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赤夜 Sekiyo  作者: KIKP
夢想還魂
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夢想還魂 5

梓麻の持つ地図を頼りバス停の場所に行くのだがその場所には何もなく、探索は難航し何も見つからず三十分以上が経過した頃。

「…ね、ねえ、あ、あれ、そうじゃないかな?」

周囲を見渡しながら探索をしていると唯一が上の方を指さす。

その方向を見ると倉庫の上に歪にそびえ立つバス停看板があった。

建物を囲う柵や建物の上を渡りその元へ行くと看板の真下に真っ赤に染まった綺麗な丸いルビーの宝玉のような石がそこに落ちていた。

「まず一個目ね。それにしてもバス停だから道路にあるとばかり思ってたけど、こんな場所にあるってことは他も同じ様に普通では無いところにあるって事ね」

「こらぁ一層探索が大変になりそうやなぁ。それにしても唯一、よう見つけたな」

「え、えへへ」

さて、どうすればいいのかしら…。結界の一部であることは確かそうなのだから持ち運べるのか。触れると何か起こるんじゃ。破壊すれば結界が解ける?いや、異常が起きる可能性もあるわけだし…。とそれを見ながら考えていると。

「まあ、さっさと持っていこうや九個もあるわけやし」

「ちょっあんた」

鳶鷹が無警戒にそれを取ろうと手を伸ばすその行動に咄嗟に声をかけるも遅く鳶鷹は聞きながらもそれを手に取った。

「ん?どうしたんや」

周囲を見渡すも特に何も起こらない事にほっと胸を撫で下ろす。

「…あんたねぇ。結界の一部なのよ。触れたりして結界が乱れたり何かが起こるかもしれないのに、何むやみに手に取ってるのよ」

「な、何をそんな怒ってんのや。なぁ唯一」

そう同意を求めようとするが唯一は気まずそうな顔をしながら、少し迷うもそれを否定するように首を横に振った。

「え?まさかワイまずいことしてたんか?」

「う、うん」

「まじか…そら…二人共すまん」

ちゃんと反省してるのか両手を合わせ頭を下げる。

「ま、まぁいいわよ。何も起こらないみたいだから」

「ほ、ほうか…でもすまん」

「もういいわよ。ほら、それ貸して」

「お、おう」


玉石を受け取り、梓麻は紙に術式を書いていく。

「それは、何してんのや」

「解析よ。と言っても里見家のようにすぐに結果が出るものではないけれどね。こうして術式を紙に書いてこれを包んで置いておく。そしたら術式が包まれたそれに入り込み、情報を読み取り溢れ出て紙に記してくれるのよ」

「ほ~解析ってそんな感じなんか。なんか地味やな」

「そんなものよ、昔の魔術は」

「昔?それって一体どれくらい昔なんや?」

「…あんた達が知ったところで意味ないわよ」

物知りたげに伺う様子の二人を見て、相変わらずそっぽを向いて辛口の言葉を吐くのだが、二人には見えない所で自然と彼女の口元は軽く笑みを浮かべていた。


しばらく探索を続け更に一時間程経った頃。

「これで、八つ目」

「あ、あと一つだね」

「それにしても梓麻ごっついな。三つ目を見つけた後から次々を場所を予測するとほんまにその付近にあるんやからな」

「簡単よ」

使っている地図を差し出す。そこには駅を中心とした円と幾つもの点と線が引かれていた。

「この地図に結界の囲いと玉のあった場所に印を付けてやれば自ずと大体の場所は分かるわ。それに結界を安定しやすくするのは図形を用いた点の場所を使うのが手っ取り早いから」

「なら最後の場所ももうわかってるんか?」

「ええ、もちろんよ。最後の場所はこの八芒星の中心、あんた達と合流した駅のどこかよ」

「そっか、そらよかったわ。もう腹減って腹と背中がくっついてしまうわ」

「あはは、そうだね。帰ったら何食べたい?」

「せやな~取り敢えず肉食いたいな」

「僕もお肉食べたいな~」

「梓麻は何食べるんや?」

「さあね…。私は泊まる先で用意されているらしいから知らないわ」

「そうなんか。まあ、ワイらもなんやけどな。いいごちそうやとええなぁ」

「私はちゃんとした食事なら何でもいいわ」

「なんや好きなものとかあまりない系か」

「まあ強いてあげるならコロッケが…」

無意識に小さな声で答えた後ハッとして口を塞ぐ。

「ん?なんか言ったか?」

「何でもないわよ。ほら、さっさとここから出るために最後の場所へ行くわよ」

「おう」

「うん」

最後の玉石があるであろう駅へと向かうために高架橋の下を通り抜けかけていた。


その時


「な に じ で る の」

聞き覚えのないすべての言葉に濁音がついてノイズの混じった異様な声が横から聞こえた。


なんや今の声…誰の声や。

何…この異様な寒気は。背筋が体が本当に凍ったように動かない。

よ…横に、な、何か、いる?


