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赤夜 Sekiyo  作者: KIKP
夢想還魂
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夢想還魂 4

意識をしっかりと覚ます為に自分の頬を抓る。

痛みがある事からこれは夢ではない事が分かる。それにさっきのバスの中に無かった異様な凸凹にもしっかりと触れることができ感触もぶにぶにと張りのある生々しい肉のようにも鉄のように固くなめらかな箇所もある。

自分のほかに乗っていた人達を見ると眠っていた。

様子を伺うとかなり顔色が悪くうなされていて、呼吸が悪い。


「…チッ」

舌打ちを鳴らしながら手袋をして鞄の中からくだのついたペンを取り出し、ノートの紙に複雑な文字と模様を書き始めた。

「迷える子羊に僅かながらの守りを————」

書き終えた紙をお札のようにして破り、眠る人の胸元に挟み入れる。

すると苦しそうだったその乗客と運転手の顔色と呼吸が少し良くなった。

自分の用のお札も作り胸ポケットへ入れて、外に出るためにバスの扉の前に立つ。その扉も錆びて朽ちているのか少し開いていた。

その扉を力強く横に引いて無理やり開こうとすると、建付けの悪い扉のようにガタガタと揺れ、耳が痛くなる高い不協和音を響かせ、やっとのことで開かれた。


外は夜が近く赤夜と呼ばれる通り赤暗いのだが、様子がおかしい。

それはバスに乗るまで無かった薄くも真っ赤な霧が出ており少々視界が悪くなっている。

そして街の様子もバスの中と同じ様な気味の悪い世界に変わり果てていた。一体何が起こっているのか…。

探索しようと歩き始めるが、数歩歩いて直ぐにその足を止めてバスの方を見る。

「う~」と暫く唸るようにして考え、バスの方へ戻り先のペンを取り出してバスを囲うように結界の様な物を地面に描く。


「迷いし彼の者等、其の光の囲い、悪しきより守れ」

完成した瞬間一瞬その結界が光った。

管の先に付いた缶のような物を取り出して耳元で振り何か確認をする。

するとその管を抜いて鞄の中に入っているもう一つの缶に繋ぎ、再び探索するために商店街の方をへと向かって歩く。

彼女の行く先は最初に向かっていたビルの場所なのだが商店街に入って直ぐに、赤黒い深く分厚い霧の壁が行く手を阻むようにそこにあった。

傍にある花壇の中にある小石をその壁に向かって放ると「どぼっ」っと沼や水に石を投げ入れたような音が鳴り、しばらくして先の小石がぬるっと壁から吐き出されるようにその壁より手前に垂れ落ちた。

この壁より先へ向かうことが出来ないのがそれで分かる。


結界…小石を見るに何の変化もないから恐らく出ることができないようにされただけかしら。眠っていた人たちも苦しそうにしていたが、それは悪夢を見ているだけの様で精気に目立った異常は無かった。一般人を巻き込んで…一体なにが何の為に…。

考えるも答えは分からない。

それよりも探索するべきね。取り敢えずこの結界の中央の方でも目指してみようかしら。


商店街を出て微かに見える霧の壁を見て、それは円形であることが分かる。それを頼りに暗算し五秒もせず中央の方へ向かって歩き始めた。

案内用に見たあの地図を思い出し、中央であると考え、たどり着いたその場所は六情駅だった。

その場所はいわゆる各所へ向かうバスや電車が行き交う交通において、この六情市の正に中央地点となる場所だ。


ここまで約500メートルほど歩いたのだが、人1人見かけることはなく、どの建物にも人がいるような気配が一切無かった。

まるで別の世界に連れて行かれたのでは無いかと考えてしまう。


少し歩いていると自分が乗っていた物と別のバスが止まっており、無理やりこじ開けるとその中にいは同じように眠る三人がいて、先のように御札を作り胸元に入れバスを囲うように結界を描いた。


