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案内人「白雪姫」  作者: 目くじら
第2章 白雪姫と或る野盗
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第16話 やぁやぁイモムシ君や

『……とりあえず、先生に診せましょう。尋問はその後で』



 2人の不審者を捕らえてから、半刻の時間が過ぎ去った。

 

 彼らのロープで彼ら自身を拘束している間、ティールには席を外してもらった。

 僕が見張っている間に、先生を連れてきてもらうためだ。

 ティールが先生を呼びに行っている最中は、まるで生きた心地がしなかった。

 一応キツく縛っていたし、そもそも彼らは気を失っていたので、脅威は無いに等しいのだが……全くと言っていいくらい、安心出来なかった。


 彼らを拘束する前に、簡単に所持品を調べさせてもらうと、出るわ出るわ、いろんなブツが。

 ハンティングナイフや鞭、それに手錠、メリケンサック等々……。

 小柄な男に至っては、足の指の間からカミソリが生えてくる始末である。


 埃っぽくて薄暗い部屋で、意識のない男女4人に囲まれて。

 全員息はしているけれど、誰がいつ目を覚ますのかも分からない状態で。僕はただ息を殺して、部屋の隅に立っていた。

 4人の内の半分は顔も知らない相手で、数分前まで僕らに牙を向けていた猛獣ときている。

 今日ほど、1人でいるのが心細い日は無かった。


「ただいまーリド君! 元気してた~~? 先生連れてきたんだけど」

「──ティールさぁあん!!」

「おわ」


 やがて帰還したティールの元へと、僕は半泣きで飛びついた。

 恐怖から、我を忘れていたからだろう。

 年上の威厳も何もあったものでは無かった。

 鼻腔が甘い匂いで満たされていった。


「おうおう怖かったねぇ、よーしよしよし」

 

 呆気に取られているティールの胸に顔を埋めるも、彼女は怒ることもなく、僕の頭を撫でてくれた。

 男女の抱擁というよりも、飼い主と犬がじゃれ合っているようなものに近い気がする。

 

 もうしばらく──具体的には20分くらい、この場から動きたくないなと考えた時だった。

 わざとらしく、咳払いをする者がいた。


「……なぁ、イチャついてるところ悪いんだがよ。そろそろジジイにも教えてくれねえか、顛末をよぉ」


 コールタール先生は、既に部屋に入っていた。

 床に寝ている老夫婦らを触診しながら、訝し気な目をこちらに向けていた。

 どちらからともなく、僕とティールの背筋がピンと伸びる。


「じ、実は……」


 僕は恐る恐る口を開いた。

 とは言っても、先生と別れてわずか数十分の出来事だ。

 説明はほんの一言で終わった。


「あいつらに襲われました」

「「!?」」


 僕は縛られている2名の不審者を指で示した。

 その瞬間、彼らはどちらからともなくピクリと身体を跳ね起こした。

 目を閉じてはいるが、そろって冷や汗をかいている──って?


「…………いつから起きてたんだ、お前ら」


 どうやら、マヌケは見つかったらしい。





 

「すみませんでした。何でも喋るので許してください……」


 全身をロープでぐるぐる巻きにされ、芋虫の様に地を這いながら、男はそう嘆願した。

 僕の足元にいるそいつは、小柄な方の不審者だ。

 挨拶代わりに人様を殴りつけてきた大男の方は、あまり利口ではないのかいきなり跳びかかってきたので、もう一度股間を蹴り上げておいた。先刻よりも2割増しで威力を上げて。当然、大男は泡を吹いて倒れた。

 今では、汚い物を触るかの様に、ティールに棒切れで突かれている。

 

 とはいえ、玩具がタダで手に入ったと嬉しそうなので、放っておく事にする。

 チビの方が御しやすいというのは、全世界の共通認識だろうしな。

 僕はゆっくりしゃがみ込んで、小柄な男に目線を合わせた。


「大体想像は付くけれど……とりあえず、お前たちの事を教えてもらおうか」


 

 

 ※※※



 

 小柄な男は、名をクラウンと言った。

「お調子者って意味だぜ、よろしくな!」なんて、聞いてもない事までペラペラと話す、ある意味では名前通りの人物だった。

 大男の名前は知らないらしい。顔を合わせたのもつい最近のようで、そこまで仲は良くないのだと。

 ……まぁ、指名手配犯らしいので、調べればすぐに分かるらしいのだが。


 クラウンの口は、羽のように軽かった。

 仲間であるはずの大男や、彼らについて不利になるはずの情報を吐く事に一切の躊躇が無かったのだ。

 清々しいまでの屑である。

 尋問する側としては、手間が省けて助かる反面、彼の持っている情報がどこまで本当なのか、確証を持てずにいた。

 聞けば聞くほどに、頭の痛くなってくる話だ。

 

