第6.5話 さる若人らの閑談
──或る医師の診療所にて。
──これまた或る狩人が、2人分の夜食を調達するより前の話。
狩人の青年が目の前の少女に問う。
「……なら、家の場所は?」
「それも当然、憶えてないねぇ」
「…………身元が分かるようなもの……手荷物、ないし身分証に準ずるものは?」
「生憎、素寒貧なもので」
「じゃあ、じゃあ──」
青年が言葉に詰まる様子を見て、少女はにやにやと笑っていた。
放っておくと勝手に慌てだす青年の姿が、まるで大きな子供のようだと、少女にとっては可笑しくて仕方がなかった。
それと同時に、少女は察した。眼前の青年が、あまり自分から話を振るタイプではないのだろうと。
それでも、彼の方が年上だろうから、無理しているのだろうな、とも。
内心苦笑する。
少女としては、このまま眺めていてもいいのだけれど、このままでは、仮にも命の恩人である彼を無下に扱うことになってしまう。
……であるならば、仕方ない。
少女は静かにため息を吐いた。
※※※
「なあなあ少年、こっち見ろよ」
よく通る声で、少女が言った。
反射的に青年が顔を上げて、その目を剥いた。
眼前にいる少女が、ぺらりと病衣をまくっていた。
少女の白い腹とへそが露わになっていた。
親指を立て、ニヒルな笑みを浮かべて、少女が言った。
「ほら、身一つさ」
「……何で腹を出したの?」
いつか見せた、大人っぽい一面は何処へやら。
年相応の表情。
少女はきょとんと眼を丸めて言った。
「いや、分かりやすいかなと思って……え、怒った?」
「怒ってはないけれど……」
「じゃあ興奮した?」
青年は何も言わずに立ち上がり、少女に背を向けた。
訓練された兵士のように、素早いターンだった。
間髪入れず、青年は部屋の出口へと向かった。
去り際に一言だけ言い残して。
「あなたと話していると、いやに疲れる」
その時、少女の目には、足早に去っていく青年の後ろ姿が映っていた。
そして、僅かに朱に染まる青年の横顔も。
青年がドアを開ける。
「何故だろう、初めて言われた気がしないな」
青年が去っていった後も、少女の顔にはこぼれるような笑みが浮かんでいた。