ゆっくり、ゆっくりと徐々に雪解けのように体の硬直が無くなっていくのに合わせ、声の聞えた方向を向く。

「「「!?」」」

それを見て三人の顔は一気に青ざめた。

高架橋の下、三人と柵を挟んだそこに異様な生物らしき何かがいた。

象ほどではないがアリクイの様に鼻が長く足は虎のもののように強靭な脚に鋭い爪が見え、神社などでよく見るしめ縄を首にかけて、背中に烏のモノの様な巨大な漆黒の羽を持つ生物らしきモノがそこにくつろぐように佇み、こちらを覗き見ていた。

その異様なモノから発せられるその気配は三人にとってこれまで感じたことのないものだった。

そして周囲にはいつの間にか普通の烏が三人を囲う様に柵や壁の上に止まっておりこちらを見ている。


「ぎ ご え な が っ だ の ? ぞ れ よ り な ん で お ぎ で … う ご い で い る の ?」

異形は頭を悩ますように前足で頭を掻く。


何なのコイツ…。とてつもない気配を漂わせて。恐らくコイツがこの結界の主の様だけど。意思の疎通が出来る?敵意、害意は無い?何を話せば…。

「あ~ワイらはここから出るために探索してるんや」

考えをまとめている先に鳶鷹が口を開いた。

コイツ…勝手に…それよりこんな気配を溢れさせる奴を前に恐れ知らずなの?

「ご ご が ら ? で る ?」

「おおそうや」

「な ん で?」

「何でってそりゃ…」

「の ぞ ん で ば い っ だ の に な ぜ で よ う ど ず る の ?」

望んで入った?いったいどういう事。

「何のことや?ワイらは別にそんなこと…」

そう鳶鷹が否定を口にしようとした瞬間、異形からまた少し変わった異常な威圧が放たれる。

それは、体から湯気が滲み溢れるようにドス黒いオーラが漂い始めるのが見える。一切視線をこちらから離さずゆっくりと起き上がろうとする。

「ぎ ざ ま ら の ご ど ば な ど ど う で も い い  だ だ な に が よ が ら ぬ ご ど を ず る ど い う な ら ば ゆ る ざ な ————」

「Unlocl SmokeBullet shot!」

その言葉を遮るように梓麻はペン一枚の紙を手に持ち、その紙を破く勢いで一本の線を引き投げ叫ぶ。

すると、宙を舞う紙に書かれている線の模様が光るとその紙は一瞬で燃え尽きるように朽ちると同時にそこから現れた真っ赤な炎を燃え滾らせる光の玉が閃光を描きながらその異形の顔面へと放たれ、着弾すると同時に爆発音を鳴らし白黒と灰色の煙が広がる。


突然のその様子に二人が呆けていると「行くわよ!」と彼女のその叫ぶ指示を聞き従い追いかけるように走る。

駅付近にある建物の物陰に隠れそこから様子を見ていると、先程の異形がまるで番犬のように駅の建物の近くをうろうろと彷徨い、くつろぐ様に横になる。


「お、おい。何なんやあのバケモンは」

「知らないわよ。分かるとすればこの結界の主としか分からないわよ。そんなことよりあんた達実戦経験は?」

「無い。護身ようの基礎訓練を少しだけやらされてただけや。だから強化の魔術は少し使える」

「ぼ、僕は訓練とかは受けてないけど、強化は少しだけ」

「お前は」

「私はあんた達の様な強化も使えないわよ。そもそも私の家系は道具の製造と開発なのだからあるわけないでしょ」

皆実戦経験がないとなると、あの化物がどれだけ強いモノなのか見ただけでは分からない。だけど、あれが自分たちにとって圧倒的脅威であることには変わりないはず。さっさとここから出ないとだけど、あれがあそこに居座ってる以上、近づけないし…。そういえばこっちは…。

と解析をしていた紙で包まれた玉石を取り出してその紙を広げる。

「お、ようやく解析できたんか?」

「…ええ。出来たけど。結果から言えば最悪だけどね」

そう言ってその紙を差し出され、受け取りそれを見る。

「な、なんやこれ」

紙に書かれたそれは、カエりたい、帰りたくない、うざい、キモイ、お金が欲しい、付き合いたい、めんどい、死にたい、死にたくない…とその他にも沢山の文字が乱雑に埋め尽くされる様に気味悪い呪いの文字のようなモノが浮かび書かれていた。

「分からないわ。まぁ今言えることと言えばこれまで集めた玉石で結界の外に出られるかは分からないわ」

「無駄足だったんか…となると」

「ここから出る術として1番わかりやすいのは、結界の主であるあいつをどうにかして説得するか倒すこと」


「説得って…ならなんで攻撃したんや」

「あんなあからさまに今から襲い掛かろうとしていたのだから、仕方ないじゃない。この石でどうにかすれば出られると思っていたのだから。それに先手を取るのは当たり前でしょうが。あと、あれは攻撃じゃない。ただの目眩しよ」

