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夢に咲くコンヴァラリア  作者: 音無哀歌
第一部 第一章『大陸横断編』
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擲鉄

 エルピスは昨日と変わらない姿で目を覚ました。

 体の随所を破損させていたが、それでも活動に支障はない。

 青空を仰いだまま心の中で呟く。

(パパは……)

『死んだだろうな』

 内なる声、コンコルディアが答えると、エルピスは顔を絶望色に染め、声を震わせる。

「アタシのせいだよね……アタシが皚獣(キニグス)に見つかって村に誘き寄せたせいで……」

『ん? それは違うぞ。マキナは皚獣(キニグス)から標的にされないどころか感知もされない』

(え? でも、村の人たちが……)

『濡れ衣だ。少し考えれば分かるだろう? 皚獣(キニグス)の大群に襲撃されてなお無傷のまま旅立てたのは其方が機械だからだ。次に皚獣(キニグス)を見つけたら、試しに挨拶でもしてみたらどうだろうか』

 村に怪物を引き寄せたのは自分ではない。それならば、父親や自分が村人から責められていたのは一体なんだったのか。いまとなっては正すことができず、それが心疾しい。

 そして機械と聞いて、自分の手をグーパーさせるエルピス。生身の人間にしか見えないが、もげた右腕に視線を移し、その断面図が確かに機械であることを確認する。

(記憶が戻ってもいまいち実感湧かない。機械のはずなのに、エルピスとしての記憶があるし、いまある意識が偽物だとは思えない)

『機械と言っても三式機人(トリトス・マキナ)という特注品でな。少し事実と異なるが、解し易く言えば魂を有するロボットだ。感情も自我も人間と相違ない。思考は全てCPUではなく制御核と呼ばれる魔導装置に委ねてある』

(いままでずっと不思議だったけど、コンがアタシの中にいるのは……その三式機人(トリトス・マキナ)であることと関係あるよね?)

『それについては追々話そう。そうだな、エヴァと合流したあとにでも』

 エヴァとの合流が重要なのは間違いないが、そこに行き着くまでの旅路でいくらでも話す機会はある。エルピスはこう思った。それでも後回しにするということは、なにか隠したい理由があるのではと。

『いいや、意味がないのだ。いま話しても理解できぬ』

 思考は全て筒抜けだということをいま一度痛感したエルピスは、顔を渋そうにしながら出立の準備を始める。

 ひとまず周辺にある店からダクトテープを強盗すると、もげた右腕を肩に固定しておいた。稼働はしないが、リュックサックなどに詰めて持ち運ぶよりも肩から生やした形にしておきたかった。なにせ片腕が取れたままだと体のバランスが取りづらい。

 街で必要なものを一通りかき集めたあと、次なる目的地──港へと歩みを進める。

 その道中のこと。

 山道で一体の皚獣(キニグス)を見かける。

 長い耳に長い尻尾、巨大な単眼を持つモフモフの巨大生物。前に見たものよりも可愛らしい見た目をしているが、皎童魔(フィリアス)の尖兵で間違いない。

 おそるおそる物陰から覗き見るように顔を出し、呼びかけてみる。

「こんにちはー」

 すると耳がピクリと動き、エルピスのほうを振り向く。だが、音を感知したはずなのに、それ以上索敵することなく、またそっぽを向いた。事前にコンコルディアが言った通り、まるで相手にされていない。

 今度は目の前まで近づいて指でつついてみる。

 やはり一度は反応するも、誰もいないかのような素振りで別のことをし始める。

「なんか……これはこれでショック……」

 自分ではずっと人間のつもりでいたのに、人類の敵からも敵として見てもらえない。襲われないに越したことはないが、随分とうらぶれたような気分だ。

「でも、敵として認識されないなら、一方的に駆逐できるんじゃ……」

『其方が人類を救えるかもな』

「よし」

 エルピスは背負っていたリュックサックを一度下ろし、中から武器を取り出す。

 それはとても軽量で、とても単純な構造で、それでいて殺傷力の高い武器。

 スリング。

 投石器とも呼ばれるその名の通り、二つ折りの紐の先に石を取り付け、手を軸に高速で回転させることで遠心力を乗せ、人力でも強い力で物を投擲できる原始的な武器。

 ただ、エルピスが使うものは通常とは異なる。そして使い手も通常の人間とは異なる。

 鉄球を装填し、手首を軸にロボットならではの超高速でスリングを回転させる。

 この状態で殴ってももちろん強いが、スリングの真髄はこのエネルギーのまま投擲できることにある。

 相手が無警戒の棒立ち状態なので投擲武器を使う必要はないのだが、今後使う場面に遭遇することも考えて、いまのうちに慣れておく必要がある。この皚獣(キニグス)は練習台に丁度よかった。

 そして、エルピスは高速回転させた紐の片方を手放し、鉄球を解放する。

 まさしく砲撃と呼ぶに相応しい攻撃が皚獣(キニグス)の目玉を撃ち抜く。

 ロボットゆえに計算能力はずば抜けており、エルピスが思い描いた通りの弾道だった。

 皚獣(キニグス)はどっしりと横倒れになり、微動だにしない。

 どうやら一撃で仕留めることができたようだ。

 巨大な死骸を素通りし、エルピスは上機嫌にその場をあとにする。

『もはや化け物と呼ぶに相応しいのはこの子のほうだな』

 というコンコルディアの独白はエルピスに伝わることはなかった。

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