デビルアプリ
ある犯罪者がかつて、自分の悪意に満ちた計画を実行するために、あるアプリケーションを開発した。自分の脳波から悪意ある思考だけをぬきとり、実現可能性を思考する、時にそれは魔が差す瞬間に自分の思考をよみとり自動的に、犯罪を思考する、シミュレーションアプリだ。悪魔のアニメーションがうごくスマホ用のアプリだった。
それを模したものが改良されて、デフォルメされシュールでありえない悪意を再現するアプリケーションとして市販され、人々が自分の“悪意”をみて楽しむようになった。一般的な人々は、良心的であり、勤勉であったためそれは悪用されなかった。
そしてさらに改良されてある場所で利用された。任意のものだったが、それは刑期を終えた元犯罪者の思考をあらわにすることに使われた。スマートフォンはその頃発達し、ホログラムの3D映像を画面上に映せるようにしていた。彼らはスマートフォンのホログラムを使い、“アニメーションの悪魔”に彼らの代弁をさせ、彼らの中に“魔が差す瞬間”をいつでも他者が見られるようにした。元犯罪者をサポートする団体が、社会的な目的として彼らと対話するとき彼らの悪意ある思考を彼ら自身が暴露し、そうすることで、彼らに社会復帰の機会を増やし、雇用先を増やす計画だった。
確かにそれは成功したし、何より意外なことに彼らは人気ものになった。もし何らかの依存症であれば、対照法がある、悪魔に対処しさえすれば、彼らはごく普通のまともな人間だったからだ。
だがひとつ特異な事件もあった。ある元犯罪者の話がある。元ハッカーである。
彼はその知性と能力を買われ、服役後警察に協力していた。ある殺人犯を追っていた時のこと。殺人犯を港湾までおいつめたものの、殺人犯が警察官を人質にとった。彼も手助けにいったが、殺人犯は身代金を要求してきた。対応をどうするか、もめにもめているときに、ハッカーの彼は、今だけ自分の犯罪を許してくれとこうた。どういうことだ?ときくと悪魔に彼の、殺人犯の思考をさせるために、“悪魔の思考”を“開示”するプログラムを書き換えるという、そうすることであの殺人犯の思考を読み取るようにアプリを改変すると。警官たちは困惑した。彼はもともとハッカーであり、人殺しこそしないがもし彼に魔が差したら現場が混乱する。結局警官たちはイエスをいえずにいた。刑事の中には彼を信用すべきだというひともいた。彼には家族同然の人々がいて、その証拠に彼はむなもとにその写真をいれたペンダントをつけていると。警官たちが右往左往して、結局身代金を渡したあとに追跡するという形におちつく。
しかし、その影で例の元ハッカーの彼は独断で、その場で悪魔を魔改造した。つまり自分の知的な能力を使い、悪魔のリミッターをはずし、犯罪者と同じ思考をさせたのだ。刑事の一人がそれに気づいたものの、それを黙って見届けていた。その刑事は、もともと彼と相性が悪く彼を煙たがっていたのだが、その日だけは彼の真剣なまなざしと、事件に対する熱意から、彼の邪魔をせず、彼が裏切らないように見守っていた。彼がアプリを起動するとアプリは時折ホログラムを起動させて、刑事はいぶかしくおもったが、しかし、それでも彼の熱意を信じて彼から目を離さずその場で見守っていた。ハッカーの彼はというと、実は心の奥底では迷っていた。身代金を手にすれば、自分はほかの国で自由に暮らせるかもしれない。そんな時に頭をよぎったのは、服役からもどってきたとき暖かく迎えてくれた職場の事だった。アプリを利用しながらの関係ではあったがそれでも元犯罪者に接すると思えないほど、親身になってくれた。彼の胸元にはペンダントが光る。いつだって知的な彼ならアプリをハッキングすることはできた。だがそれでもしなかったのは、このペンダントのなかに、温かい家族のような職場の写真があったから、そしてそれは、家族さえ裏切り続けたかつての、犯罪に依存していた自分から自分をかえようと誓った服役後の自分への変化の証だった。デビルアプリはかつて失った彼の友人ににていた。子供の頃から、二人でものを分解しては改造していた友人。ハッカーになってもホワイトハッカーだった二人。だが友人が不慮の事故にあい、ハッカーはかわったのだった。
結果からいうと……彼のデビルアプリの思考によって悪人の逃走計画は日の下にさらされた。元ハッカーは、しっかりと悪魔の言葉を刑事や警官たちにとどけたのだった。そして殺人犯が身代金をてにして闘争の間際、彼はそれでも人質を話さなかった殺人犯の行動を分析し、彼が曲がるであろう港湾の曲がり角を、彼が通るであろう直線を分析し、彼がするであろう拳銃での応戦を、見事あててみせた。
殺人犯は逃走の手をことごとく警察車両に阻まれ、銃弾をことごとく盾で防がれた。そうして殺人犯は袋小路においつめられ、結局捕まったのだった。殺人犯が捕まった後、元ハッカーは現場の警察官にその場でハッキングの罪をとわれたが結局、のちのち殺人犯の逮捕に協力したことで無罪とされた。
事件の以後、彼にどういう思考をしてどういう改造をしたのかと、ある雑誌記者が質問したところ彼はこう答えた。
『かつて殺人犯に塀の中であったことがある、彼の言動や行動をよく監視して、それを機械に学ばせただけさ、俺が犯罪者だったらって思考もいれて』
悪人正機という言葉があるように、悪意ある人間は悪意ある人間に対して、同程度に彼らの思考を先読みし悲劇を防ぐ力持っているのかもしれない。