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赤夜 Sekiyo  作者: KIKP
夢想還魂
8/38

夢想還魂 8

泡沫の光小玉が消え逝き、その場には静寂となっていた。

「終わったの…」

結末を見届けていると急にグラッと体が揺れ倒れ、意識が薄れゆく。

これは…確か…バスでの…。

それは結界に閉じ込められる時に起きたバスの中でのモノと似ており、眠気が襲い徐々に視界が暗くなる。

それは梓麻だけではなく唯一と鳶鷹も同じように倒れ既に意識を失っていた。

意識を失うまいと抵抗するが、耐えきれず真っ暗な闇の中へ落ちた。


意識を覚ますと真っ白な天井が見えた。

蛍光灯の光が目覚めたばかりのその目を貫き、眩しく痛い。

光から顔を背けて起き上がると、ボトっと額から何かが落ち、それを手に取ると、それは水に濡れたタオルだった。

それは既に温くなっており、換え時なのだろうが…。

手で自分の額を触るも、至って平熱。冷やすほどの物ではないのが分かる。

「みんな目を覚ましたようだね」

声のした方を見ると結界の中で意識を失う直前まで真横に居たあの男が煙草を咥え気だるげに壁にもたれ立っていた。


みんな?


周囲を見渡すと寝起きとばかりに体を伸ばす鳶鷹とまだ眠そうに目元を擦る唯一の姿がそこにあった。

室内にあるベットは病院などでよく見る医療用の物であるのが分かる。

そう眺めているとあることに気が付いた。

抉られていた出血跡が無い…処置を終えて着替えさせた?というより…。

自身の体をあちこち触るのだが、怪我などの処置がされていない。と言うよりも、そもそも怪我どころか擦り傷一つ感じられない。

傷はないけど…腕が少し痛かったという感覚…名残の様なモノは微かに感じられる。

不思議に思いながら、辺りを見渡しているとあるものに視線が行きそれを呆然と見ていた。

はぁ…?なんで…。


そう戸惑っていると扉が開く音が聞こえ、その方を見ると赤華が洗面器を抱えて入ってきていた。

「あれ…必要なかった?」

「だから言ったろうすぐに目を覚ますと」

「ねぇ、貴方…貴方達は一体何者なの?さっきまでのは…」

「それは移動しながら説明するよ。少し長い話になるから。それにもう時間も遅いからね」

「移動しながらって何処行くんや?」

「君達のしばらく生活する家さ」

「ぼ、僕達の…しばらく生活する家…?」

「もしかして貴方は」

「自己紹介は今済ませておこうか。僕の名前は普樂(ふがく)歩地(ぽち)。君達の知人からもう話は聞いている通り、しばらくの間君達保護者となる事になっている者だよ。よろしくたのむよ」


