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夢に咲くコンヴァラリア  作者: 音無哀歌
第一部 第一章『大陸横断編』
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エーノシダス

 アムシス軍港跡。

 潜水艦エイドニアスは何事もなく埠頭に着艦していた。そう、何事もなく……。

 ハッチが開き、中から顔を出したエルピスの第一声は疲れきっていた。

「やっと着いたぁ、暇死にするかと思った!」

 西大陸からここまで来るのに百五十時間以上。疲れを知らない体とはいえ、代わり映えしない退屈な船旅のせいで精神に限界が来ていた。

 時間帯は夕方。

 軍港という割に明かりは一つもなく、船の姿もエイドニアスを除けば一つもない。

(それで……どこに向かえばいいの?)

『マキナ専用のドックがある、其方の体を修理できるじゃろう。位置はエイドニアスのデータベースにアクセスすれば分かるはず』

(えー……また戻るの? あの牢獄に……)

『牢獄とは失礼な……。わざわざ乗船せずとも遠隔からでもアクセスはできる』

(ねえ、なんで詳しいの? 潜水艦があるって知ってたのもどうして?)

 返事はない。

(答えられないってことは……なにか後ろめたいことでもあるの?)

『ある』

(そこは正直なんだ……)

 それからエルピスはエイドニアスへのアクセスを試みる。

 瞼を閉じると、サイバー空間が広がる。

 三式機人(トリトス・マキナ)専用のブラウザであり、あらゆる機器へのアクセス権を有する人類史上最強のハッキングツール。

 エイドニアスはもちろんのこと、世界中のあらゆる施設、機密情報に侵入できてしまうのだが、どこにどの情報があるか探し出せないため、まずはコンコルディアに言われた通りエイドニアスのデータベースに格納された情報へアクセスする。

 しかし、不可解だった。

 世界の全てにアクセスできるという代物のはずだが、いくつか閲覧できないデータがある。それもエイドニアスの中に存在しているのだ。いつどこでなんのために建造されたのか、なぜ西大陸の港に潜っていたのか。

 謎は他にもある。

 エルピスがどこで作られたのか、誰が作ったのか、それすらも分からない。ただ、三式機人(トリトス・マキナ)に関する資料は豊富にあり、自由に閲覧できた。

 マキナはただのロボットではなく、魔法を利用した共鳴型デバイスだ。

 勝手に動き回ることはなく、制御核なるコアと人間が共鳴しなければ稼働しない。エルピスの場合、マキナと元来のエルピスの共鳴によって稼働していると言える。

 そして、その制御核を開発したのが北大陸に存在したマルス帝国。

 アムシス軍港には多くの三式機人(トリトス・マキナ)を建造、格納していた地下施設があるようだ。

 既に日が落ちかけていたため、足早にその場所へと向かう。

 明らかに重要そうに守られた堅牢な要塞。コンピュータで管理された施設だが、電源が落ちているため、ハッキングしたところで意味はないはず。

 そう思っていたが、施設には稼働中の機械が一つだけ存在した。

(エイドニアス級潜水艦二番艦……エーノシダス? ……地下に潜水艦があるの?)

『行ってみれば分かる』

 さっきまで電源が通っていなかった施設が息を吹き返すように照明がつき、巨大な門が騒音を立てながらゆっくりと開く。

(文明崩壊から百年が経ってるのに、まだ動くんだね……潜水艦もそうだけど、意外と長持ちするんだね)

『普通はそんなに長持ちしない……存外、最近までメンテナンスしていた者がいたのやもしれないな』

 鋼鉄の扉を抜け、専用のエレベーターに向かう。

 兵器や機材を自由に持ち運べるように大きめに作られた昇降機。なぜか無事に動くようで、難なくパスワードを入力し、地下深くへ潜っていく。

 そして、最下層に昇降機が降りきったとき、出迎えるようにエルピスの目の前に一人の少女──否、少女型のロボットが立っていた。少し前の──破損する前のエルピスとは異なり、人間の擬態が中途半端で、関節部を見れば一目で機械と分かる見た目。そして、無表情のまま口内にあるスピーカーから音声が発せられる。

「お待ちしておりました。キャプテン。当艦、エイドニアス級潜水艦二番艦、エーノシダスは現在セパレートモード。船体不在のため航行は不可能です」

 エルピスは機械的に話すそのロボットの発言に、到底理解が追いつきそうもなかったが、なんだか聞き覚えのありまくる台詞に、もしやと思う。

「潜水艦に搭載されてるAI……だよね? でも潜水艦じゃなくて普通のロボット?」

「はい。エーノシダスの船体は未建造のため、インターフェースは試験運用型マキナの機体を代用しております」

 それからエーノシダスはいかにもロボットらしい挙動で踵を返し、前に向かって歩行を始める。

「ドックへ案内します」

 同じ機械とは思えない機械っぷりに、エルピスは自身が特殊な存在──人間とも機械とも言いきれない中途半端な存在であることを再認識したのだった。

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