「まぁ確かに襲われそうではあったが…それにしてもお前訓練も強化も使えん言ってたけど魔術使えるんやな」

「ただの備えものだけどね」

「やけどお前魔力は…」

「ええ、私は非魔術師…一般人程度。魔術を行使できるほどの魔力なんて持ち合わせてないわよ」

「そんなら、さっきの魔術はどうやったんや」

「簡易魔術よ。この缶に魔力を貯め込み管を伝ってペンに繋いで紙に術式を書いて魔力を流し魔術を行使しただけよ。これなら私でも魔力消費の少ない魔術なら数度は使えるわ」


「そんで、どうするんや。あいつを倒す術は何かあるんか?」

「分からないわよ。あんな化物…魔獣と出会うのなんて初めてなんだから」

「せやけど、実際どうなんや魔獣とかって何人で対処するもんなんや?」

「その個体によるわ。だけどあの大きさの魔獣なら基本的に一体に対してそれなりに経験を積んだ魔術師が2から7人で対処するものかしら…」

説明しながら、貴方は何も見えてないのかしら、と唯一をじっと見つめる。

「う…ご、ごめん…何も見えない…です」

「まぁ、いいわ。もう手は無いのだからここから出るためにも貴方達にも体を張ってもらうわよ」

「か、体張ってもらうって、まさかワイらにアレと戦えっちゅうんか?」

「そうよ」

「いや、無理やないか流石に…わいらでアレを倒すんわ」

「最後まで話を聞きなさいよ」

「お、おう。分かったから、そんな睨まんといてぇな」

「確かにここから出るにはアレを倒せるのが一番だけど私たちじゃ九割無理ね。説得も私が攻撃した以上無理。となると最後の1つの可能性にかけるしかない」

「最後の1つ?なんかあったか」

「さ…最後の玉石?」

「ああ、それか」

「ええ、それを見つけて結界が解除されるのを願うしかない」

「まぁ、それくらいしか今は無いんやな。それでどうするんや」

「私とあんたの二人でアイツを引き付けているうちに唯一、貴方が見つけるのよ」

「ぼ…ぼく!?」

「ええ」

「いや、僕よりも梓麻さんが探すのが…それに引きつけるたって…」

「心配しなくていいわ。身体強化は一応できるわ。それに私はあんたが鈍臭いから引き付けるのに向いてないって思っているけど、それが理由はじゃないわ。これまでの玉石の探索で最初に見つけたのも多く先に見つけたのも貴方なのだから適任って言ってるのよ。恐らくだけど貴方は家系の魔術を使えなくたって私たちより優れた観察眼を持っているのよ」

「だけど」

「だけどじゃない。任せたわよ」

そう彼女の言葉に開いていた口を閉じて頷く。

「わ、分かった。やるよ」

「おっしゃ。やることは決まったみたいやしさっさと始めよか…」

鳶鷹が倉庫内に落ちていた棒を武装にと手に取り、駅の方の様子を伺おうと覗くのだが、そこに先程までくつろいでいたはずの異形の姿が消えていた。


「み ぃ づ げ だ ぁ」

異形は三人の背後、もう片方にある開いた所からこちらをギョロりと覗き見て薄気味の悪い笑みを浮かべていた。

いつの間にと、思いながらも直ぐに落ち着かせ手に持つそれを構えようとすると、横から腕が伸びた。

それは鳶鷹が異形に向けて手のひらを向けていた。


「火よ 集い燃え盛る火球となり その敵を燃やせ」

鳶鷹の体からその伸ばす腕の先へ魔力の光が流れ、その掌へと集まっていく。

火の魔術詠唱?強化しか知らないって言ってたのに…。

火球(ファイヤーボール)

詠唱を告げ終えると、掌に集まった魔力が赤く燃え盛る火球へと変わり放たれた。

…流石、飛翔家ね。固有魔術を行使するために高い魔力量を持つだけは…ある…わ…。

そう称賛していたのだか、放たれたその火球は突然、不規則な挙動を起こしながらその形は歪に徐々に小さくなり、まるで今にも落ちゆきそうな線香花火のような小さな火球となって、異形のその体に当たった。

何がしたかったのと言いたげに首を傾げる異形。

「ありぃ〜…」


「Unlock! Smoke screen Ignition! 走れ!」

梓麻は準備していた2枚の紙に素早く線を引き異形へと投げ、口早に詠唱を告げると2枚の紙から眩い光が放たれ、直ぐに先とは比べ物にならない煙が溢れその空間を埋めつくした。

煙は直ぐに晴れるがそこに三人の姿は無く、異形は先程まで三人の居た方へ行き左右を覗くと二人の人影が駅へと走って行くのが見えた。あと一人はと見るが見当たらない。

「じ ゃ ま を ず る の ば ゆ る ざ な い」

不気味な笑みのような声を上げながら駅へと走り向かうその二人を追うように、異形は鈍く重い足音を鳴らしながら駆ける。

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