表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【 金 魚 の 水 槽 (°-° э)Э 】

私ん家 金魚の水槽みたいな匂いする

作者: 塩谷 文庫歌

 アイツはダメだった。


 ただ真面目なだけの男だと思っていたのに、持ち付けない金銀財宝を手にして、すっかり人が変わってしまった。『相場が値上がりしてる、今が売り時』すっかり騙されて、安く手放して、ただの抜け殻になってしまった。


 木こりが金相場なんて知ってるわけがない。

 相手は金儲けができると踏んで、話を持ち掛けてきた。

 正直者がバカを見るんじゃない、ただのバカだった……

 だから、ダメになった。


 彼が樹木伐採を放棄して、「これからはエコの時代」とか「ゼロカーボン社会」なんて、絵に描いた餅みたいな実現不可能な世迷言ばかり言いだした、その責任の一端は、私にあったんだろう。


 見た目だけで、重すぎるうえに強度が無い。

 あんなもので、木が切り倒せるわけがない。

 金の斧で気を惹こうとした、私もバカだ……



 「(コポ)フッ(コポッ)



 自嘲が鼻を鳴らすと、泡になった。

 形を変えつつ水面へと昇っていく。



 ……ん?



「こんなスゲェ森の奥深く、林班図にもない泉が湧いてる! 精霊でも出てきたらファンタジー世界だな? よぉし、今日はこのパワースポットで弁当にするか!」



 人間の声……?

 騒々しいなぁ。



「お? 結構、水は濁ってる」



 失礼ね…… ほ っ と い て ~ !!


 実のところ、綺麗な泉に、泉の精霊は棲まない。


 理由はカンタン。

 主食が魚だから。


 綺麗な泉には『水清ければ魚棲まず』の言葉通り、魚がいない。魚がいなくては食費がばかにならない。水道光熱費と食費の節約は、基本中の基本。それが貯蓄を切り崩して生活している、泉の精のライフスタイル。


 ここは日当たりが良くて暖房いらず。反面やたらにプランクトンが多くて、その死骸が積もってヌルヌルしてる場所まであるくらい。水質は決して良くないから、ペットショップの魚類コーナーみたいなニオイが漂っている。


 でも、魚は多い。


 たまぁに釣り人が訪れて竿を出し、「全然、釣れない」と立ち去っていく。私が日々食材にしている魚たちは常在戦場、プレッシャーに曝され続けていて警戒心がハンパ無い。魚影は濃くても、釣り場としてはシビアコンディションすぎる。


 だから、訪問客の少ない小さな泉(我が家)



「それにしても……神秘的な光景だ」



 ま、まぁ。

 褒められて、悪い気はしないけど。

 感想は『沼っぽい』が断トツ一位。

 この景色に感激する人間は珍しい。



「うおぉお? 神が降りてきた?!」



 ……本当に騒々しいなぁ。

 スマホに入力しはじめた。



「精霊が棲む泉へ斧を落とした木こりが金と銀の斧を手に入れた。相場もわからず売り払ったら、こうなって、こういうのはどうだ! いや、違うか? さしあたり生活には困らない程度には換金できる。たとえば泉の精と、こうなったとしたら。そうか、これだ! なんてこった……オレは天才なのか?!」



 な、なに?


 あんまり他人事じゃない個人情報になってきた。

 その内容、まさかスマホで世界に配信している?



「早速、【文筆家になろう】へダイレクト投稿だ」



 なぁんだ。

 野生の、なろう民だった。

 ここって電波来てるんだ?



「んぐわっ、し、しまった――っ!」





    ち ゃ ぽ ―― ん ♪





 お い お い 。


 どんだけオッチョコチョイなの~?

 興奮しすぎて、スマホ落としたよ!


 どれどれ。

 随分詳細に入力してたっぽいけど。



 ん?



 これもう、電源、入らないでしょ。

 そりゃそうか、水没したんだから。


 それにしても、まいったなぁ。


 泉の精たるもの、金銀のスマホを持って浮上すべき場面。

 でもね、外装まで都市鉱山なんてスマホ、持ってないよ?


 泉の底を見回すと、色々と運び込んだものはあるけれど。

 どれもこれも、微妙に使い道に困る、時代錯誤な骨董品。

 どう考えても、現代っ子が欲しがるようなものじゃない。



「適当に見繕っていくか」



 そうか……なろう民の欲しがるもの。

 これとか、このあたり。


 あ、これは?

 このスマホ治せるかも。


 よし、決めたっ!





  ざ っ ぱ ―― ん !





 あれ? 好みのタイプ。


 でもね。


 もう、男なんて懲り懲りなのよ。

 なにか好みのものでも選ばせて、トットと御引き取り願いましょうか――



「森の奥にある自然の露頭が神秘的すぎて、インスピレーションまで湧いてきた。スマホに直接ガンガン入力しているうちに興奮しすぎてウッカリ手を滑らせ、泉にスマホを落としたら、銀髪碧眼長耳の美少女が出てきた、だと? 湧き水に長時間潜っていた状況からして当たり前の人間ではないだろう。その証拠にギリシャ風のヒラヒラした薄い布がズブ濡れでピッタリ肌に張り付いているのに、肝心の乳首が透けて見えない誰得の衣装」



 ……乳首とか言うな!



「私の名はヘルメースです」

「あの、泉の精で有名な?」



 え?



 ちょい待ち……それ。

 ど ん く ら い の 範 囲 に 知 れ 渡 っ て る の ?!


▼ 本編こちら

[ うちの奥さん金魚の水槽みたいな匂いする ]

https://ncode.syosetu.com/n1588ic/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
c4trcah9l0jg5wzpi8s697wii5t8_1e0t_g4_90_76x2.png
― 新着の感想 ―
[良い点] 勢いもあって過去と現在の創作のクロス(?)を感じてとても面白かったです! [一言] ヘルメースってググったら美少年の神? ということは……フフフ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