案内されるがままについて行き、その部屋を出ると、蛍光灯が古いのかかなり薄暗く時折点滅して灯っていた。

そして廊下を見るにやはりこの施設は病院の様なのだが。

そう眺めていると薄暗く半開きの部屋があり、その中を覗くと見覚えのある人達が寝かされていた。

一緒に結界内に閉じ込められバスの中に置いてきたあの人達だ。

「ねぇ、あの人たちは…」

「ああ、彼らはまだ目覚めないだろう。もう半日は寝たきりかな」

「半日ってなんか問題があるんか?」

「いや、単純にお守りを持っていたか持ってなかったかの違いがあるだけで、彼らには特に異常はないよ」

「そうなんか…ん?お守りってなんや」

「あんた達も持ってるんでしょこれ」

そうポケットから地図の書かれた紙を出す。

「ああ、それか持っとるけど。これがお守りなんか?」

「ええ。かなり分かりにくいけど、文字の中、文字に使われているインクそのものに術式が組み込まれているわ」

「へ~文字の中に…全く気が付かんかったわ」

そうまじまじと興味津々に鳶鷹が眺める。


施設の外に出ると、見覚えのある景色が見えた。

この施設は、昼間に訪れた公園のすぐそばに建てられたものだったからだ。

歩地が駐車場に止めてあるステップワゴンの鍵を開け乗り込み走り出す。

夜だから出歩いている人が少ないというのは分かるのだが、人一人見かけない。それどころか町の中をこの車以外の車が道路を走っている姿を見かけず、音一つ聞えない。

決して自分たち以外に人がいないというわけではない。

辺りを見渡せば確かに人が生活していることを示す幾つもの明かりが見えるのだから。


「さて、色々と話そうと思うがその前に、何か気が付いたようだし、梓麻君、君の意見を先に聞こうか」

流石…普樂、何でもお見通しってわけね…。

「さっきまでのは結界内でのことなのだろうけど、それはただの結界ではない。夢を基礎とした結界なのでしょう」

「なぜ夢を基礎としてると思ったんだい?」

「まず初めに結界は二つに分けられる。一つは人払いの結界などの様に結界内と外を簡易的に分けるもの。二つ現実世界に侵食させ異なる世界をそこに形成する結界。

まず一つ目は現実世界そのものだからあれだけの騒動があれば、こんなにも静かな訳がないから違う。だけど二つ目も違う。侵食させそこに異なる世界を形成するからこの世界そのものに大きく影響は与えない。だけど閉じ込められた者達がその世界で起きたモノは現実世界にもう引き継がれる。だから怪我といったモノは絶対残るはずだけど、怪我はおろか擦り傷一つ残らず消えてるからこれも違う」

「ふむ…だけど二つ目は僕か誰かが治療を施したという可能性があるのだから、問題ないんじゃないかい?」

「ええ。確かに腹部を抉られるという大怪我を完璧に治す、そんな医療技術を持っている人がいればそうでしょうね。だけど居たとしても違う」

「何故だい?」

「私は結界に閉じ込められる少し前まで図書館にいて、時計を見た時十八時半くらいだった。その後、直ぐにバスに乗って結界の中に閉じ込められた。そして結界内では明らかにニ時間程度が過ぎていたはずなのに、さっきの部屋で時計を確認したら十九時五分で三十分程度しか経ってなかった。私も結界術を全て知っているわけじゃないから確かではないけど、ここまでの時差が生まれることは無いと思うのだけれど」

「つまり怪我などといった影響、そして時間差という二つの点から夢という答えに至った訳か」

「違うかしら」

「私の知識からすればその二点は術者、結界そのモノの特性、内容によっては問題ない。可能なのだが…まだ一つあるんだろう君の考えが決定的となるものが…」

「ええ。結界内で使用したはずの魔力を溜めている缶が一切使用されずに未使用の状態である事が物語っているわ」

「なるほどね…それは確か、君が独自に作製した君専用の魔術道具か…」

「それでどうなの?」

「結論から言えば君の出した答え通り。夢を基礎とした結界に間違いはないよ」


その返答に自分の考えが正しかったのだと、少し誇らしく思うも、顔には出さないようにぐっと抑え込む。


「まあここから話す事は普樂の一人として調べ出た見解であるが、全てが正しい訳ではないのは考慮しといてくれよ」

そう彼は言うも聞く三人からすれば普樂の名を聞けばそれが答えであると、思えてしまえる。


普樂。

それはいわゆる情報屋の一族である。

その名はかなり古く、戦国時代よりも前から歴史があり、魔術師はおろか裏社会でその名を知らぬ者はいないとされるほどのものだ。

彼らの持つ情報は一族で殆どが共有されており、曰く、日本からの遠く離れる反対側にある国、ブラジルにいる特定の人物の個人情報はおろか、その人物が二十四時間前から一時間前まで何をしていたか事細かく説明できる脅威の度が過ぎた情報能力があるとか…。

そして三人自身も普樂を周知しており、彼の出す答えが真実であるのだと信じ切れる体験を得ている。


「事の始まりは五か月前…正確には百六十二日前。玉響たまゆら 九遠くおんという少年が再発させた九悩の玉置きの儀式が関係している」

「九悩の玉置きってなんや」

「今から五百年ほど前にあった玉響神社が教えていた儀式だよ。聞いて思った通り、玉響九遠という少年はその神社に仕えていた家系の末裔だよ。

 九という字には苦しみの苦の意味を持っていて。己の抱える苦悩を九つの石に封じ込め遠くに分けて置くことで解放される事を目的とされたものだ。

神社には色々な神が祀られていて様々なご利益がるだろう。豊穣に勉学に縁結びと。そんな中、玉響神社で祀られた神というのが黒い烏と中国から伝えられた幻獣、獏であり、そのご利益というのが安楽死だ。

