39 先手必勝
寒い……
どうしてこうなった……
目の前には美味しそうなケーキがフォークの上に乗っている。そしてそもフォークは目の前の少女──栞から差し出されている。今はもうお腹いっぱいなどと言えるはずもなく差し出されている。
キッチンには買った覚えのない食材と調理器具だたくさん置いてあり、甘ったるい香りを漂わせている。
恐らく作り直したであろう後がいくつかあったが、どれも店においても遜色ない出来栄えで、なぜやり直したのかよくわからないほどだった。
そうやって変わり果てたキッチンを見て混乱していると、栞は何も言わずにダイニングの椅子に座り、向かいに座るよう促してきた。
そうすると冷蔵庫からケーキを取り、フォークを渡してくれ……ずに?一口分フォークで取り、無言で差し出してきたのだ。
まさかこれは……と突然のことに驚き、固まっていると、「あーん」と少し遅れて拗ねた声が来た。
その声でやっと状況が理解でき、覚悟を決めて、顔を近づけた。
顔を近づけるにつれて恥ずかしさがこみ上げ、なんともいたたまれない気持ちになったので素早く口の中に入れた。
パシャッとシャッター音が鳴った。
予期せぬシャッター音に急いで顔を上げると、フォークを持っていない左手でスマホを向けていた。そして、顔を上げてちょうど目が会うとまたパシャッとシャッター音がなった。
栞は自信満々に言った。
「奏人くんの可愛い写真ゲット♪」
「もう疲れたから好きにしてくれ……」
今日はもう疲れに疲れて瞼が重い。「あれだけ済ませてから寝るかぁ。」とある人物に電話を入れておき、その日は眠りに付いた。
朝、つんつんと不規則に触られていることに気づいて目が覚めた。眩しいながらも目を擦りながら顔をあげると見覚えのあるエプロンだった。
「奏人くん、起きてください?朝ですよ。」
耳元で朝には少しばかり刺激の強い甘い声で囁かれた。
急だったので思わず飛び起きる事態になったので二度寝をしようとしていた奏人には効果てきめんだったのだが。
徐々に意識が覚醒してくると、家に栞がいるという事実と先程のことをどうしても意識してしまい、自分でもわかるほど頬を赤くしてしまった。
「奏人くん少し顔が赤いですよ。」
と言いながらも栞も頬を赤らめていた。
こんな生活が続けばいいのにな。と思う。こんな距離感で過ごすとなるとこの家ではまずい。祐作さんも、できるだけ大会社の息子と結婚させたいと思っているかも知れないし、栞のもとにはもう大量の縁談の申込みが来ていてもおかしくない。
そういう縁談を申し込んでくる輩の中には不純な動機な者も少なからずいるだろう。そんな輩に栞を取られないためにも、先手は確実に打たせてもらう。
「栞、少ししたら出かけるよ。どんな家がいいか考えといてね。」
そういって、香りの元に急ぐ。
貴重な休日だ。一刻も無駄にはできない。
俺──冷泉 奏人は家を買ってみようと思います。
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