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【書籍化&コミカライズ】【Web版】義姉の代わりに、余命一年と言われる侯爵子息様と婚約することになりました  作者: 瑪々子


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馬車の中で

 帰りの馬車に揺られる中、ライオネルはエディスと寄り添いながら、懐かしげにその瞳を細めた。


「覚えているかい、エディス。……前回オークリッジ伯爵家に僕が来た時は、帰りの馬車で揺られているだけでも、身体がばらばらになりそうなくらいに辛かったんだ。君はすぐに僕の体調の異変に気付いて、僕の身体を気遣ってくれたね」

「……あの時は、無理してまで私を家まで迎えに来てくださったのですもの。心配いたしましたが、お気持ちを嬉しく思っていましたわ」

「それが、今では僕の身体はこの通りだ。まだ生活に多少の不自由があるとはいえ、あの時と比べたら雲泥の差だ。……さっき、君に挨拶に来ていたローラ嬢も言っていた通り、君は、僕の人生に奇跡を起こしてくれた。初めて君に会った時は、一年だけの婚約という契約だと考えてくれて構わないと言ったが……僕は、あと何年も、できることなら何十年も、君と生きていけたらと願っている」


 ライオネルは、両目に熱を宿して、エディスの瞳をじっと覗き込んだ。


「オークリッジ伯爵夫妻や君の義姉にも告げた通り、僕は、生涯を共にするなら君以外には考えられない。まだ、こんな万全ではない身体の僕とでは、不安を感じるかもしれないが……改めて、君に伝えたいんだ。このまま僕との婚約を続けてくれないか?」

「ライオネル様……」


 エディスは、瞳に涙が滲むのを感じながら、真剣な眼差しのライオネルを見つめ返した。ライオネルは言葉を続けた。


「もちろん、僕との結婚は、僕の身体がもっと回復して、君の不安がなくなってからで構わない。でも、はじめに君に会い、僕が余命一年と宣告されていた時に約束したように、このまま一年が経った時、もし君が僕の元を去って行ってしまったらと思うと……気が気ではなくてね」


 多少の緊張を滲ませたライオネルに向かって、エディスは微笑み掛けた。


「ライオネル様のお言葉を、私がどれほど嬉しく思っているか、どのようにお伝えしたらよいのでしょう。私、ライオネル様のことが本当に大好きなのです。私も、お側にいたいと思うのはライオネル様だけですもの。……けれど、私が不安に思っているのは、別のことで……」


 エディスは、義姉のダリアの言葉を思い出しながら目を伏せた。


「ライオネル様の病は、このまま必ず完治されると信じておりますわ。……けれど、はじめにお伝えした通り、私は平民暮らしが長く、貴族としての、ましてや侯爵家に相応しいようなマナーも教養もございません。平凡な私とは違い、お美しい上に、貴族教育をしっかりと受けて来た多くのご令嬢たちも、お元気になられたライオネル様の元に集まってくることでしょう。それなのに、私が将来、ライオネル様の足を引っ張るようなことになってしまったらと思うと……」


 ライオネルは、エディスの柔らかな手をそっと握った。


「君のことは、僕が必ず守るよ。それに、貴族としてのマナーや教養などよりも、人間として大切なものがある。エディス、君にはそれがあるんだ。深い優しさや思いやり、そして強くて清らかな心が。君のように美しい心を持った女性は、ほかにいないよ」


 視線を上げてライオネルを見つめたエディスに、彼は続けた。


「僕は、ほかの誰でもない()()()()、この人生を共に歩みたいとは思えないんだ。……昔、まだ病を患う前からも、多くの令嬢たちを見ては来たし、ユージェニーとの婚約の話も上がってはいたが、その誰にも、一人の女性として心が動かされることはなかった。胸が締め付けられるほど愛しく思い、ずっと一緒にいたいと感じたのは、間違いなく君が初めてだ」


 エディスに腕を回して軽く抱き寄せながら、ライオネルは微笑んだ。


「エディス、僕には生涯、君だけだ。これは僕の我儘だとわかってはいるが、もし君の気持ちが僕にあるのなら、僕の言葉に頷いてもらえたらと思うよ」


 見惚れるほど美しいライオネルの腕の中に抱き寄せられて、明らかに胸が熱く跳ねるのを感じながら、エディスは降参してライオネルを見上げた。


「ライオネル様。本当に、あなたの隣に立つのが、これからも私でよいのなら……喜んで」

「嬉しいよ、エディス」


 ライオネルは歓喜の表情を浮かべると、軽く染まったエディスの頬に優しく口付けた。みるみるうちに、エディスの頬が熱を帯びて、さらに赤く染まった。


「それから、一つ、君に伝えておきたいことがあるんだ。……僕は長男ではあるが、あれだけの病を患い、今も回復途上にある状況で、グランヴェル侯爵家を継ぐことになるかはわからない。弟のクレイグと僕のどちらが家を継ぐかは、父の一存に任せることになるだろう。それでも構わないかい?」

「もちろんですわ。ライオネル様がグランヴェル侯爵家を継ぐのかどうかは、私にとっては問題ではありません。ただライオネル様のお側にいられたら、私はそれだけで幸せですから」

「ありがとう、エディス。大切にするよ」


 ライオネルは、さらに腕に力を込めてエディスを抱き締めた。青年らしく逞しくなってきた、ライオネルの腕の力強さに驚きながら、エディスは幸せに胸が満たされるのを感じて、そっとライオネルの腕に身体を預けた。

体調持ち直しました。皆様、たくさんの優しいお気持ちをありがとうございましたm(_ _)m

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