魔法少女のテンプレは体感するとある意味泣きそう。2
サイトの整理をしていたら書きかけを発見してしまいまして。
一応続きを書こうとしていたんだなぁ、と供養のために投稿してみました。
「なにがどうしてこうなった」
ガックリと崩れ落ちて呟いても1人。
独り言、虚しい。
けど、1人の状態じゃ無いと本音も口にだせやしない現状。
『りりか仕様』、マジで鬼畜。
喋れば勝手に口調が変わるんだよ。
「えへ」とか「ありゃ?」とか、日常会話で自分の口から出る日が来るとは思ってなかった。
いや、「自分」では無いんだけどね。無いんだけどさ!
はたから見れば「私」が話してるんだよ。
なにこの罰ゲーム!
実際の自分では絶対にありえない言動、及び、それを周囲が好意的に受け入れる現状は、居心地悪いなんてもんじゃ無い。
故意ではないけど、結果的に騙してるようなもんだよね、これ?
「あ、そうだ!神殿!女神(笑)と交信できるって言ってたじゃん!」
思い出した途端に走り出した私は悪くない!
絶対、抗議してやる!
勢いよく部屋を飛び出した私はすっかり忘れてたんだよね。
変身前の『りりか』は、ドジっ子でトラブル体質だって事を。
角を曲がって、見事にぶつかりました。
反動で後ろに転びかけたところで手を引かれ、見た目より逞しかったお胸に飛び込むまでがセットです。
誰にって?
決まってるでしょう?
キラキラした瞳でこちらを見つめてくださる第2王子様ですよ。
ヤァ、『りりか仕様』、いい仕事しやがりますね!
泣いていいかな?
て、訳で。
「きゃぁ!ごめんなさい!」
「そんなに急いで、どちらへ?」
「あの!神殿に……(女神に文句言いに)」
「では、ご案内しますね?」
の、やり取りの後。
今までの進路方向と逆の方向へと、なぜか手を引かれて移動中。
どうやら、神殿とは明後日の方へと向かってた模様です。
あれ?ちゃんとすれ違ったメイドさんに教えてもらった通りに進んでたはずなのに、どこで間違った?
「りりか様は信心深いのですね。ようやく一息ついたかと思えば、直ぐに神殿に赴くとは」
首を傾げてたら、心の底から尊敬したとでもいうような視線が降ってくる。
やめて、そんな目で見ないで。
心の何処かがガリガリと削れるから。
「そんなんじゃないですよぅ。りりか、女神様にお話ししたい事があるだけで(信心なんかあってたまるか!苦情申し立て行くだけに決まってるでしょ!)」
真実を言いたいのに、りりか仕様が邪魔をする。
ヤバい。
そのうちストレスで禿げるんじゃなかろうか?
「そうですか。りりか様は女神様の御使。直接お声を聞く事が可能なのですね。羨ましいです」
イケメンの柔らかな微笑み!
こうかはばつぐんだ。
心の中で血を吐きながらも、現実世界では頬を染めて俯く乙女。
ダメだ。
これそのうちじゃない。
毛根の死滅する音が聞こえる。
女神め。
次会った時は、減った分だけお前の髪も毟ってやるからな〜〜!!
手を引かれるままにたどり着いた神殿。
たどり着くまでにすれ違った人たちに恭しくお辞儀されたり、何やら温かな瞳で見送られたりと盛大なオマケがついたけど、無事にたどり着いた神殿は、王城の庭の一角に恭しく鎮座いていた。
どこぞの有名な教会を思い出させる荘厳な雰囲気のそれとピンク頭の女神が重なって見え、その違和感に舌打ちしたくなった。いや、似合いませんから。
まぁ、りりか仕様がそんな暴挙を許すはずもなく。
「すご……い。きれ〜〜」とウットリとした表情とともにつぶやく羽目になりましたとも。
隣に立つ第2王子様と、出迎えてくれた神官様(こちらも美形。そして若い)に微笑ましいような誇らしそうな目を向けられたけど………。
キニシナイ!