「はぁ…やっぱり結界は消費が激しいわね…残り4缶…」

そうため息を吐きながら歩いていると背後から響く物音が聞こえた。

それに反応するなりカバンから単語カードと先のペンを手に持って音鳴った方を見て構える。

その物音の鳴った先は車庫入れの様で建物の反対が抜け見える所。

ここまで起きている人は居なかった。もし動ける存在がいるとするならば、同業者、又は…。

鬼気迫るその強い姿勢で見ていると、話し声が聞こえ、その主達がゆっくりと影から姿を表す。


「はぁ〜一体何が起こってんだこれ。何処にも人っ子一人いねぇ」

「ほ、ほんとだよね…」

現れたのは運転手らしき人を抱えた鳶鷹と唯一が呑気に話す姿だった。気が抜け構えをやめて手に持つそれらをポケットと鞄にしまう。

「おっアレ梓麻やないか?」

「あ、ほんとだ」

「お〜い」

手を振りながら声をかけるのだが、梓麻は嫌そうな顔をしながら顔を背けた。

「無視すんなや梓麻ぁ〜でも良かったわ、ワイら以外にちゃんと人が居てよかったわ」

「…あなた達もバスに乗ってらこの状況に?」

「おう、そうや」

「す、少し遠くまで行ってて、その帰りに丁度来てたバスに乗ってたらいつの間にかバスが止まっててこんな状況に」

「…バスに乗ってたのはあなた達とその人だけ?」

「そうや。寝てるけどこんなわけわからん外の状況で一人残す訳にもいかんかったから連れて来たわ」

「そう、ちょうどよかったわ。こっちへ連れてきなさい」

「おう」

ここから近い先の止まっているバスまで運び入れてお札を差し入れる。

「はい、あんた達も」

「おおきに」

「あ、ありがとうございます」

「それにしても護符に結界かいな。えらい優等生みたいやな。流石、綾嶄寺の人間やな」

鳶鷹が称賛の言葉を言うのだが何かが気に入らなかったのか睨みつけた。

「な、なんや。褒めただけやないか」

その様子を唯一がどうしようとおどおどする様子を見て、ため息を吐いてそっぽを向く。

「いえ、なんでもないわ。それよりここはどこだかなんとなくは分かったのかしら?」

「い、いや。さっぱりやけど」

「う、うん。どこなんだろここ」

「…は!?」

余りにもその抜けたその返答に思わず声が出てしまった。

「なんや、そんな驚くことやないやろ」

二人は間抜けな顔で顔を見合わせていた。

「里見家。千里眼の開眼を望む家系。そのために貴方の一族はその目であらゆる情報を読み取ろうとする訓練を受けさせられる。それは大気にある魔力から始まり、気温や気候の流れそして生物の流れまでも。そんな貴方ならこの世界の変化について少しは情報を得られるはずでしょう」

「え、ええと。その…」

「まあまぁ、そんないい寄らんといてあげて~な」

そう詰め寄られ困り震える唯一を庇おうと横から宥める。

「あんたもよ」

「な、なにがや」

「あんたは移動と運搬、そしてマッピングに秀でた飛翔家の魔術師でしょう!それも大三家の側近となる一族。座標を読み取ればここがただの結界内なのかそれともまた別の世界か分かるし、演算すればあんたの魔術で結界の外、元の世界に戻れるでしょうが!」

「そう声を荒げんといて~な」

そんな返答にキッと睨みつける。

緊急時であるのだから自分達の出来る事を最大限に行うのは普通のことでしょ。命にかかわるかもしれないこの時に気など緩めている暇などない。だというのにこの二人はそれもせずに先程までお気楽に話しながら散歩のような探索をしていた。それに…。