烏とは死の鳥と呼ばれる。それはこれから死に行くであろう者に群がり死を知らせ、死とともにそれを貪るからだ。だが、その実は葬儀も行われず、その場に身動きできず閉じ込められた霊魂をその肉体という檻から解き放つ救済の鳥ともされている。

そして獏は睡眠中に見る悪夢を獏に食べてもらう事で二度と同じ悪夢を見ないと伝えられている。

その二体を神とする事で、苦悩のない夢の世界で肉体からその魂を解き放ち天へと還す安楽死を夢想(むそう)還魂(かんこん)と呼ぶ教えがあった。

考えるに九つの玉石に込められた苦悩との繋がりを烏が喰い切り、獏がそれを食べていたというところだろう。

どんな時代であれ人は世界そのもの、生きること自体に疲れ死にたく思う事はある。だからこそ、そう言った救済も必要だと思ったのだろう。

だが、当然それを不気味に思い、そのような行いを許さない者もいる訳で山を流れる川の水を畑へと繋げる作業を行う際に事故と見せかけその神社の裏にある崖から滝の様に流れ落ちるようにし、崩し壊されてその神社は無くなった。今ではその渓谷の川の流れで玉石を削り作ることから玉流ぎょくりゅう渓谷けいこくと呼ばれているが…まあ、昔話はここらへんで、その神が作っていたその安楽死を迎えさせるその夢の世界…夢の結界が放置されていて今回の問題となったわけだな」

「まあ何となく結界については分かったけれど、それと儀式のどこに関係しているの?」

「話の通り九悩置きとは己の持つ苦悩を石に置き去り解放する儀式なのだが、広まったのは願いがある条件でが叶うというものだ。本来とは違う儀式を行われればバグ、不具合が生じる。そもそも既にその儀式の神は神であるが神と呼べるものでは無くなっている…。そうだな君たちの思う神とはどんなものだい?」

その問いに鳶鷹と唯一は顔を見合わせる。

「え~と、めちゃくちゃ頭良くて強い奴?」

「え、えっと…僕たちを見守ってくれてる…」

極稀ごくまれに干渉するも、基本的には不干渉に観測する神を善なる神として、世界に崩壊や厄災を振りまく存在を邪神ってとこかしら」

「その通りこの世界には君たちが思う神のほかにも様々ながいるとされ、梓麻君の言った通り簡単に分けるとすれば善と悪という二つがある。

そして玉響の神は死を与える事から邪神と思われるかもしれないが、当人から望まれた救済という死を与えるという点で言えば善なる神、救世神と言えるだろう。

お社を壊され力を失いっていたはずなのに結界が残っていたと言う事は残された力を夢想還魂の結界の維持だけに注力していたのが分かる。

だが、そこに願い、欲望という大量の不純な儀式が行われた影響で神は結界が変化した。

その結果出来たその結界は…無差別に儀式の有無など関係無しにただ閉じ込めるものとなったというわけだ。まあ、無差別と言っても君たちを閉じ込めたのは、ほかの人たちよりも魔力の関わりがあったためだろう。

そして弱り切ったその神を依代に大量の願い負となり支配しあの異形が誕生し、それを維持させている異形を祓う以外に解放される事は出来なかったということだが…なんとなくは納得はできたかな?」