いちいち反応してたら、私の毛根の危機が加速する。
りりか仕様は全力スルー案件で!
女神と交信中に自分がどういう状況になるかいまいち保証がなかったため、
「女神様と内緒のお話があるんです」
と人払いを頼んでみる。
少し小首を傾げて見上げる先のお2人がほんのり赤くなっていたけど、まぁ、キニシナイ。
聖堂で1人になった瞬間、目の前の景色が変わっていた。
「ヤァ〜〜ねぇ、最近の子は物騒だわ。このキューティクルを保つために私がどれだけ努力してると思ってるのよ」
青空の下広がる草原。
所々には野の花が可憐な花を咲かせ、大樹の陰にはテーブルセットに優雅に腰掛けカップを傾けるピンクの髪の女神様。
「セイ!」
反射的にテーブルをひっくり返した私は悪くない。と、思う。
「キャアッ!何するのよ」
手に持ったカップは死守したらしい女神様(笑)が抗議の声を上げるが、知らん。
そっち側に倒さなかっただけ私の気遣いを有り難がるがいい。
「何するはこっちのセリフなんですがねえ、女神様?なんでか転送された先が空の上だわ。降りたところは修羅場クライマックスだわ。連れられた先はイキナリ王宮だわ。何より自分の言動がオートで展開されるわで、わけわかんない状況なんですがねぇ?!」
いつのまにか復活してたテーブルにバンッと手をつき詰め寄れば、女神様(笑)はキョトンとした顔で首を傾げた。
「え〜?だってりりか空飛べてたし、正義の味方はピンチに現れるものでしょう?
そもそも、ご神託からの神殿におろしてたら、人類滅びるまでは行かなくても半壊くらいはしてそうだったし。
そうなると、復活させる範囲が広がっちゃうし。広がるほど菜月の仕事が増えて大変になるだけだったんだけど、そっちが良かった?
まぁ、復活って言っても死んじゃった人は流石に戻せないから、あの場にいた人たちは全滅だろうけど」
脳裏に蘇るのは蹂躙され、地に伏していた人々の姿。
重症者はいたけど、ギリ死人がいなかったから、全てを元の形に癒せた。
つまり女神の奇跡はかけ算方式って事か。
1でも残ってれば大丈夫だけど、0には何かけたって0のまま……。
たしかに、ギリギリのタイミングだったわけだ。
そうか。
………女神の奇跡でも死んだら蘇らないんだ。
「はっ!しんみりしてる場合じゃなかった。あの投入だった理由は納得した。でも、りりか仕様は納得できない!何あの羞恥プレイ!!」
「可愛いわよね!魔法少女!私、りりかが1番好きなのよ。王道って、やっぱり大切じゃない?」
ニコニコ笑顔でパチンと両手を合わせる様子に悪意はなくって、本気で言ってるのがわかるだけに崩れ落ちる。
ええ、好きだったよ?魔法少女系。
3〜5歳くらいのときかな?ただハマりしてサンタさんにもお願いしたし、誕生日にもおもちゃ買ってもらってた。
将来の夢には「魔法少女になりたい」と母親の字でしっかり書き込まれてた。
け・ど・ね!