「まあ、いいわ。やる事は理解したのだからさっさとやって頂戴」

そう指示を出すも二人はその行動に移さず困り顔をしていた。

「…何してるの?」

「いや、その申し訳難いんやけど。わいら、家の魔術を教えられてへんのや」

「そ、その…ごめんなさい!」

あははと鳶鷹は頭をさすり、唯一は勢い良く頭を下げる。

「…ほんとうに言ってるの?」

「大マジや。こんな緊急時にそないなことが出来るならやらんわけないやろ」

「お、落ちこぼれで、つ、使い物にならなくて、ご、ごめんなさい」

二人のその様子を見るに噓を言っているようには見えない。

「噓でしょ…」

「ほんま、すまんなぁ」

「ごめんなさい。ごめんなさい」

進展の兆しが見えた途端、そうでない事に頭を抱える。

まあ、探索の人手が増えた事は進展だわ。


「もういいからさっさとここから抜け出す方法を考えるわよ」

「おう」「う、うん」

「だいたいここまでの事でバスがトリガーになっているのは分かるけど他に何か気になることはあったかしら」

「ああ、その事なんやけど。学校出る前に話してた時にある噂話聞いてな」

「…噂話?」

「安心せい。ちゃ〜んとバスに関係あることや」

「…いいわ続けて」

「まぁ、少し前にここら辺で流行ってたちゅうボウズ達のおまじない遊びなんやけど。こっからだいたい十何キロ離れたところにある渓谷から流れてくるそれは綺麗なビー玉に近い形になる小石がここら辺の川に流れてくるらしくてな。それをバス停に一つ置き、次のバス停まで走りまた一つ置くっちゅうのを九回行う。そんでそれが翌日までその小石らが何もんにも触れられず、その場に綺麗に残っとったら一つ願いが叶うっちゅうやつや」

「ふ〜ん、おまじないね…それで?」

「あ、ああ。まぁそんなもんが流行っとったら興味本位で皆がやるからな。達成させようと思うてもなかなか達成できひんのよな」


「確かにバス停なんかはよく掃除が行われるから、そんな小石が集まってたら邪魔だから退かされるし、小石を蹴り運んで遊ぶ人もいるものね。それに翌日までという制限があるから当然皆その確認をしに行く。その時自分のは大抵動いてたり無くなってたりするでしょうね。

確認のついでに自分のが動いていても動いて無くても他の人も達成させまいと周りに見える小石を動かしたりするでしょうからね。おまじないはしないけど私なら見かけたらするわね」

「平然と酷いことゆうな。お前」

「当然でしょ。互いに協力すればそのうち達成できると分かっていても、皆が皆達成できるわけじゃない。自分が達成できないのに他人が達成できるなんて面白くないでしょう。だから大抵の人間はやるわよ。それに努力を怠って最速でたった一日のおまじないで願いを叶えようなんて虫酸が走るわ」

「お、おう…そうやな」

余程気に入らないのか彼女から怒りのようなものが滲み出て感じ二人は戸惑ってしまう。


「どうでもいいから続けて」

「あ、ああ。やけど、ある日皆が力を合わせて一人のそのおまじないを達成させようとしたらしいんよな」

まぁそれを達成させるには皆が意思疎通しないと到底達成出来るわけ無いものね。

「え〜と誰やっけな」

と助けを求めるように唯一をチラッとみる。

「えっと…確か…玉響(たまゆら) 九遠(くおん)くんだよ」

「そや!九遠くんや!そもそもそのおまじないが九遠くんが始めたんやないかって噂があってな」

「そう…それでなんでその子に協力しようとしたの?」

「それがな九遠くんの家かなり悪い噂が多かったんや。ちゅうのも夜中やちゅうのに怒鳴り声やら叩く音が聞こえて来るってな。そないやからようさん警察さんのお世話になってたらしいわ。そんで九遠くんの体には痣やらがよう見えてたって。そんなんで近所の皆さんが直接言いに行ったらしんやけど躾やゆーて話を聞かんかったらしい。他人さまの家庭やから誰も口出し出来へんから困ってたんやけど、ある日奇妙な事が始まったんよな」

「それがバス停の玉置き?」

「せや。いきなりのことやったからな不気味がられて片付けられてたんやけど、ずっと続いて何時からか噂がたったんや。バス停に丸い石を一個ずつを九つの場所に置き、翌日まで何事も無く置いた場所にその石が残ってたら願いが叶うってな。そんで皆優しいからな九遠くんの家庭環境が良くなりますようにって願ってやってたらしいんやけど」

皆じゃなくてもごく一部でしょそれは…頭の中お花畑過ぎないかしらこの男…。

「まぁ案の定皆がやってるから叶わんくてな。そんなある日それをやってた九遠を見かけて、皆それを邪魔をせず見守ろうってなったらしいわ」

「それで、達成できたってわけね」

「まぁ、そうなんやけど。風やら動物やら雨やらあってかなり掛かったらしいわ。そしてとうとうそれが達成出来たのが彼の誕生日前日でな、誕生日当日になると九遠くんの両親が見違えるようにええ人になって、九遠くんもそら楽しそうにその日を暮らしたそうや」

