後日談① 熱血・神の子、無双します!(前編)
※こちらは番外編です。
本編 第一部「カナリアイエローの下剋上」完結後の時系列となります。
~カナリアイエローを解放した、そのあと~
「そういえば、あの雷鳴の山脈には、しばらく行ってないね~」
そう呟いたのはマリア・ヴェガ。
アゲハ、マニー、マリア、サリバ、イシュタ、そして僕の6人で会食を取り囲み、軽く世間話をしていた時の事だ。
最初のボスを討伐したので、次の冒険へ行くまでの「気晴らし」である。
「あぁ、あのルカのチャームを取りに行った以来か。そういえば、もうあそこは前みたいな雷雨は頻発していないんだっけ?」
僕はアゲハとマニーへ交互に一瞥した。最初に視線に気がついたのはアゲハ。
「完全にではないけど、だいぶ穏やかになったよ。あの山脈にはまだ生き残ったスライムがチラホラいるから、彼らの能力で雨が降る事もあるけど」
「そうか。でも、久々に山脈へいこうかな。このさい、腕試しもしたいし」
僕は一案した。途端にマリアがノリノリの笑顔だ。
「いいね♪ 私もいきたいな~。あ、そうだ! ねぇそこのお二方」
と、ここでまさかの同席しているサリイシュへの声掛けである。
2人は食事の手を止めた。
「あなた達も、山登りする? 私たちが敵と戦う所、まだちゃんと見た事ないでしょ?」
なんて、まさかのマリアからサリイシュ同行のお誘いであった。2人は「えっ」となる。
「い、いいのかな…? 私達が行っても」
サリバのその言葉には、僕も気が気でならない。
こうして一同の視線が向けられた先は、この国の女王。アゲハであった。
「いいんじゃない? 念のため、ここはマニュエルも一緒に」
との事である。
なんと、女王様からあっさりOKの声を頂いてしまった! いや、この国のユルさからすればそんなに意外でもないか。するとマニーが、
「はぁ… しょうがない。今回は特別だぞ」
と、丁度食事を終えたタイミングで立ち上がり、まるで世話の焼ける2児を育てているお父さんかのような溜め息をつき、同意したのだ。
「「ホント!? やったぁ!」」
サリイシュは大喜びだ。この流れはちょっと意外だったな。
でも、まぁいいか。神の所業で、戦い慣れている大人が3人もいれば楽勝だろう!
――――――――――
というわけで辿り着いた先は、あの激しい雷雨が印象的だった、山岳地帯。
今や空は少し雲がかかっている程度の、天から差す光が美しい山脈だ。
「お? 早速あそこにスライムが数匹いるねぇ」
マリアの遠くを覗く目が、まるで食料となる生き物を探しているハンターかのよう。
僕は早速、その場で黒い片手剣と、黒いモヤのような炎を生み出した。
「せい!!」
ブォン!!
自身の半径1mから、黒い焔を螺旋状に吹きあがらせ、上昇気流を発生させる。
「おー。なんか、怖いな…」
と、イシュタが内心ドン引きしている。
ちょっとモヤる反応をされてしまったが、まぁ仕方がない。僕が出すこの魔法はつい先日、あの礼治さんから分け与えられた闇深き黒焔。つまり「魔王」の力なのだ。
「いくぞ!」
僕は先頭に立ち、スライム達のいる所へと突撃した。
空は飛べないけど、黒焔のもつ爆発力を使って、超高速の移動を行う。
「はあぁぁぁぁー!」
ザシュン! スパーン! ドーン!
スライムたちは間もなく、僕が振り下ろした黒い剣の餌食となり、爆ぜた。
あの時は、まだ虹色蝶と雷以外に何も持っていなくて、マトモに倒せなかった。
でも今の僕は、スライムの体を一瞬で蒸発できるほどの、強力な火属性魔法を手に入れたんだ。それを武器に、ヘマさえ犯さなければ幾らでも戦える。
ちょっとヌルゲーかもしれないけど、ここは遠慮なくスライム達を無双だ!
「ぎゅるうぇえぇぇー!!」
「ぴぎいぃぃぃぃぃー!!」
黒焔の攻撃を受けたスライムが、次々と沸騰しながら、パンと割れて四方に散らばった。
その散らばったスライムの肉片に触れるのは、危険だ。火傷しちゃうからね。
「「すごい」」
サリイシュが、遠くに映る僕の戦闘シーンを見て、目を輝かせた。
かっこいい、と思ったのだろう。正直、悪い気はしない。
ところが、
「じゅるじゅるじゅる~!」
背後から、別のスライムの鳴き声が響いてきた。
「くっ…!」
マニーが振り向き、急いで武器を構える。目の前に現れたのは、頭にツル状の雑草を生やした、かなり大型の緑色をしたスライムであった。
「草スライムだ! 2人とも、下がれ!」
マニーはすぐにサリイシュを庇い、草スライムへと特攻した。
「「はい!」」
サリイシュはマニーの指示通り、急いで近くの岩肌へと隠れる。
マニーは持ち前の身体能力を活かし、飛んでくるツル攻撃を、いとも簡単に躱していった。
ピュンピュンピュン! バシーン!!
草スライムの攻撃は鞭の様にとても早いが、マニーにとってはこれ位、どうって事ない。
スライムが何処を振り回しても、マニーには一切当たらず、ただ地面にツルを叩きつけたりと空振りの連続だ。そして、
「蝶よ!」
♪~
攻撃を躱しながら、マニーが自身の周囲に虹色蝶の群れをフェードインさせた。
するとそれを目くらましに、自らの姿を見えなくする。カモフラージュだ。
シュバババババ! ザクッ! ズシャーン!
刹那。草スライムの頭上に、突如現れたマニーが渾身の突き刺し攻撃を食らわせた。
草スライムが、声にならない悲鳴を上げながら、草枯れとともに溶けていく。
マニーの圧勝であった。
自分より2,3倍もデカいくねくねした敵を相手に、さすがアガーレール王国のナンバー2。余裕の戦いぶりである。
(つづく)




