか今ワタシ、いきなり普通に女友達ができたって気分だ。
「それで、ルリコちゃんって可愛い女の子なの?」
「え? まあ、そうとも言えるかも。一応アイドルをやっていたし」
自分で言うのもなんだけど、今はただ一般論として言おう。少なくともアイドルやれるってことはそれならの可愛さを持っているから。もちろん、ルㇽカ゚ルと比べたら全然ミジンコだけどね。
「アイドルって何?」
「あ、そうか。この世界ではこういう概念はないよね。えーと……」
でも意味を解説しようとしてもあまり簡単ではなく話が長くなりそうだから、まずちょっと思い付きで大雑把な説明でいいか。
「詳しい解説は難しいけど、あえて簡単に言えば自分の可愛さで人々を笑顔にする仕事……って感じかな」
「そうか。つまりルリコちゃんって見る人が笑顔になるほど可愛い女の子なの?」
「いやいや、それほどでも……。もちろん、顔を見せるだけでなく、歌ったり踊ったりもする」
説明が足りないからそう解釈されてしまうのか。でもルㇽカ゚ルに可愛いと言われて嬉しいワタシもここにいる。
「そうか。歌と踊り、なんか見たいかも」
「それは……ちょっとね」
今の見た目と声はやっぱり完全にアウトだろう。
「それで、ルリコちゃんってもしかしてあたしよりも可愛いのかな?」
「え? そんなこと滅相もない。ルㇽカ゚ルはワタシなんかよりずっと可愛いよ。もしあっちの世界に行ってアイドルやったらきっとすごい人気アイドルになれるよ」
具体的に可愛さとか踊りや歌声などいろんな要素ももちろん重要だけど、そもそも可愛くなければどんなに上手でも売れないってのも事実だから。でも、多分何よりの決め手は運かな。これはワタシに一番ないものかもしれない。
「そこまでかな? えへへ」
「そうだよ。ルㇽカ゚ルの可愛さは世界一……。ううん、こっちの世界だけでなくたとえあっちの世界でも。宇宙一だ」
異世界だから同じ宇宙と呼べるかどうかわからないけど、とにかくどっちの世界でもボクの彼女は一番可愛いと言い張りたい。
「そんなに!? 大袈裟だよ! もう……」
ルㇽカ゚ルが照れながら嬉しそう。女の子は可愛いと言われることが好きだよね。ワタシだって、アイドルやっていたら何度も可愛いと言われていたけど、毎回嬉しかった。特に自分の好きな人から言われたらもっと嬉しいだろうね。まあ、前世のワタシは好きな人がいなかったからよくわからない。
「ルリコちゃんの顔も見てみたいな。声も聴いてみたい」
「それはやっぱり無理だろうね。あっちの世界のことだからボクの記憶しか残っていない。それにもう……死んだし」
ワタシの写真とか映像とか録音とか、あっちの世界からこっちに送ることができたら見えなくもないけど、やっぱり方法はわからないよね。
「あ、ごめん。そうだよね。あたし無理言っちゃって」
「別にいいよ。死んだのは仕方ないことだし。もう気にしなくてもいいよ。今ここにいてこうやってルㇽカ゚ルと出会って、むしろそれでいいと思うよ」
そんなことでいちいち気を使われたら切りはないよね。だからそんなこと納得できてちゃんと立ち直れたと言っておこう。
「死んでいいなんて、そんなこと言わないで。ルリコちゃんとしてあっちでまだいろいろやりたいこととかあるはずだよね?」
「やりたいこと……そうだよね。夢とか誰にでも持っているし」
「ルリコちゃんの夢って、もしかしてその……アイドルって仕事? それをやっていて人々を笑顔にしていくのが夢なの?」
「アイドル……。まあ、一応そうだったよね。でも実はね、その……そこまで上手くいかなくて、辞めようと思っているところだった」
「なんで?」
「ワタシ、そこまで可愛いわけではないみたいだし。才能もないらしいから」
「そんなこと……。いや、あたしはルリコちゃんを見たことないし、何も知らないから何か言える立場ではないのね」
そうだよね。そんなこと知ったような口を利いても意味なくむしろ逆効果かもしれないから。でもワタシを元気にさせたいという気持ちは伝わっている。
「まあ、もう気にしないからそんなことはいいよ。それにそれだけでなく、実はワタシ、ただ普通の女の子としてごくありふれた夢もあるんだよね」
