第30話 聖騎士がやって来る その1
村はずれで行われた、出席者2名だけの宴会から3日後、ゴーリ村には珍しく来客があった。
そして訪れた者達は、例によって盗賊の様な犯罪者集団ではなく、清廉潔白な数人ばかりであった。
彼らはフルプレートアーマーを全身に纏い、白銀の長剣と丸盾を装備していた。
総重量はかなりのものらしく、一歩踏み込む度に、足首の高さまで土に沈み込む程である。
しかし、その実彼らの動きに鈍重さは微塵もない。絹製品でも纏っていると言われた方が、未だ信憑性に満ちている。
仕掛けは彼らの纏う防具にあり、その防具はある魔工技師によって作成されたものだった。
当然、真っ当な代物ではなく、素材は魔術で鍛えられた特注品を使用していた。
それ故、防具には魔力を自在に流す事ができ、身体能力等の底上げをも可能としている。
詳細は省くが、陳腐な言葉で表すと──所謂改造人間というものである。
……そう、改造人間。彼らは確かな目的で造られた存在なのだ。
――と、ここまで語れば大抵の人間には察しが付くかもしれないが、敢えてここに記しておこう。
先般より彼ら彼らと指す事から明らかだが、全身鎧の改造人間は1人ではない。量産品として、数人数十人単位で運用される事が常だ。
彼らは密やかに、首都で極秘に開発されていた兵器の一種であり、世間的に認知されたのも、ごく最近だと言われている。
よくある例え話だが、魔術師を天然物と見た時、彼らは養殖物として挙げられる。
だからと言う訳ではないが──彼らには魔術師と張り合えるポテンシャルがあるのだ。
上記した様に、尋常ではない力を持った有象無象。それらを量産し、物量で対象を殲滅する。
言うなれば、数の力。
それこそ魔術師にはない強みなのである。
……ただ、今回の様にその限りではない場合もあるが。
それはさて置き、当初こそ鎧の改造人間と呼ばれていた彼らには、いつの間にか違う通り名が付いていた。
魔力を用いた対魔術師用の最終兵器として、人々は彼らの事をこう呼んだ。
──聖騎士と。
※※※
そして、そんな聖騎士達がゴーリ村に入り込む事を決して面白く感じていた訳ではないが、思うところあり、遠巻きに見ていただけの者達がいた。
狩人の青年および”元”記憶喪失の少女──今は師弟関係の2人組。
リドリーとティールだった。
「だから聖騎士は非常にタフなんです。正面から彼らと殴りあおうと思ったら、こちらも全身に魔力を流さなければいけませんが、それでは魔力効率が――」
「うんうん、だからもうその話はもう食傷気味なんだって。ザルバ達の回収係が彼らに決まってから、ずーっとその話してるよね? いい加減、耳がとれちゃうよ」
「……まだ、話し足りないくらいなんですが」
耳たぶを引っ張るティールに対し、リドリーは分かりやすく落ち込んだ様に、肩を落としていた。
半刻前より2人は茂みに姿を隠し、聖騎士が村に入り込んで来るところを待っていた。
自分達が覗き見している事がバレない様に、聖騎士らの視界に入らない程度には注意を払っていたのだが。
「そんな事よりだよ、リド君。さっきからずっと気になってたんだけどさ──アレは何だい?」 ティールは指先を持ち上げながら、そう訊ねた。
「アレって?」
「ほら、彼らが担いでいる、家の模型みたいなヤツの事さ。御大層な装飾が付いているだろう?」
「付いているというか、フジツボみたいに装飾品がびっしりと付いていますが……」
そう言ってティールが指を向けていた先には、確かに数人の聖騎士によって、小さな木造家屋の模型らしき物が運搬されていた。
それは凡そ子供が1人くらい入れるかどうか、といった大きさの小箱だった。小箱の土台には担ぎ棒が挿入されている為に、聖騎士達は軽々と小箱を担ぎ上げる事ができる。
ティールの言う通り、小箱の外装には装飾品がふんだんに接着されていて、直視していると目がやられる程だった。
数秒考え込む様に首を傾げたかと思えば、やがてリドリーは思い出したと言わんばかりに手を叩き、言った。
「あぁ、恐らくアレは『ミコシ』でしょうねえ」
「ミコシ…………って、何だい?」
「……そうか。主に東方で使われる道具だから、知らなくても仕方ないのか……。いえね、ミコシとは東洋のとある小国で使われる祭具の一種なんですよ。あの小さな家の中に、神様を留めておくとか何とか……」
「神さまをって──不敬じゃあないのかい。それは?」
ティールが疑る様な視線を向けてくるのを、リドリーはあらぬ方向を見る事でやり過ごした。
「僕の専門は宗教学じゃあないんですがね」
「出た。都合が悪い事あると、すーぐこれだよ」
そっぽを向くリドリーに対して、ティールは口元を指で交差させてみせた。
返ってこない答えに苦笑を浮かべながら、彼女は「じゃあ、あの人達は」と切り出した。
それは何の感慨も持ち合わせない、のっぺりとした表情だった。
これと言って、彼女の言動に他意は感じられなかったが、次の言葉は何故かよく耳に残った。
「聖騎士達は、何の為にあんなモノを担いできたのかな?」
それは、僕も気にはなっていた──なんて詰まらない台詞を、リドリーはすんでの所で飲み込み、消化した。
聖騎士がここまで持ってきたミコシが、ザルバ達盗賊らの引き渡しに使うにしては、色々な意味で適さないなんて事は、論ずるまでもないからだ。
小さすぎる、華やかすぎる、極めつけは脆すぎる。
ケチの付け所はそれだけではないが、兎も角。
そう、大量の犯罪者兼、たった一人の魔術師を捕らえ、国の中枢まで運送するには、そんな輿では到底無謀だという話なのである。




