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夢に咲くコンヴァラリア  作者: 音無哀歌
第一部 第一章『大陸横断編』
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グラサンの少女

 大きなリュックを背負い、ランプを片手に、エヴァがやってきたのはシェルターの出入り口。厳重に閉ざされた隔壁の前。

 スイッチ一つで電動開閉する……はずだったが停電によりそれはできない。

 代わりにハンドルを回して手動開閉する必要がある。全体重をかけ、力んだところで一センチ動くか動かないかという頑丈なハンドルを……。

 数分後、僅かにあいた隔壁の隙間から蜘蛛のように這い出てきたエヴァ。

 通路を進み、スロープを上がった先には眩い光。

「夜じゃなくて昼か」

 普通なら眩しくて目があけられないーというありきたりな展開が待っているものだが、エヴァは用意周到だった。

 ポケットからあまりにも似合ってなさすぎるサングラスを取り出し、ゆるふわな少女顔を台無しにしてしまう。しかし、そのおかげで視界は良好だ。暗闇に慣れてしまった目でも十分に活動できる。

 地上に出ると、場所は海と都市部に挟まれたコンテナターミナル。遮蔽物が多いため、白い悪魔に見つかる心配は少ない。身を潜めながら慎重に旅の第一歩を踏み出す。

 目的地まではそう遠くない。夢の中で同じ言語を話していたことからも、近い地域の出身者であることが確定しているからだ。

 とはいえ正確な座標が分からないので、遭難してそのまま孤独死もありうる。

 地図を広げると、そこにはいくつか印をつけられている。事前にメカニックの拠点がありそうな場所をマーキングしておいたのだ。

 そのうちの一箇所を最初の目的地に選定し、日が暮れる前にアドリブで野営地を探さなければならない。

 十何歳かの少女には厳しい旅だが、それでもやるしかない。

 彼女はひたすらに歩き続けた。誰もいない都市、できる限り見通しの悪い道を選び、怪物に見つからぬよう細心の注意を払いながら。

 そんな中、不可思議なものを目の当たりにする。

 都市の至る所に白いロープのようなものが不規則に張り巡らされている。コンクリートの壁面から生えてはアスファルトに突き刺さり、板ガラスから生えては街路樹に突き刺さり……

 以前外を歩いたときには見かけなかった異様なものだ。

 白い悪魔の尖兵である皚獣(キニグス)の姿が全く見えないことと、そのロープ状のものが白色であることから、警戒すべきものであるのは確か。

 近づかないように遠回りしつつロープのない場所を進んでいく。

 そして、一本のトンネルが見えてくる。

 中にロープは見当たらず、出口まで身を隠しながら進める都合のいいルートだと思った。

 しかし、トンネルに侵入した瞬間だった。腕に微かな感触が走り、思わず二歩下がる。

 エヴァが見たときには、すでに千切れたあとの白い糸がふわりと宙に漂っている状態で、それは蜘蛛の糸のようにも見えた。

 だが、それとは明らかに違う点が一つ。

 千切れていたはずの糸が再び空中で繋がったのだ。それを見てトンネルに入るのは危険だと、勘がそう囁く。

 一度来た道を戻ろうと振り返った。

 そこにいたのは数え切れないほど脚を生やした巨大な白い怪物──皚獣(キニグス)だった。

 地球のどの生物とも似つかない、もしくは複数の生物をキメラのように混ぜたとも言える異形の存在。その速度や知能など、あらゆるデータが不足している。

 迂闊だった。これは皚獣(キニグス)を警戒する人間を狩るための皚獣(キニグス)。首尾よく先に進んでいたように見えて、このトンネルに誘い込まれていたのだ。

「こ、こんにちはー」

『こんにちは』

 返事がきた?

 機械でエフェクトをかけたような人工的な音声。

「もしかしてフレンドリー? 皚獣(キニグス)ってみんな敵だと思ってたけど陽気な子もいる?」

 対話を試みようとするも、怪物は大口をあけて襲いかかってくる。

『なに言ってんだ? いいから伏せろ、じゃないと死ぬぞ』

「へ?」

 モーターの駆動音が聞こえ、それが次第に強まっていく。言った通り伏せなきゃ死ぬ気がしたので、ほんの一瞬でアルマジロのように地面でうずくまる。

 瞬間、炸裂音。

 伏せていた顔を上げると、目の前にいた皚獣(キニグス)の頭部と思しきパーツが破裂し、欠損している。

 巨体が崩れるようにぐったりとし、割れた頭の向こうに機械が飛んでいるのが見える。

『危ないところだったな……。にしても……夢で言っていたことは本当だったのか、念のためドローン飛ばしといて正解だったよ』

 どうやら喋っていたのは皚獣(キニグス)ではなかったらしい。

 空飛ぶ小型の機械は六つのプロペラで浮遊し、カメラや武器と思しきものをぶら下げている。

「メカニック! ありがとう、助かったよ」

『無謀にも程がある……人類をここまで減らした怪物を舐め過ぎだ』

 エフェクトがかかった音声でも十分に呆れが伝わってくる口調だった。

「あはは、なんだか楽しくなってきちゃった。生きてるってこういうことなのかー」

『ボクが言えたことじゃないけど、キミも相当狂ってるね……。ひとまず合流まで手助けをするよ。ドローンは奴らに狙われないから、偵察は任せてくれよ』

「頼んだメカニック」

 上機嫌になったエヴァは危機感を忘れてスタスタと先へ行く。

『話聞いてたか?』

 そしてそれを追うドローン。

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