「貴方がそう言うのなら。その通りなのでしょう。私からは結界の事についてはもう特には無いわ」

「君達もいいかい?」

「お、おう何となく分かったわ」

そう生き生きと返事を返すのだが、その返事から三割程度しか理解してないのだろうと察してしまえる。

「ぼ、僕も大丈夫です」

「なら、良かったよ。初日からこんな…」

「結界のことはもいいのだけれど、赤夜の事もそうだけど赤上さんの事は説明してくれないのかしら」

そう歩地の言葉を遮り少し強い言葉で訪ねる。


「何が聞きたいんだい?」

「言った通りよ」

「話してもいいが、その前に君たちに伝えないといけないことがある」

「何?」

「事前に説明されたと思うが、君たちの生活を補助する代わりに学校終わりに僕の事務所に来て手伝いをする事は大丈夫だね」

「ええ。それは約束だもの問題ないわ」

「おう」

「だ、大丈夫…です」

「なら、赤夜の事は明日、その時に話すよ長くなるからね。そしてなんとなくだが気が付いているんだろう彼女のことは」

「本当にそうなの…?赤上の苗字に普樂との繋がり、それでもしやと思っていたけど…」

「なんやなんや…なんの話してるんや」

あまりにも内容が感じられない二人のそのやり取りに思わず割って入ってしまう。

「さすがのあんたでも大三家は知っているでしょう」

「ま、まあ、わいの兄貴と親父達が仕えさせてもらっているからな」

「大三家。それは大昔から今日この日までこの国を表と裏から支えてきた家系であり、私達の家とさらに十二の月か冠する一族たちをまとめる者達。だけどその三家がどういった人物、存在であるのかは限られた極わずかしか知らない。それはあなた達普樂もそうなのでしょう」

「ああ、その通りだよ。僕達も許可が出ない限り干渉はおろか調べることも許されていないよ」

「だから謎ばかりで正体は一切不明。だけど、その三家の呼び名は知らされている」

「それはわいでもちゃんと覚えてるわ。確かうちが唯一仕えさせてもらってるウル家と確かヒャクヤク家そして…」

そう二つの名を言って二人は気が付きハッとする。

「アカガミ家か…」

「君達が今思った通り赤上(せきじょう)赤上(あかがみ)と読む事も出来る。つまり彼女は大三家の一つアカガミのお嬢さんなのさ」

「へ~赤上さんってそんなお偉いさんやったんやな」

「す、すごい」

「えへへ、そうらしいけど、実際そんな大それた事なんて何もしていないからよく分からないんだけどね」

「そないなことないやろ。ワイらが殆どが手も足も出んかったあのバケモンを倒したんやから」

「ああ…うん、そうだね」

「…それで、なんでその大三家という身でありながら護衛も付けず、アレと対峙、いえ、祓い師の様な事をしているの?」

「それは…」

「それは私がお願いしてさせてもらっているの」

「何故?」

「う~ん」

そう考え答えをただ静かに待つ。

「ただ単純に自分がしないといけないと思ったから?」

「は?」

その曖昧な返事に間抜けな声を漏らすと、車が止まった。

「さあ、着いたから降りて」

納得できないが、二人に続くように降りると、山の中にある道路の途中。

頼りとなる明かりとなるモノは月明りのみでとても暗い。

「こっちだよ」

二人が森の中へと続く山道を進んでゆく。

その道のりは軽く整備されているのもあってか、緩い登り坂だが進みやすく、あまり疲労感は感じない。

二分ほど進みようやく、開けたところに出て見えたのは月明かりに照らされた大きな森の洋館と、比べると少し小さな日本建築の古民家だった。


「君たちには彼女の家である、そこに建っている洋館で共同生活してもらうよ」

「分かっ…は!?」

そう仰天したのは梓麻だけでなく唯一も動揺していた。

「ちょっと冗談でしょ?今日出会ったばかりの男二人と一つ屋根の下で共同生活って…」

「冗談じゃないさ」

「いやよ。他に無いの?この二人を別…いや、私かどっちかがそこにある家で生活するとか」

「残念だけどそこの家はダメだよ」

「なんでよ」

「僕は別に構わないんだけど、彼女がそれを許さないだろうね」

そう指さす方を見ると赤華が優しい表情と指をクロスさせてダメだよ〜と示していた。

「安心していい。君達の部屋には防音機能に鍵、個別の浴室を等をつけている。それに心配なら僕の使い魔を監視に置いてあげるよ」

それだけ言うのだ。この様子を見るにどうしようとこの男は別の家の用意はしない。話すだけ時間の無駄だ。

「…分かったわ」

そう梓麻が折れて了承する。

「二人もそれでいいね?」

「おう、ワイは特に問題ないで」

「う、うん僕も…その…大丈夫…です…」

「じゃあ後のことは任せたよ」

「うん、大丈夫だよ。お休みなさい歩地さん」

「ああ、おやすみ」

「おおきにな歩地はん、お休み」

「お、お休みなさい」

そう、皆の返事に答えるように手を上げ、歩地は来た道を戻って行った。


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