ラスボス系お姉さんの部屋にはエンディング後の隠し扉がありました
ケーキを食べながらエアロバイクに乗るお姉さんが好きです。
「こわっぱ! なかなかしぶといのぅ!?」
「誰がこわっぱですか、誰が……」
ホコリだらけの段ボールを開け、出て来た大量のポケットティッシュに眉をひそめる。
「これ……もしかして……」
「おっと、貴様もヤツの後を追いたいようじゃのぅ!」
どう見てもティッシュ配りのバイトをサボった形跡に、俺は深いため息を漏らす。
「どうしてこうも片づける端から物が増えるんですかね?」
「我が増やした傍から貴様が片づけてしまうからじゃろ?」
「片付け止めます?」
「すみません私が間違っておりましたごめんなさい手伝って下さいませおなしゃす」
あまりに物が多すぎて、大家さんから「出て行くかい?」と言われたお姉さんが俺の部屋を訪ねてきたのが今から1時間前の話。
因みに前回片付けたのは一週間前。
何故にそのような速度で物が増えるのかは謎である。
「未開封の芳香剤が五つもありますが?」
「安かったから……」
「開封済みのジャムが三つもありますが?」
「その日の気分で……」
「12巻が何故三つも?」
「買ったのを忘れてまた買っちゃった……」
部屋の物を一つ一つ分類していくと、お姉さん的には『そのうち使う物』『なんとなく』『忘れた物』の三つになるようだ。
しかし個人情報が書いてある葉書やDMの類いは終われば直ぐにシュレッダー行きなのか、落ちている物が一つも無い。かわりに大量の断裁片はあるが……。
そして何より、シャツ等の服が大量に部屋にあるにもかかわらず、下着の類いが一つも見付からない……どうやらお姉さんのガードはかなり堅いようだ。まぁ、ある意味そこだけはしっかりしていると言えよう。
「勇者よ、夜は何を食べる?」
出前のチラシを片手にお姉さんが電話の仕草をした。
「あー、ウチに実家から色々届いたので、ココで食べませんか?」
「良いのか?」
一度部屋に戻り、冷蔵庫からイカの一夜干しとシシャモを取り出す。ご飯と言うよりは酒のつまみだ。
「どうです?」
「ほほぅ? 悪くない。悪くないのぅ!」
嬉しそうに冷蔵庫からビールを出すお姉さん。
フライパンを二つ出し、シシャモとイカを同時に焼いてゆく。
もうこうなったら片付けは終了も同然だ。
そもそも一日で終わるような代物でも無く、やる気も既に失せている。
「貴様等のハラワタを喰らい尽くしてくれようぞ……!!」
「はいはい」
シシャモに向かってイキるお姉さんと乾杯し、生きている喜びを喉から全身へと震わせた。
「苦い……」
「そりゃあ、ハラワタは苦いですからね」
片付けても部屋の半分が埋まった空間で、何とか酒盛りをする二人。
お姉さんが日本酒を取り出し、よりペースが進む。
「賞味期限が去年ですけど」
「誤差だよ誤差」
日本酒を何杯か空けた後、お姉さんが次第に酔い始めてきた。
「お風呂入る……」
「──えっ?」
いきなりお風呂へ向かうお姉さん。
扉の閉まる音とシャワーの音が聞こえ出すと、俺は良からぬ考えに支配され始めた。
俺が居るのに無防備にもお風呂へ入るなんて、まさか俺の事……いやいや百歩譲ってアレだとしても、流石に鍵くらい閉め──そうだ……このアパートの風呂は鍵無しなんだ……あれ? もしかして……誘っていらっしゃったりなんかしちゃったりして? いやいや、流石に酔っているだけだろなんてもしかしたらもしかしてそんなことあるわけがあったりなかったりいきなり扉が開いて『……一緒に入らない?』なーんてあったり無かったりするわけがあるかもしれないし夢や希望を持つことは大事って先生が言ってたから思い切ってこっちからお声掛けするのもまた一興かなぁって……ねぇ?
「あがった……」
「終わってたぁぁぁぁ!!!!」
バスタオルを頭にかけたお姉さんが俺の隣に座る。
そして無言で寝転がり、俺の太ももに頭を乗せた。
「……お、お姉さん?」
これはもしかしてもしかするのか?
「ベッドは埋まっておる」
すぐ後ろのベッドに目をやると、謎の健康器具が絶妙なバランスでベッドを支配していた。
「あ、あちらの部屋、は……!?」
隣の部屋を指さした。だがどう見ても人が休めそうなスペースは無い。
「勇者よ……礼を言うぞ。貴様のおかげで久方振りに横になれたぞ」
まだ一週間しか経ってないんですが?
それよりこの一週間どうやって寝てたのか、そっちの方が気になりますです。はい。
「そう言えば、隣の部屋、ちょっとしたクローゼットみたいなのありましたよね?」
「う、うん……?」
目を閉じたお姉さんの横顔をチラリと見るも、恥ずかしくてすぐに視線を戻した。
「明日そっちも片付けていいですか?」
「ならぬ」
即答だった。
「何故です?」
「……は、はじゅかしぃ……」
どうやらトップシークレットのようだ。お目当てのブツはそこにあるに違いない。
「明日片付けますね?」
「にゃらぬぞ!?」
恥ずかしさと酔いで呂律が回ってないお姉さんが、慌てて起き上がる。太ももにはまだ感触が残っていた。
「あの扉を開けたいのなら、私を倒してからにするのじゃ……」
「つまり、エンディングの後ですね?」
お姉さんが体育座りをした。
シャツの中に膝を入れ、顔を突っ伏した。
表情は見えない。
「……うにゅぅ」
──俺は『ガンガンいこうぜ』に作戦を変えた。
立ち上がり、紐を引いて電気を消す。
座ろうとしてベッドにお尻が当たった。
謎の健康器具が崩れる音がした。
頭に何かが当たった。かなり強く。
──目が覚めると朝だった。
「あ」
お姉さんが部屋の片付けをしていた。
「勇者よ、あそこで死んでしまうとは何事だ……」
お姉さんの涼しげな笑顔。
俺は恥ずかしくて「……ッス」としか返事が出来なかった。