流石にこの歳になってこれはない。
黒歴史まっしぐらだから。
て、事を必死で訴えるけど女神様は無情だった。
「え〜でも、変身しないと魔法少女の力使えないし。一回設定しちゃったから、今更そこの変更はできないよ?菜月、りりか仕様解いて、自分であの変身ポーズ出来る?」
「変身ポーズ?」
はて、と首をかしげる。
現在の私の格好は、膝丈のピンク系統のワンピース姿だ。
王様との謁見の為に、部屋に案内されたタイミングで自然に変わったんだよね。
まさにアニメの中で、りりかが着てた普段着仕様。
突然目の前で服装が変わり、「神のみわざだ!」と一同騒然としてたっけ。
「そう。変身アイテム、あるでしょ?」
言われて、胸元に揺れる大きめのペンダントを見つめる。
花のモチーフでコンパクトタイプ。
これを開いて、一連の動作とともに変身を叫ぶのがお約束。
そしてその後に謎のエフェクトと共に、ダンスしながら変身していくんだけど………。
脳裏にりりかの変身シーンがうかぶ。
結構な時間をかけて流される変身シーンは、ダンスが可愛いと、真似して踊るちびっ子やコスプレイヤー達が続出したという。
「え?もしかして変身しようと思ったら、一連のアレをやらなきゃダメなの?」
「モチロン!あれ無くしてナニが魔法少女!!」
「アホか〜〜!!」
胸を張って答える女神様を、思わず罵倒した私は絶対悪くない。
確かに可愛い系の振り付けだった。
けど、あれを現実に踊ろうと思ったら、ダンスなんて学校の授業でしかしたことのない私にはかなり敷居が高い。高すぎる。
「仮○ライ○ーみたいに「変身!とう!」でいいじゃん!」
「えー可愛くないし、もう設定しちゃったから無理よ?理をそう簡単に覆すのは神様にだってできないんだから」
もっともらしい事を言って胸を張る女神が、本気で憎い。やっぱり、悪魔の間違いじゃないかな?
「変身シーンだけ自動にして、普段のりりか仕様を解くとかなら出来るけど……」
再度崩れ落ちていた私は、その言葉にバッと顔を上げた。
なんか希望の光が見える!
「けど、日常が菜月の言動で、変身シーンだけアレだとギャップがすごいけど大丈夫?」
ダンスの合間に入る決めポーズを思い出す。
頬に手を当て小首を傾げてウィンク。
バックスタイルから上半身だけひねりの投げキッス。
ご丁寧にキラキラの星やハートのエフェクト付き……。
前回空を飛んだ時の舞い散る花や、必殺技を出した時の光のエフェクトを思い出せば、どうやるのかはわかんないけど、そこまで忠実に再現してるんだろうなぁ。
乾いた笑いが浮かぶ。
私の言動との解離が酷すぎて、二重人格疑うレベル。
いや、実際今、二重人格状態なんだけど。
…………まぁ、ツインテールにワンピース姿な時点で、いつもの自分とは違うわけで。
どうせこの世界に元の私を知る人はいないし。
女神の依頼終了すれば元の世界に戻れるんだから、この世界の人と会うことももう二度とない。
と、なれば「旅の恥はかき捨て」と割り切ろう。
そうしよう。
「………りりか仕様、続行でお願いします」
「あ〜〜っと、周りに人がいない時なら、自由に言動出来るようにしてあるから、安心してね?」
何重にも自分に言い聞かせ、それでも絞り出すような声音で苦渋の決断を告げる私を、流石に少し気の毒に思ったらいい女神様から憐みの視線と共に情報がもたらされる。
知ってる。もうさっき部屋で打ちひしがれてたから。
それが救いになるかは微妙なところだけどね!
だって1人でブツブツ言ってたら完全変な人だし。見る人いないならいいのか?
まあ、とりあえずの逃げ道なんだろうと、お礼を言おうとした時、不意にペンダントがピカピカと光り始めた。
まるで、何かを知らせる様に。
「ああ、次の敵が現れたみたいね。頼んだわよ、りりか」
スッと表情を消した女神様が、真剣な表情で告げる。
途端に、スゥッと緑の世界が薄れ、教会の中に戻ってきた。
瞬間。
激しいノックの音に、バッと扉を振り返る。
「祈りの時を邪魔して申し訳ありません!」
「大丈夫です!敵が現れたと、女神様が教えてくださいましたから!」
開くと共に向けられた、すがる視線にコクリと頷く。
「行きます!案内してください!!」
「こちらです!」
走り出した第2王子様……えっとスウェイン様、だったっけ?の後を追って走り出す。
けど、変身前のりりかの体力は普通の14歳の少女で、本来の持ち主の私の体力もそれと大差ない。
つまり、本気で走る騎士の体力に追いつけるわけもなく。
ナニが言いたいかといえば、どんどん置いていかれているわけですよ。
ヤバい。
見失ったら敵にたどり着く前に王城内で迷子になる自信あるわ!
