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夢に咲くコンヴァラリア  作者: 音無哀歌
第一部 第一章『大陸横断編』
15/77

三式機人(トリトス・マキナ)

 ずらりと並ぶ人型ロボットと、それを繋ぐコードや謎スイッチや謎モニター。

 マキナ専用ドックにてエルピスは修理を受けている最中だった。

「エーノシダス……長いからエーノって呼んでいい?」

 台に腰掛けたまま、気さくに話しかけると、やはり機械的に音声が帰ってくる。

「構いません」

「エーノはいままでずっと一人? 他に仲間とかは?」

「いません」

「暇じゃなかった?」

「感情はありませんので」

 瞬時に淡々と返ってくる言葉に、エルピスは気圧されていた。

 というかエイドニアスでここで来るまでも、実は似たようなやり取りをエイドニアスのAIと繰り広げていたりする。

 それでも修理中はエルピスのほうが暇だったので、世間話せざるを得なかった。

「じゃあ、なにもせずずっとじーっとしてたの?」

「いえ、この基地のメンテナンスをおこなっておりました」

「百年間?」

「十年間です」

「え? 文明が滅んだあとからずっとじゃないの?」

(わたくし)エーノシダスが構築されたのが十年前ですので」

 なんとなく始めた会話の内容がとんでもないことになってしまい、エルピスは思わず体を乗り出す勢いだ。

「文明が滅んだのって、百年以上前だよね? どうして十年前にエーノが……誰が作ったの?」

「その質問にはお答えできません」

「コンコルディアって人が関係してる?」

「その質問にはお答えできません」

「私のパパが関係してる?」

「関係していません」

「やっぱりコンコルディアが関係してるんでしょ!」

「その質問にはお答えできません」

「コンじゃん……」

『バレたか……無能AIめ』

 それからエルピスは尋問の相手をエーノシダスからコンコルディアに切り替える。

 まるで余罪を追求する刑事のように、間髪入れずにどんどん尋ねる。

(エイドニアスがあの場所にあることを知ってたのも、この場所の存在を事前に知ってたのも、前にこの場所に来たことがあるからでしょ? 他にもなにか隠してることない?)

『仕方ないのう。一つ大きな秘密を明かしてやるから、それで堪忍してくれ』

(おお! なになに?)

 コンが秘密にしていたことや、未だ秘密にしていることに対して別に怒っているわけではなく、エルピスは単純に好奇心から知りたいだけであった。

『百年以上前のこと……白い悪魔の襲来を予知した預言者がおってのう。マキナは元々軍用機じゃったが、それを人類存続のために転用することになった。

 第二世代と違い、第三世代の三式機人(トリトス・マキナ)は制御核と人間の精神を融合させることができた。それは言い換えれば機械の体への転生とも言うべきもの。

 其方も知っての通り皚獣(キニグス)は機械を襲わない。その性質すらも預言者は予知し、人類をマキナに変える計画を進めたのじゃな』

(アタシみたいな人がまだいるってこと?)

『いや、残念ながら計画は失敗に終わった。絶望的に時間が足りなかった……。三式機人(トリトス・マキナ)の量産は不可能じゃった。完成したのはたった一機だけ』

(それが、アタシ……?)

『正確には我、じゃな。其方の父アントラカがスリープ状態のマキナを保有していたのじゃが……それが我。自分の娘が死んだあと、我の機体を作り変え、娘の生き写しとした』

(じゃあ、本当はこの体はコンの体だったの?)

『そういうことじゃな……。まあ、其方が気にする必要はない。我はもう役目を終えたようなもの、あとは眠るだけでよい……ほれ、修理が完了したみたいじゃ』

 金属の鏡面に反射するエルピスの姿は、完全に修復されたわけではなく、千切れた生体模造素材や、露出した機械部分の凹みや傷はそのままだった。

 とはいえ、もげた右腕は再び使えるようになり、空の彼方に飛んでいった左手も替えのパーツを取り付けることで皮膚素材以外はほぼ元通り。脚も万全の状態となった。

 そして自分を修理してくれた者へ心より感謝を述べる。

「ありがとう、エーノ! これでエヴァに会いに行ける!」

「どういたしまして」

 返ってきたのは無感情に発せられた単語に過ぎないが、荒廃した世界で意思疎通が図れる存在は、エルピスにとっては機械だろうと嬉しかった。

 友好的に笑みを浮かべ、エーノシダスにある提案をした。

「そうだ! エーノも一緒に行こうよ。こんな場所で一人っきりじゃ寂しいだろうし」

「感情はありませんので、寂しさは感じません。加えてこの施設での業務が残っております。同行はできません」

「うぅ……」

 冷たく返されると、やはり気圧されてしまうエルピスだった。

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