 彼の話を簡単にまとめると、こうだった。

 

 ・彼らはある盗賊団の下っ端である事。

 ・その盗賊団の首領は「ザルバ・ド・ティーチ」である事。

 ・団の規模はそこそこであり、食糧問題で連日殺し合いが絶えない事。

 ・構成員の中には、個人的に食料を盗む者が一定数存在しており、クラウン達が老夫婦の住居に侵入したのも、それが要因である事。

 ・つい先日、夜半に目撃された怪しい人影は、大男の方である事。


 ……それらを聞いて、どうして僕とティールが襲われたのか、得心がいった。

 

「つまり、クラウンさん達があの老夫婦を襲っているところに、僕らがタイミング悪く来てしまった──という訳ですね」

「ちょーっと、違うかなあ」


 しかし、僕の出した結論を、クラウンは大袈裟に否定してみせた。

 捕縛された中、唯一自由な舌を回す。


「あのなぁーあくまでもなぁ。あくまでも、だ。主犯はあのデカブツなんだぜ。俺は付いてきただけで、何も盗ってないし、誰も殴ってないんだよ! つまり俺はむじ」

「蹴りつぶすぞクソガキ」

「すみませんでした」

「……………………仲良いな、お前ら」


 僕らのやり取りを後ろで見守っていた先生が、難しい表情でこちらを見ていた。

 それと同時に、額の中心をしきりに爪で掻いていた。まるで何かを思案しているように。


「なぁ青年、私からも質問いいか?」

「青年って──別にクラウンって呼んでくれて良いんだぜ?」

「いや、結構。賊とつるむ気は毛頭無いのでな」

「そうかい、つれないね……で? 何が聞きてぇんだよ」


 にべもなく断られたにも関わらず、クラウンは肩をすくめて、ニヒルな笑みを浮かべている。

 ……捕まってるのに、随分と余裕だな。

 何か逃げる算段でも付いてるのか?

 

 僕がどうでも良い思考に意識を割いている間にも、刻々と時間は過ぎ去ってゆく。

 視線を動かすと、既に先生は額を掻いていなかった。

 古びた白衣同様、僅かに黄ばんだ眼で盗人をじっと見つめていた。

 そして、長い年月を経て、ガラガラの低音しか出せなくなったその喉を震わせた。


「単刀直入に聞く。……何故、この家で盗みを働いた?」

「? ……だから、それは今」

 

 答えたぞ──クラウンはそう言いかけて、口を噤んだ。

 彼の言葉は最後まで紡がれず、代わりに──


「あぁ、そういうことね」


 目から鱗が落ちる、とはこういう事か、と僕は思った。


 関心したとでも言いたげに、クラウンが鼻の穴を膨らませていた。

 そして初めて、彼は先生の目を正面から見据えた。

 

「そうだ。という事はやはり、私の考えは当たっている訳だな?」

「……さぁね。アンタの気にしすぎじゃあないのか」

「知らないなら教えてやる。その返事は、イエスと同義だぞ」


 その返事を聞いて、クラウンは「へぇ、そうかい」と鼻で嗤った。

 それから、片眉を上げて言う。


「やっぱり俺、ジジババは好きになれねーわ」

「気にするな。俺もチンピラとは、反りが合わん…………おい、リドリー!」

「は、はい! 何でしょう」


 突然、矛先を向けられた事に戸惑い、僕は声を上擦らせた。

 しかし、戸惑う僕にかかずらう素振りもなく、先生は突如として切り出した。


「時間が無いからな、用件だけ話す。今すぐダイデムの安否を確認してこい。いいか、今すぐにだぞ」

「はい? 何です突然」


 先生は珍しく、切羽詰まった表情をしていた。

 普段見慣れた、余裕たっぷりの先生の姿とは、似ても似つかない様子である。

 僕が訊ねると、先生は何やら焦った様に唾を飛ばした。

 

「だから、説明している時間が無いんだ。無事だったらそれで良い。お前がクソジジイの杞憂に付き合わされるだけだ。さっさと行け!」

「いえ、あの。ですから説明を──」

「時間がねぇって言ってんだろうが!!」


 先生が怒号を発する。

 もはや動揺を隠そうともしない先生と、状況に付いていけず困惑する僕。

 そんな僕らを仲裁したのは、この場で最も若い少女の声だった。


「話は聞かせてもらったよ! こういう時こそ、私の出番じゃあないか!!」


 胸をドンと叩き、背筋を伸ばしたティールが、僕と先生を見下ろしていた。

 自信満々の彼女の足元には、踏み台として有効活用される、惨めな大男の姿があった。

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