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【書籍化&コミカライズ】【Web版】義姉の代わりに、余命一年と言われる侯爵子息様と婚約することになりました  作者: 瑪々子


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突然の訪問

本日も2話投稿しています。

誤字報告をありがとうございます、修正しております。

 グランヴェル侯爵家の呼び鈴が鳴り、使用人が慌ててグランヴェル侯爵を呼びにやって来た。


「スペンサー侯爵夫妻がお見えです。ユージェニー様もご一緒です」


 グランヴェル侯爵は、突然のスペンサー侯爵たちの訪問に、不思議そうに首を傾げた。


「どのような用件なのだろうな。特に約束はしていなかったはずだが……。ユージェニー様も来ているなら、クレイグも呼んでおいてくれ」

「はい、承知いたしました」


 応接間に通されたスペンサー侯爵は、ソファーの上で鷹揚な笑みを浮かべながら、グランヴェル侯爵に向かって、手土産に持参していたワインを手渡した。


「いや、急にすみませんね、グランヴェル侯爵。……ちょうどこちらの近くに立ち寄る予定がありましたので、土産だけでもお渡しできればと思いましてね」

「そうでしたか、ご丁寧にありがとうございます。おや、これはアルザーン地方の名産のワインですね。別荘にでもいらしていたのですか?」


 受け取ったワインが、両家の別荘がある避暑地であるアルザーン地方産のものであると、ワインボトルを回してラベルを確認したグランヴェル侯爵の言葉に、スペンサー侯爵は頷いた。


「ええ。暑い日が続いていたので、数日前まで、しばらく家族で避暑に行っていたのですよ」


(ちょうど、ライオネルたちもその頃、別荘に行っていたはずだな……)


 内心でそう思いを巡らせながら、グランヴェル侯爵は何気ない様子でスペンサー侯爵に尋ねた。


「それは羨ましいですね。よい休日を過ごされましたか?」

「はい、ゆったり過ごせましたよ。……おや、クレイグ様もいらっしゃいましたね」


 応接間のドアをノックして、ちょうどクレイグが部屋に入って来た。


「こんにちは、スペンサー侯爵。……ユージェニーも、元気かい?」

「ええ、クレイグ様」


 そう答えたユージェニーの顔がどこか曇っていることを、クレイグは敏感に察知した。ユージェニーはその後、黙ったままで俯いていた。


 集った面々を見渡してから、スペンサー侯爵はゆっくりと口を開いた。


「別荘では、偶然、ライオネル様とその婚約者のご令嬢、それにアーチェ様が庭に出ていらっしゃるところを見掛けましてね。……ライオネル様は、車椅子から立ち上がって、幾度も歩く訓練をしていらっしゃるようでした」


 グランヴェル侯爵は、スペンサー侯爵の言葉に嬉しそうに顔を綻ばせた。


「ええ、そうなのですよ。別荘で、ライオネルはかなり歩行の練習をしたようでしてね。久し振りに車椅子から両足で立ち、青白かった肌も日に焼けて、足腰もかなりしっかりして、さらに健康になって帰って来ましたよ。彼のことをつきっきりで支えてくれている婚約者のエディスには、感謝してもしきれません」


 スペンサー侯爵は、笑みを顔に浮かべたままで鋭く目を細めた。


「そうですか、それは喜ばしいことですな。……実は、そのことについて、確認しておきたいことがあるのですが」


 訪問の本題に入ったことを感じながら、グランヴェル侯爵は両手を膝の上で組んだ。


「ほう、何でしょうか?」

「ライオネル様は、少しずつ回復が見られる様子とはいえ、生死に関わる重い病を患って、いまだ療養中の身。グランヴェル侯爵家を任せるには、いささか不安が残ることでしょう。……ここにいるクレイグ様がグランヴェル侯爵家を継ぐのだろうという理解でおりますが、その理解で正しいでしょうか?」

「お父様! どうして、そんなことを……」


 動揺に瞳を揺らすユージェニーを片手で制すると、スペンサー侯爵はグランヴェル侯爵を見つめた。グランヴェル侯爵は、険しい顔つきでスペンサー侯爵に尋ねた。


「なぜ、そのようなことを私に聞くのでしょうか? 私は長男のライオネルに家を継がせるつもりでいますが」

「……何ですって?」


 すうっと顔を青ざめさせたスペンサー侯爵に、グランヴェル侯爵は表情を変えずに答えた。


「長子に家を継がせるのは、当然のことでしょう。それに、ライオネルの回復には目覚ましいものがあります。私は彼に、今も昔と変わることのない期待を寄せていますが、何か問題でも?」

「……それでしたら、ユージェニーのクレイグ様との婚約も、考え直してはいただけないでしょうか。あくまで、娘の縁談は当初はライオネル様との婚姻を目的としたもので、ライオネル様が身体を悪くされ、家を継ぐのが難しくなったからこそ、ユージェニーはクレイグ様と……」

「お父様! 待ってください!!」


 悲鳴混じりのユージェニーの声が、応接間から廊下に響いた。


「あら? あれは、ユージェニー様の声かしら……?」


 庭に出ようとライオネルの車椅子を押していたエディスは、ユージェニーの声に気付いて足を止めた。ライオネルと、その横にちょこちょことついてきていたアーチェは、エディスと顔を見合わせた。


「そのようだな。何の話だろうか?」


 穏やかではない雰囲気を感じて、ライオネルは首を傾げた。不審そうに眉を寄せたアーチェも一緒に、三人は思わずその場で立ち止まると、応接間から漏れ聞こえてくる声に、聞くともなく耳を傾けていた。

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