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案内人「白雪姫」  作者: 目くじら
第3章 白雪姫と薄紫の三姉妹
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第35話 そういう一面 前編

「ちょ、ちょっと! 無言で服を着せないで、子供じゃあないんだよ私は!! ひとりで着れるんだからぁああ!!」

「………………」


 ぎゃあぎゃあと喚くティールに髪を引っ張られ、抵抗されながらも、僕は何のリアクションも取らなかった。

 それどころではなかった。

 予想だにしていなかったアクシデントによって、先刻は取り乱してしまったが、現状を声に出してみると、頭はほんの爪先程でも平静になる事ができていた。

 そして、冴えた頭で見たからこそ、気付けた──僕が狼狽して良い理由など、何ひとつ無かったのだと。


 周囲を見渡す。

 眼前、水場には黒外套一枚のティールと石像が在るが、違う。今、見るべきは其処じゃあない。

 視野を広げ、元凶を探し出す。水場を囲む木々の間から、此方を見ている姿は、無かった。


 再び、石像の元へと視線を落とす。

 石像は、およそ10歳前後と思わしき短髪の少年の形をしていた。額には、包帯と思しき布切れが巻かれている。

 実物をこの目で見るのは初めてだが、どうやら石化というものは、身に着けている服にも適用されるらしい。原理は分からないが、布切れが身体と一体化している様に、同時に固まっていた。

 石像の纏う服装は、この辺りでよくみられる普段着の類で、僕達の様な旅支度ではなかった。

 何処から見ても、普通の少年だ。

 

 僅かに覗ける石像の横顔からは、これといった表情の変化は見られなかった。安らかな寝顔でも、恐怖に引き攣った種のものでもなかった。

 言うなれば、寝起きにコップ一杯の水でも飲む様な、無表情。

 これから自分の身体が石になるにしては、些か能天気ともとれる、そういった類のものであった。

 

 正直なところ、僕は一秒でも早くこの場を去るべきだと思っていたが、それを見てしまったから、落ち着いた。

 落ち着けてしまったのだ。

 僕は深く息を吐いた後、再びティールの顔を見ると、訊ねた。


「ティールさん。時間が無いので、1つだけ教えて下さい」

「……何だよ」


 無理矢理服を着せたせいだろうか。心なしか、彼女の視線が幾ばくか冷たくなったような。

 ……いや、余計な事を気にしている暇はないか。

 先刻よりは落ち着いた、心臓の鼓動を無視しつつ、僕は石像の元へと屈んだ。

 次いで、視線を向けずに、僕は彼女自身に選択を委ねる事にした。


「どうしたいですか?」


 何を?とは、聞くまでも無かった。

 無駄口を叩いている暇が本当に無かったというのもあるが。

 彼女の性格も踏まえれば、敢えて訊ねる必要もないだろう、という話である。

 そして、やはり、次に発せられたその答えは、一字一句として予想を上回らなかった。


「どうしたいかと聞かれれば、この少年を助けたい。方法は?」

「……………………」

「いや、ないはずがないな。違うかい?」


 ティールの口ぶりは、僕ならば、その石像を救う手段を知っているに違いないと、疑っていなかった。

 ……いや、現に知ってはいるのだが。それを教えた事はなかったはずだ。

 信用されているのか、単純に無茶を吹っ掛けてやろうとでも画策しているのか。

 僕は溜息でも吐いてみれば良いのだろうかと、口ごもっていると。

 

 「返事は!?」


 殺気立った気配が、背後で噴火した。

 あなや、ど突かれそうになるも、既のところで背中を守りつつ、僕は大急ぎで懐から護身用の煙玉を取り出した。

 次いで間髪入れずに、ふわりと腰を持ち上げた──小脇に一体の石像を抱えながら。


「イエス、マム!」

 

 叫ぶより早く、僕は地面に煙玉を叩きつけていた。

 白煙が、噴出する。

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