(どうする?ここで変身する?)
魔法少女化すれば身体能力も上がるはず、と思ったけど、この緊迫した雰囲気の中、アレをやるの?私?!
と、迷った瞬間。
「失礼」
ふわりと、体が浮いた。
「申し訳ないが、こっちの方が早い」
(いゃ〜〜!近い近い!)
なんと、抱き上げられて爆走されてますよ。
付いてきてない私に気づいて、戻ってきた王子様に!
しかも、ご丁寧にお姫様抱っこ!!
走りにくいだろ、どうやったって!って突っ込みたいのに、明らかに私が走るより速いどころか、さっきよりスピード上がってるんだけど。
なんなの?
王子スペックなの?チートなの?!
「ごめんなさい。魔法の力使わないと、私トロくって……」
恥ずかしそうに頬を染めて俯くりりかに、スウェイン様が凛々しくも優しい笑みを返す。
「いえ、こんなに華奢な体で、私たちを守ってくださってたのですね」
そして憂たっぷりの伏し目。
「そう分かっているのに、再び恐ろしい敵の前に貴女を差し出す様な真似を……私達は………」
「そんな事、言わないでください!みんな、命をかけて頑張ってました!そんな皆んなだから、女神様は失いたくないと私を呼ばれたんです!」
辛そうな表情のスウェインにそれ以上言わせたくなくて、りりかは声を張り上げた。
スウェインの目が驚いた様に上げられる。
その瞳に、りりかはにっこりと笑いかけた。
「人は助け合って生きていくものです。こうして、スウェイン様が、私を助けてくださってるみたいに……。
だから、私も自分にできる事、するんです!」
「りりか様………」
感動した様に名前を呼ぶスウェインに、りりかは茶目っ気たっぷりにウィンクをした。
「もう!様なんてつけないでくださいって言いましたよね!敬語もなしで!」
「……なら、私のこともスウェインと。敬語もいらない。りりかは女神様の使徒なのだから」
フッと力の抜けた笑みに、りりかは「わかったわ!よろしくね、スウェイン!」と笑顔で返した。
って、会話は、お姫様抱っこで高速移動中の出来事です。
王子チート、マジハンパない。
人一人抱えて走りながら、息切れ1つせずに会話できるとか、普通ありえないでしょ。
こんだけ能力あったら、りりか要らなくない?
自分達でどうにかできそうじゃない?
てか、ふわふわした甘い空気に砂吐きそうなんだけど、助けて。
そうして、駆けつけた現場では。
りりか仕様の可愛らしい変身シーンを披露した後、見事敵を撃破して、信者を増やすこととなったのでした。
が、なんであの長ったらしい変身シーンの間、攻撃もせずに敵は大人しく待機しているのかの謎を小1時間問い詰めたい。
の、だけど。どこに苦情を持っていけばいいのか、誰か教えろください。
神殿で神様に聞け?
やりましたよ?
応答しやがりませんでしたけどね?
都合悪いところはスルーするスタイルなのか、純粋に忙しくて対応不可だったのか。
わかんないけど、言える事はただ一つ。
キラキラの瞳で見つめられる居心地の悪さを体感すればいいのに!!
読んでくださり、ありがとうございました。
本当は前作とまとめて、連載の形にしようとも考えたのですが、やり方が分からず……。
一応シリーズ設定で良いか、と諦めました。
昔過ぎて作者自身も内容忘れてて、前作から読み返したのは秘密(笑)