「…急に何?幸せ話聞かされてるような気がするのだけど」

「まぁ、待ちや本題はここからなんや」

「…」

「その翌日になって、近所の人らがチラリと様子を見ようとしたんやが、いつになっても九遠くんも両親も学校や仕事に行こうと出てこんのよな。昨夜のこともあって休んで色々と親子で話しとんかと思うて皆気にせえへんようにしてたんやけど、夕暮れ時になっても部屋の明かりは付かへんし、それまで家から一切生活音や話し声も聞こえへんから、気になって何人か集まって家のチャイムを鳴らしたんやけど、反応があれへんかった。前なら不機嫌そうにおっきな音を鳴らして怒鳴り出てたり、昨日の雰囲気なら普通に出てきそうやのに。せやさかい万が一ってのもあり警察に通報したんや。ほんで警察がきて数分扉をノックしたり声をかけるも無反応で、不動産屋の人を呼んで鍵を開けて中を覗くと、その両親が家の中で倒れとって既に亡くなってたんや。ほんで九遠くんは現在進行形で行方不明中らしい」

「その二人の死因は何なの?まさかその子供がやったっていうの?」

「ん~や。原因不明の心不全。外傷はあったんはあったが、それは倒れた時にぶつけたであろうモノだけ。それは現場検証で一致しとるって噂や。そんなことがあって、まさか、九遠くんの願いは両親の死を願ったんじゃやら、行方不明ってのもあって、そもそも悪い呪いのまじないやったんやないかってあって、そのまじない遊びは廃止されたっていうのをワレが出ていった後にクラスメイトの人らから聞ぃたんや」

「ふ~ん。まあ、いいわ。その噂話も大体参考になったわ」

「お、なんや。分かった感じか」

「ええ。案外無駄話もいいモノだったわね」

「無駄ゆうな無駄って」「ま、まあまあ」

「そんで、何が分かったんや」

「率直に言えばこの結界から出られるかもしれない方法よ」

「お、出られるんか!てか、結界から出られる方法なんかあるんか」

その発言に何を言っているんだこいつという目を向ける梓麻と、結界は展開した術者が解除するか倒すことでしか出られないと思っている鳶鷹、何となく二人の考えていることを察してあわあわする唯一。

「…あんた達、家系の魔術はいいとして魔術の基礎的な知識は?」

「強化しか知らん」

自信満々に答える鳶鷹に対して唯一は目を逸らして「…す、少しだけ」と呟く。

「はあ…結界っているのは伝書とかあるように封じる、閉じ込める、人払いが主なコトだけど今では用途は色々とあるわ。だけど勿論結界というのはかなり高等技術であり、基本的に人手もいるわ。だけど、私たちが閉じ込められる時にはそんな術者は居なかった。となるとこの結界は元から存在していて、ある条件をトリガーとして私達は招き入れられた。その条件となるのが」

「バスに乗った事か」

「それとプラスαってとこね」

プラスαを聞いて首を傾げるが話を続ける。

「だけど、それは今の私たちはどうでもいい。ここから出るにはこの結界を術者に解かせる方法以外に出られる方法は何か」

「…じゅ…術式の解除。ま、または破壊?」

「そう」

「やけどその術式って何なんや」

「さっきあんたが話していた話に術式となりえるものがあったでしょ」

「…九つの玉石か?」

「ええ。恐らくこの結界内にバス停がありそこに玉石がある筈よ。だからそれを解析して術式を解除するか壊せば結界そのものが無くなって皆がここから出ることができるはずよ」

「それじゃあ、さっそく手分けして…」

「いえ、手分けして探すのがいいかもしれないけど安全を第一にまとまって動くべきよ。確かに広いけどこの広さなら一、二時間以内には全体を回れるはずだから」

「た、確かに…術者が絶対いないというわけじゃないし」

「それもそうやな」

「それじゃあ、行くわよ」

「おう」「う、うん」

そう先行する梓麻の後ろを二人は付いて行く。


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