「それって?」
「いや、でも今男の子の体で男の声だから、そういうこと言うのは違和感があるよね。笑われるだろうし」
「そんな……。笑うなんてとんでもない。あたしは聞きたいよ。だから心配なく言って。ルリコちゃん」
「ありがとう。では言ってしまおうかな」
今安心してつい『えへへ、ではルリコ言っちゃおうかにゃ~』ってアイドルの時みたいに愛嬌あるポースと口調で言おうかと思うのだけど、やっぱり今の体で全然似合わないからやめておこう。絶対笑わないと言ってくれたルㇽカ゚ルだってきっとつい笑っちゃうはずだから。
「それは本当に平凡なことでつまらないかもしれない。ただその……いつか誰かに恋をして付き合って、その人に愛されて抱かれて、その人のことばかり考えて、やがてその人のお嫁さんになって、その人の子供を産んで……」
女の子なら誰でも考える普通のことだ。ワタシ、別に何か特別を求めているわけではないから。
「素敵な夢だ。やっぱりルリコちゃん、女の子だよね」
「まあ。やっぱり自分で言って恥ずかしい……」
自分の顔は見えないけど、今きっと赤くなっているだろう。
「恥ずかしがることないわよ。あたしだって、コリルのお嫁さんになりたいし、コリルの子供を産みたいから。えへへ」
そう言ってルㇽカ゚ルの顔は赤くなってきた。
「ほら、やっぱりルㇽカ゚ルだって恥ずかしいよね」
「うっ……。だって……」
「うふふ」
「あっ! 自分のこと笑わないでって言っておいて人のことを笑うなんて酷いわよ!」
「ごめん、つい。でも恥ずかしいのは自分だけじゃないとわかって嬉しいかも」
やっぱり、自分の夢のこと言う時誰だって恥ずかしがっちゃうよね。
「もう、とにかくルリコちゃんの夢はあたしの夢でもあるから、あたしが代わりに叶えてみたいな。それでもいいかな?」
「本当? それは……それでいいかもね。ワタシは女の子に戻ることなんてもう考えられないだろうし。今このまま男の子としてルㇽカ゚ルと一緒に幸せになれるならボクとして人生満足だよ」
「よかった」
まさか自分が嫁に行くのではなく、嫁を取る側になるとはね。違う形だけど結局好きな人と一緒に家族を作って幸せになるということに変わりがないからこれでいいかもしれない。
「だからワタシと……ボクと結婚してください!」
「もうコリルったら、求婚ならとっくに済んだのでは?」
まあ、確かにそうだった。ボクも今更って感じだけどね。そもそもボクの15歳の誕生日……つまり昨日結婚する予定だったが、ボクは倒れてしまって中止になった。
「では、今回はルリコとして求婚ってことで?」
「それじゃまるであたしは女の子と結婚じゃん!?」
「あはは、そうかもね」
これは所謂『百合婚』だ? いや、でもこれはただの精神的だよね。
「やっぱりおかしな結婚になるのね。でも改めて嬉しい。あたしも、あなたと結婚する決意に変わりはないわ」
「よかった。では今すぐ……」
もう待ちたくないって気分だ。
「いや。でもまだ病み上がりでしょう。そんなに急がなくても。あたしはどこにでも逃げないわよ」
確かにその通りだな。体調はもう問題ないと思うけど、頭の中の混乱はやっぱりまだしばらく続くだろう。もっとちゃんと整理しておいた方がいいかもしれない。
「あはは、そうだよね。でもボクは早く人間になったルㇽカ゚ルの姿を早く見てみたいから」
結婚して人間みたいに大きくなったルㇽカ゚ルを目いっぱい見つめて、そして抱き締める。
「あたしだって結婚して人間になるのは楽しみだけど、コリルのことも心配だから、やっぱり明日でいいよ」
「そうだよね。わかったよ。では明日楽しみ」
だったら今日はもう少しだけ小さいままのルㇽカ゚ルを堪能しておくのもいいかもね。結婚したら今のこの姿はもう見られなくなるだろうから。
というわけで、こうやってボクたちの結婚は明日ということになる。
実はアイドルが転生するという設定は以前読んだ『勇者きららの転生』という作品の影響でもあります。 https://ncode.syosetu.com/n4050et/
この小説も私の推しで、イチオシレビューも書いたのでとてもおすすめです。